【第12話】 鍵と扉
ミューネモシュネ中枢を離れたリタとレオは、最奥の研究棟へと足を進めていた。
そこには、いまだアクセス制限された扉が一つ──
《Mnemosyne Main Authority》と刻まれたプレートが取り付けられている。
生体認証。
リタが指を置くと、音もなく扉が開いた。
現れたのは、ガラス張りのドーム状の制御室。
その中央に、ひとりの男が立っていた。
白衣の裾を揺らしながら振り返る。
整った顔立ち。冷徹な眼差し。
「やっと来たか、Mn-13」
アインだった。
⸻
レオが即座に銃を構える。
照準を定めながら、一言。
「貴様が、アイン。」
リタはゆっくりと一歩前に出た。
「あなたが、“Project Mnemosyne”の責任者ね。
私の“真実”を教えて」
アインは小さく笑い、制御端末に手をかざした。
ホログラムが部屋いっぱいに展開される。
映し出されたのは、膨大な実験記録、被験体データ、国家機密の設計図。
そして中央に浮かぶ一つの構造図。
──“真のミューネモシュネ”。
⸻
「私は、記憶に縛られない人類を作りたかった」
アインは語り出す。
「人は、過去に囚われ、感情に翻弄される。
それこそが、進歩を阻む最大の要因だ」
「私は“感情を排し、合理のみで支配された社会”を実現するため、記憶を完全に統合・制御できるシステムを開発した」
「そして、最後のピースが“君”だ」
リタとレオが身構える。
「ミューネモシュネの力は完成した。
だが、それを“安定して扱える器”が必要だった」
「そこで私は“リタ”を作った。
感情を持ち、記憶に耐える強度を持ち合わせた唯一の存在──
その上で、君の二丁の銃と《レメゲトン》。
この三つが揃えば、世界中の人間の記憶にアクセスできる」
「……そんのことのために」
「そんなことではない。人々を救う最終手段だよ。」
アインの言葉に、リタの手が震える。
⸻
「それでは、選んでもらおうか。自らミューネモシュネと統合し、“鍵”として完成するか──」
その瞬間、天井が開き、ドローン型兵器群が一斉に飛び出してきた。
「あまり手を煩わせないでほしいんだけどね。」
レオが咄嗟にリタを庇い、銃撃を始める。
敵の火線が交差する。
「くっ……!」
リタも二丁の銃を構えるが、ドローンの数が多すぎる。
押し込まれ、銃が弾かれる。
そして──
「リタ!!」
レオが叫んだ直後、リタの身体が電磁捕縛に包まれ、意識を奪われた。
レオは最後の力で敵の一体を撃ち落としたが、背後からの攻撃に膝をつく。
「……クッ、リタ!………リタ…っ」
彼の視界が暗転していく。
⸻
暗闇の中、冷たい何かがリタの意識を包んでいく。
「ミューネモシュネAI、インストール開始──」
人工音声が響く中、
リタの意識は、"記憶の迷宮”へと沈んでいった。