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【序章】記憶は、誰のものか
かつて、「忘れること」は、人間の弱さとされた。
だが時代は変わり、今はそれを“幸福のための選択”と呼ぶ。
国家が記憶を管理する社会。
必要な知識は植え付けられ、不要な苦しみは削除される。
富裕層はカスタマイズされた理想の人生を「記憶」として手に入れ、
貧困層の記憶は、闇市場で切り売りされる。
記憶を盗む者。
記憶を操る者。
記憶を武器にする者。
これは、“自分の記憶”が自分のものではなくなった世界で──
たったひとつの問いに向き合う少女の物語。
──私は、誰だったのか。