第5話 四女シークンの場合
「マ? またウチなん?」
五姉妹円陣会議にて、今回主人公扱いとなっているジュンちゃんこと、標路 準の担当がウチに決った。
ぴえん。
それと、さっきからウチのヒップ辺りに視線を感じる。
後ろを振り返ってみると、そのジュンちゃんがベッドの上で拗ねた表情を浮かべ、こちらを見ていた。
はぁー、と嘆息。
「ゆーて、おけまる☆」
言いつつ、円陣を組んでいた残りの姉妹にオッケーサインを送った。
ジュンちゃんに向かってヤッホーと手を上げ、そのまま彼のもとへと歩を進める。
「ジュンちゃ~ん、今の見てた? ぶっちゃけ、もうわかるよねぇー。シーちゃん担当になりました! テヘッ」
ジュンちゃんが訝しげにウチの顔を見ている。かまわず彼の隣を陣取り、二の腕同士をくっつけた。
ジュンちゃんが顔を赤く染める。
「ジュンちゃんのお役目なんだけどさぁー、暗黒大魔凶界に行ってぇ、暗黒大魔凶王“ダイサイヤク”をやっつけちゃってほしいわけ。サクッと! もう、メッチャ余裕だし?」
へっ? という表情のジュンちゃん。
「なっ、なにっ、そのアクション大魔王って?」
「全然違うしぃ! 暗黒大魔凶王“ダイサイヤク”なんだが?」
両手を上げ、大きく広げてからジュンちゃんを抱擁。
得意のマシュマロ攻撃どぇーす! テヘッ。
ジュンちゃんが顔を真っ赤にして、デレデレと鼻の下を伸ばす。効果抜群!
この、どこにでも棲息しているオタク系健康優良日本男児がしばらくフリーズした後、誤魔化すように天井を見上げて急にガッツポーズ。
「うっしゃー! ついに俺様つえぇー時代到来だぜ! で、俺様のチート能力って何よ? それって最強?」
「ニャハハ、オモロくてよき! んー、ジュンちゃんはねぇ……」
と説明しながら、両手の平を上向きにして体の前に差し出す。すると、タブレットのような機械が手の上にポンッと出現した。
「うぉ、ビビった! 魔法かよ!」
「天使の魔法ってカンジ? これは、んー、CP測定器ぃ、でヨロ!」
「チートポイント? ぬぉー、その響き、いいっスねぇ! で、俺は何ポイントさぁ? 最強ッスよねぇー、そこんとこ頼んまスぜぇ!」
「ニャハハ、焦らない焦らない。せっかちな男は嫌われるんだゾ!」
「リョ!」
「1チートポイントはねぇ、ラノベ主人公一人当たりの平均チート能力値のことなのね。で、ジュンちゃんはぁ~」
CP測定器をジュンちゃんに向けると、ピッと測定音が鳴る。
「はいはい、出ましたぁ~。1,000万CPどえーす!」
「い、いっせんまんちーとぽいんとぉぉぉぉー? いっせんまんんんんんー? ラノベ主人公1,000万人分? ガチか?」
「ガチのガチ! というわけでぇー、変な能力があるとかじゃなくてぇー、ぶっちゃけ、真っ向勝負で殴ればいいのよ」
ジュンちゃんが嬉しさMAXでウチに抱き着いてくる。残念ながら肉体を素通り、勢い余ってベッドに寝転がった。
振り返りつつ、恨めしそうにこちらを見るジュンちゃんの顔が、ちょっちエモい。
さぁーて、これから最後の仕上げ。ベッドから降りて、残りの姉妹がベッドの周囲に集まってくるのを待つ。
最初に彼がベッドで目を覚ました時と同じ状態で並んだ。
「では、標路 準様……」
「ちょっと、待ったぁぁぁ!」
締めくくろうとした長女のイチノちゃんを、ジュンちゃんが止めた。
「いや、もう次の展開わかってんだけどさぁ~。君らも一緒には来ないんスか? あっちの世界へ。なんちゅーか、俺の花嫁だよね? 君たち全員」
「一緒に行くわけないじゃない! なによ、今さら!」
次女のニッキィーが不機嫌に答える。
「いやぁー、まぁー、何と申しますかぁー、そのですねぇー」
「はっきりしなさいよ、男なんだから!」
ヤバァ! 始まっちゃう、いつものニッキィー節が!
「ちょっと、ウチが担当なんだから、やめてよね、ニッキィー!」
「わかったわ。それじゃ、早くしなさい」
「ご褒美がほしいのよねぇー、ジュンちゃん!」
「それな」
ジュンちゃんがウチを指差す。
「おけまる☆」
ウチが返すと、三女のミカちゃんが恥ずかしそうに、キャ☆ と声を出し、両手で顔を覆う。そしてモジモジ。
こりゃ、やめんかぁー! ウチの獲物、横取りせんといてぇー!
「安心して。無事帰ってきたら、たっぷりご褒美あるから。ほら、別世界に保管してあるジュンちゃんの肉体に戻れるしぃー、何でもできちゃうよ。ウチら、ジュンちゃんの花嫁だし」
ゴキュン、と生唾を飲み込む音が響く。
「そ、そうか、ならいいんだ。で、あっちの世界に行ったら、俺は生まれ変わんの? 赤ちゃんから人生再スタートなわけ?」
「いいえ、赤ん坊からやり直しはありません。“転生”というのは、言葉の綾と申しましょうか、今の姿を維持することも、好きな姿に変わることも、思いのままですわ」
イチノちゃんが丁寧に答えた。
「タイトル詐欺じゃんかよ! 現実世界じゃ、読者から総スカンくらうけどな」
と言いつつ、マジマジとウチら全員を眺めている。
「まぁ、ハッピーハーレムと俺様超絶つえぇーなら……」
突如、ベッドの上でスクッと立ち上がり、両手を腰に当てて仁王立ち。
「いいぜ、俺のままで。要するに、これから異世界に飛ばされて、そのリアクション大魔王倒しゃいいんだろ? 俺様は1,000万CP! 超余裕だぜ!」
「せやなぁ! ウェーイ!」
ウチが右手を高く上げると、残りの姉妹も合わせて拳を上げる。
「ゆーて、暗黒大魔凶王“ダイサイヤク”なんだけどね」
と言ってウインク。
ジュンちゃんが右手を上げグッジョブサイン。
五姉妹全員が両手を上げると、彼の姿が光に包まれる。そして、その姿がどこかへと吸い込まれるように消えていった。