【第6話】再会と決意
──あの夜、すべてが変わった。
Project Mnemosyne脱出作戦は、結果的に「事故」として処理された。
研究施設は爆発、数名の研究員が死亡、逃走した個体Mn-13の行方は不明。
クロエ・ナガセは「殉職」と記録され、その詳細は公にされることはなかった。
生き残った者はふたり。
──リタと、レオ。
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クロエの遺志を受けて脱出に協力したレオは、リタを連れ出し、国家の監視網をかいくぐって逃げた。
だがその過程で、リタは頭部に銃撃を受け、意識を失った。
「……助けてくれ。こいつの記憶を……クロエのことだけ、消してくれ」
レオは、地下のブローカーを頼り、闇の記憶医療技術者に接触した。
「記憶の削除に副作用はあるが……今なら可能だ。だが一度消したら、二度と戻らんぞ?」
「いい。頼む。あいつには……これ以上、背負わせたくないんだ」
そして、リタは目覚めた。
クロエのことを知らず、Mnemosyne計画のことも忘れた少女として。
だが、どこか空虚なまま。
名前だけは口にできた。レオが教えたのか、それとも――残っていたのか。
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「……気がついたら、あなたがいて。私には銃があって、ただ戦っていた」
現在。
リタは静かに、レオに向き合っていた。
「クロエを忘れていたのは、あなただけのせいじゃない。私自身が、記憶を“捨てたい”ってどこかで思ったのかもしれない。
でも、今はもう違う」
レオは黙って聞いていた。
「私は、あの人から名前をもらった。“人間”として、世界に立つための名前を。
だから、過去を取り戻したい。自分を取り戻したい」
レオはうなずいた。
「……ああ。だったら、俺はもう止めない。
クロエの願いも、お前の願いも、背負って生きていく」
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ふたりは、新たなブローカーに接触する。
古い軍事データの中に、「ミューネモシュネ」の名を見つける。
そこには、国家機密級の記録が多数存在していた。
そして、ひとつの名前が浮かび上がる。
──アイン。
「こいつが……プロジェクトの責任者……?」
「会わないといけない。全部、知るために」
銃を背負い、リタは立ち上がる。
「今度は、自分の意志で戦う。
私の“記憶”を、誰にも奪わせないために」