【第14話】 対峙
眩い光が収まり、立ち上がるリタの姿が制御室に浮かび上がった。
足元には破損したケーブルが散乱し、制御卓の一部から煙が立ちのぼっている。
だが、ミューネモシュネ中枢そのものはまだ完全には停止していなかった。
「……戻ってきたか」
アインは冷静にリタを見据える。
「想定以上だ。意識領域での統合失敗……まさか君が、原初モデルの影と接触するとは」
「私は、あの中で答えを見つけた。
記憶は、誰かに“整備”されるものじゃない。
人が生きる限り、どんな記憶もその人の一部なんだ」
「感傷的だな、Mn-13。君はもっと精密に作られたはずだ」
アインが手をかざすと、室内の自動防衛システムが作動する。
数十体のドローン兵器が四方からリタとレオを取り囲む。
「最終フェーズに移行しよう。君を再調整し、完全なる“鍵”として──」
「させるか。」
レオがよろめきながら立ち上がり、リタの隣に並ぶ。
その手には、自動小銃。表情は冷静だった。
「リタは、もう“鍵”じゃねえ。“希望”なんだよ」
「……戯言だ」
アインが静かに指を鳴らす。
ドローン群が一斉に火を吹いた。
⸻
閃光と轟音の渦中、リタは走った。
左手にユリシーズ、右手にレメゲトン。
二丁の銃が火を噴くたび、敵のセンサーが焼き切れ、装甲がはじけ飛ぶ。
「レオ、後ろ任せた!」
「任された!」
背中を預け合いながらの連携。
研ぎ澄まされた呼吸、交差する射線──
「この感覚……これが、私が積み重ねてきた“記憶”だ!」
「くっ……!」
アインの顔が初めて歪んだ。
リタは跳躍。ドローンの群れを縫って宙を舞う。
ユリシーズが火を噴き、レメゲトンが追撃する。
瞬間、電磁妨害弾がアインの周囲に張り巡らされた防壁を破る。
リタが地に降り立つ。銃口は──アインに向けられていた。
⸻
「君たちは、私の最高傑作だった」
アインの口元が、皮肉めいて笑う。
「だからこそ、こうなることも、どこかで期待していたのかもしれない」
「そんな感傷、いまさら聞きたくない」
「では……撃て」
リタは静かに、トリガーに指をかけた。
「さようなら、アイン。私は、あなたの“器”じゃない」
──二発の銃声が、すべてを終わらせた。
アインの身体が崩れ落ち、制御室全体に警告アラームが鳴り響く。
《中枢デバイス機能停止。プロジェクト、完全停止》
⸻
沈黙の中、レオがリタの肩に手を置く。
「これで……終わったな」
「うん……けど、まだ“始めなきゃ”いけないことがある」
リタの視線の先には、今なお稼働を続ける中継ターミナル。
そこには、記憶売買システムと接続された無数の記憶データが保存されていた。
「次は……この記憶に、区切りをつける」