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第10話 令和X年7月5日

 CPチートポイントは、その人が人生で積んできた“徳”によって決まる数値。善行を行えば増え、悪行をすれば減る。常に変動するもの。

 CPがゼロになると、生きていくための精神力、つまり生命力そのものを消失し、死を迎えることになる。


 私たち天使の役目は、合計1兆CPの戦力をかき集めること。それは五人一組というグループ単位に課せられた目標。

 天使雲界には500人の天使がいて、五人一組が100グループ存在する。


 つまり、1兆CP×100グループ、総計100兆CPの戦力が必要とされている。

 なぜなら、暗黒大魔凶王“ダイサイヤク”の戦力がまさにその100兆CPだから。この数値より低ければ、人類は絶滅してしまう。


 私たち五人姉妹の目標は1,000万CP×1万人という計算だった。私たちが昨日までに集めた戦力合計値は2,500億程度。目標のたった4分の1。


 他の天使組がどのくらい成果を出しているか知らされていないけど、少なからず、日本担当の私たちが足を引っ張るわけにいかない。


 正直で、真面目で、優しくて、正義感にあふれる少年、一郎君。世界一の戦力になりうる1兆CP保持者。

 彼がもし“人類救済戦士”として闘ってくれたなら、おそらく総計100兆CPにも達すると思う。


 しかし、彼抜きでは勝利を望めない。そして彼こそが、人類の、地球の最後の望みなのだと確信している。例えそれがルール違反になろうとも、彼の力が絶対に必要なのだから。


 でも、どうすればいいかわからない。狼狽うろたえている私は長女失格。


 戸惑っていると、妹たちが集まってきた。尻餅をついて痛がっていたニッキィも腰をさすりながら歩いてくる。


 しっかりしなさい、イチノ! 長女でしょ!?


 妹たちが長女の私を叱責する。その気持ちが伝わってくる。


 私は、彼の困惑する顔を見ながら決意した。日本を、世界を、守らなきゃ!


 五人が横一列になると、四女のシークンさんが口を開く。


「ゴメンねぇ~、一郎ちゃん、ウチの長女が迷惑かけちゃって」


「いえ、特に迷惑とかではありません」


「ホント、メッチャいい子ねぇ~、抱き締めてもいい?」


「いえ、困ります」


「好きな娘がいるの?」


 とても真面目な顔をしていた少年が、急に頬を赤くして顔を逸らした。


「あ~、いるんだぁ~、両想いでしょ」


「いえ、相手の方が僕をどう思っているかわかりません」


 顔を赤くしたまま、チラチラと私の顔を見る。

 すると、五女のイツハが私を指差しながら話し出す。


「ボクらの長女、イチノっていう名前なんだ」


「イチノ姉さん」


 少年が益々顔を赤くして、私の名前を呼んだ。

 突如、胸の中で何かが弾けた。彼のことが猛烈に愛おしくなって、つい、力一杯抱き締めてしまった。


「好き、好き、好き、大好き!」


 自分でも何言っているのかわからない。

 それでも、彼に対する感情が一気に放出され、無意識に思いを口にしていた。


 ムギュっと私の胸が少年の顔を押さえつけている。それでも愛おしくて、抱擁を止められない。


「あの、い、息が……、お姉さん」


 ハッと気付いて、彼の顔を離した。顔を真っ赤にしたままプハァ~と息を吐き出し、呼吸を荒げている。

 しばらく様子を見ていると、彼が急に真面目な表情に変わった。


「イチノさん、僕も好きです。お母さんと呼んでもいいですか?」


 私も含め姉妹全員が、はっ? という反応をしめす。お互い顔を見合わせて、笑みをこぼした。


 そうだったのだ。彼は、私に亡き母の面影を重ねていた。ただ、それだけのことだった。


「はい。私は、あなたの母になります」


 穏やかに返事をした。


 私自身も気付かされた。

 私の中に眠る母性本能が刺激され、彼の純粋で真っ直ぐな性格、その姿に愛おしさを感じずにはいられなかったと。


 そして四人の妹たちも口を揃えた。


「アタシも……」「ウチも……」「ミカも……」「ボクも……」


「「あなたの母になります!」」


 姉妹全員で一郎君を抱き締めた。

 彼も受け入れてくれたようで、少し涙目になりながら笑顔を向けてくれた。


 私たちは一郎君に約束した。

 無事戻ってこられたら、必ず大谷一家の母親代わりとして会いに行くと。一緒に夕食を作ったり、休日を過ごしたり。一郎君が成長し、一人の大人として旅立つ時まで。


 妹さんは近所の人に預けているから、二日間ぐらいはなんとかなると判断し、彼は人類を救うという戦いに応じてくれた。

 それに人類が絶滅した場合、どの道、お父様や妹さんを守ることはできないのだから。


 彼を人類救済戦士として異世界へと送り出す。


 一郎君の表情は凛々しく、私たちの期待に応えるかのようにしっかりと前を向いていた。その姿は、誰よりも若いのに、誰よりも頼り甲斐を感じる。



 ◆   ◆   ◆



 明日は、令和X年7月5日。

 “人類が絶滅する”という審判の日。それは、天使が仕える神の預言。


 そして今日こそが人類絶滅阻止限界点。

 今から、その最終決戦が始まる。


 今日までに集まってくれた世界中の人類救済戦士が、暗黒大魔凶界で暗黒大魔凶王“ダイサイヤク”と戦って、その凄まじい戦力を削ってくれた。


 “ダイサイヤク”を消滅させることができれば、戦死した全ての人類救済戦士は天使の力で生き返り、元の現実世界に戻っていく。

 もし倒すことができなければ、人類は絶滅する運命。


 残った敵戦力を、私たち500人の天使が“地球防衛天使”として戦い殲滅せんめつする。そうやって人類を救済する計画。


 私たち五人姉妹は今、天使雲海の“天使の白館”にいる。


「みんな、準備はいい?」


「もちろんよ、イチノ」「はい!」「ウチもオッケー!」「いつでも大丈夫!」


 妹たちが一斉に答えた。


「地球防衛天使キューティ・エンジェルス、変身!」


「ちょい、待ち!」


 四女シークンさんが私を止めた。


「ガチでキューティ・エンジェルスにするん? もっと、他があるじゃん」


「他にいい案がありますか?」


「ニッキィズ・エンジェルスで、決まりね!」


「ボクは、ミカミカ・ホーリーハニーを推すよ」


「ミカミカって、ミカしかいないんだが? 却下、却下! やっぱ、ルミナス・ルミナス・るるるるるぅ~、でしょ」


「それ、単なる呪文じゃない、ダメよ! ニッキィズ……」


「黙らっしゃい!」


 私は一喝した。妹たちが黙る。


「アルバス・セレスティア」


 沈黙の中、三女のミカが照れながら発言した。


 姉妹が顔を見合わせる。


「いいんじゃない?」


「イミフなとこが、よき☆」


「ボクは賛成かな」


「アルバスはラテン語で“白”、セレスティアは“天空の”という意味のセレスティアルを名詞風に変えてるのね。私も気に入りました」


 ミカが嬉しそうに頷く。みんなも笑みを浮かべた。

 五人姉妹全員納得。


「それでは改めまして、行きます」


 妹たちの顔を見る。全員が決意に満ちた表情。


「地球防衛天使アルバス・セレスティア、変身!」


 バトルコスチュームに身を包み、各々が思い思いのポーズを決める。


 いざ、最終決戦の地へ!



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