第6話 三女ミカの場合
「木下 正明さん、私たち五つ子を花嫁にしてください」
だ、大丈夫……。いつものセリフ……。き、緊張しない……。
あっ、こっち見てる……。
「キミィ! いやぁー、キミ、最高だよ! 自分は監督やっててさ、アニメなんだけどね! キミのような女の子探してたんだよ! 今ね、アニメ制作とモデルになる女の子を同時に売り出そうという企画があってね、キミ、ヒロインにぴったりだよ! どうかなぁ? この木下正明、絶対、悪いようにしないから!」
えっ? 何言ってるのかわからない……。
「あの、すみません、正明様! 私の話、聞いていただきたいのですが」
イチノ姉様、ありがとう……。
「何言ってんのさ、自分は妻子持ちだから! キミらを嫁にするわけないでしょ!」
お嫁さんとお子様いるの?
「ダメです、正明様!」
おじ様がミカを掴もうとしている。
「あれ!? 触れない?」
触れないのに……。
「ちょっと、おじさん! その子に手出したら、容赦しないわよ!」
ニッキィ姉様、頼りになる。
「いや、ゴメンなさい。ちょ、ちょっと両手を掴もうとしただけで、すみません! もう絶対に触りません!」
「それならいいわ。とりあいず、落ち着いてちょうだい!」
「はい……」
おじ様が、シュンとした。
さすがニッキィ姉様。助かります。
「どうするの、イチノ? 長女のあんたが担当よね?」
ニッキィ姉様が腕組みして、イチノ姉様を困らせてる。
「仕方ないですわ」
えっ? 待って、イチノ姉様。ミカが……。
「イチノネェ、待って。ミカネェが何か言いたそうだよ」
イツハさん、ありがとう。
「あ、あの、ミカがお話する。あの人、悪い人じゃない……」
「ミカさん、大丈夫?」
コクと頷く。
「わかりました。今回はミカさんが担当です」
「ありがとう、イチノ姉様」
おじ様がこちらを不思議そうに見ている。
「あ、あの……」
「ハハ、ゴメンね、さっきは。つい、手を握って説得したくなっちゃってさ」
「お、お願いがあります……」
モジモジとおじ様を見る。
「おー、いいよ! 何でも言って!」
モジモジ。
「魔王と戦って……、くれませんか?」
あっ、おじ様の目が点に……。
「ヨシッ、わかった! おじさんに任せろ! アニメ制作監督歴10年! 節目としてちょうどいい!」
「マ? さすが、おじ様キラーのミカちゃん。ガチ秒殺!」
おじ様に丁寧にお辞儀して、感謝の意を伝える。
「ありがとうございます」
「キミ、本当に心の清い娘だね。おじさん、まいっちゃったよ。ハハ、こんなおっさんが魔王退治に役立てばいいけどね」
「じゃ、後はボクとシィネェの二人で説明するよ。ミカネェも一緒にいてくれれば、それでいいから」
シーちゃんさんとイツハさんが、いつもフォローしてくれる。二人とも優しい妹たち。
「しかし、キミらも、なんというか、なかなか刺激的な格好だなぁ! そのコスデザ、うちのオリアニで使ってもいいか?」
「ニャハハ、奥さんいるんでしょ? エッチなこと考えちゃダメよぉ~」
「当たり前だ! 自分にとって家族が一番大事だ!」
「監督ちゃん、カッコいぃー! そこがよき!」
「シィネェ、CP期待できそうだね」
「まぁまぁ、そう急かすなよ。まずは君らの自己紹介してくれ」
「そうだね。ボクは五女のイツハ。こっちのピンク娘が四女のシィネェ」
「シーちゃん、って呼んでねぇ~、ヨロォ~」
「お、おぉー。生粋のギャルだな、いい逸材だ」
「そして、後ろの真面目な方が長女のイチノネェ、怖い方が次女のニッキィネェ」
あっ、ニッキィ姉様が睨んでる。
「おい、後で怒られるだろ、その姉様に。謝った方がいいと思うぞ!」
イツハさんがおじ様にウインクして返す。
「そして、監督のお気に入りが、ミカネェ」
おじ様がこっちを見て、ちょっと照れたように頭を掻いてる。
「ハハ、実を言うと、うちの娘に少し似ててね。大きくなったら、彼女のようになるのかなと思ってしまって、つい興奮したんだ。すまない」
首を横に振って、モジモジ。大丈夫です。
「うちの娘、ミサ、5歳。すごい恥ずかしがり屋でね、そこがそっくりで」
シーちゃんさんとイツハさんが笑顔になる。
「で、このおじさんに何をしろと?」
「人類を救ってほしいのですわ」
イチノ姉様の声が後ろから聞こえてきた。
「ちょっと待ってよぉ~、今すぐに、CP値計測するからぁ☆」
シーちゃんさんが魔法でCP測定器を出す。すぐにおじ様に向けて計測。
「す、すっごーい! 3,000万CP!」
「その、CPって、なんだね?」
イツハさんがこっちを指して説明するよう促している。慌てて説明する。
「チ、チートポイントです」
おじ様がこっちを見た。
「お、面白い設定だ。さぞかし強いんだろうね、こんなおじさんでも」
「平均値がだいたい1,000万CP。それが普通だけど、監督の3,000万CP、強い方だよ」
イツハさんが素早く説明した。
「そりゃ良かった。それじゃ、頑張んないとね、人類を救うために」
おじ様がもう旅立とうとしている。そういう決意の気持ちが伝わってくる。
訊かなきゃ!
「あ、あのっ……。どうして、あの本を?」
「あー、『転生したら』っていうやつね。自分はアニメ業界人だし、あの手の本はいつもチェックしてるから。それに、他の社員も知りたがってたし。あの都市伝説って本当だったんだね」
おじ様が目の前に近寄ってきた。ミカの両肩を掴もうとしたけど、マズイという表情を浮かべて両手を下ろす。
遠慮したのがわかって、こちらからフワッと抱き締める。
「いいのかい?」
「はい」
おじ様の胸に顔を埋めて、小さく答えた。
「魔王というのは、例の予言と関係してるのかい?」
ゆっくりと頷く。
「そうか、なら、地球を守んないとな。家族のためにも」
ミカたち五つ子天使の行為が何なのか、おじ様はもう悟っていると感じた。
その後、イチノ姉様が必要なこと全て説明すると、おじ様は納得した表情で“あちらの世界”へと送り出されていった。
あぁ、どうか神様、あの人が無事に帰ってこられますように。