サイコロゲーム ~桃より愛をこめて~
関 家守らとともに八俣の奴隷として紆余曲折を経て、この地に捕らわれた男がいた。
『針本 雀松』
生まれながらに美貌を持ち、一部の権力者に食い物にされてきた美青年。
彼が辿る不運の人生、そして終着点。
惟神収容所に捕らわれることになった彼は、桃から凄惨な侮辱を受け続けることになる。
あるチャンスから脱出を試みるも、捕らわれてしまう彼に出された桃からの慈悲、いや❝愛❞。
その❝愛❞とは…
力のない八俣の美青年が、これからの苦悩から逃れるための行動、そして捕らわれの身となり、ただひたすらサイコロによって命運を決めざるを得ない心境、桃の異常な愛情、黛村脱出を約束されたサイコロゲーム…スプラッタ性の高いサイコホラー物語。本編とはまた一味違った作風をお楽しみ下さい。
❝ケダモノたちよ❞の更なる登場人物の吟味、本編で一部解き明かされない内容が明らかとなります。
ーーー
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
・針本 雀松 (はりもとわかまつ)
置田村・東地区・八俣の貧民。美男子で幼い頃からその美貌に悩まされてきた。拉致されると外道たちの慰み者として扱われ、惨めな日々を過ごす。
・関 家守 (せきいえもり)
置田村・東地区・八俣の貧民。いきなり拉致され、相島の倉庫に監禁される。ただの貧民ながらも道徳観を備え、観察眼と機転の利く秘めた特性がある。
ーーー
・向出 (むこうで)
惟神収容所の衛兵の一人。任務に忠実な有能な兵士。
・小田 (おだ)
惟神収容所の衛兵の一人。感情的で危険な男。
・粕谷 (かすや)
惟神収容所の衛兵の一人。表には出さないが不満をためると実行に移すタイプ。
ーーー
・缶 桃 (ほとぎもも)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で次女。姉の杏にそっくりな顔立ちだか、それ以上に感情的で暴力的。火遁の術を用いて火焙りにし、接近時は短刀で八つ裂きにする野蛮性を持つ。姉と同じ、脚が露になった、黒と桃色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
■ ▢ ■ ▢
◎和都歴451年 5月5日 15時 黛村・変若水 惟神収容所
⦅ほ~ら…これはどうだい?⦆
⦅や、やめ・・・うわぁぁぁ…あ…!!⦆
雀松は裏の牢獄から聞こえる悲鳴にビクッとする。
「おい、今の…死んだんじゃないか?」
雀松の前の牢に居るのは関 家守。
そう、僕らは四人で奴隷として迦具夜に売られる途中、落雷がその危機を救った。
何とか逃げ出すも、町田 琴は事切れていて、見捨てざるを得なかった。
僕と羽田 狂太郎の二人は先に逃げた。家守はついてきたんだろう。
そういえば…
「ねぇ?羽田さんは?」
何となく聞いてみた。
「え?ああ…」
「死んだの?」
「…まぁな。腹を切り裂かれて…」
「そんな…」
この機に、奴隷から解放され、逃げ切れたと思ったが、今度は囚人として牢獄に閉じ込められた。
奴隷と、囚人…名前が違うだけの、最低で最悪な扱いには変わりはない。
⦅プリンスちゃ~ん!⦆
裏の牢獄から桃の声がする。
そう、桃は僕を王子様に見立て、プリンスと呼ぶ。
…どうやら走ってくるようだ…
ーガシャ!
桃が牢の鉄格子を両手で掴み、雀松の顔をじっと見る。
「寂しい思いをさせたかねぇ?ん?」
「!?」
ーキィィ…
桃が鉄格子のカギを開け、入ってくる。
「服着ちゃったのか?」
桃が雀松の頬を両手で撫でながら残念そうな顔をする。
「い…いや…その少し冷えて…きて…」
「あとで暖の火を持ってこさせるよ。」
桃がそう言うと、雀松の服を脱がせる。
「素晴らしい身体だね、アンタ…」
桃がケダモノのように笑う。
「い…いえ…」
◎1時間後
⦅あぁ…ン…ン…⦆
「あ…あの、桃様…」
牢獄の中で雀松を一方的に愛撫する桃に、衛兵・向出が声をかける。
「ちょっ!何見てんだ向出!悪趣味な奴だ!」
慌てて服を着る桃。
「すみません…杏様が帰宅されたみたいで、今水浴びを。看守室に来ていただけますか?」
「あ~新兵の訓練があったんだ。わかった、お前少しここで見張っててくれ。」
「わかりました。」
◎10分後
雀松は裸のまま、じっと座り込み、家守の方に目線を移すと、誰か男が二人、薪を持ってきた。
「小田、粕谷?どうした?」
向出が問うと、二人は雀松の牢を開け、中に入る。
「いえ、桃さんが持って行けと。プリンスちゃんを風邪ひかせたら殺すってよ。」
小田がそう言って雀松を睨みつける。
「な…なんですか…」
雀松が怯えるように睨む。
「桃さんに気に入られたからって調子に乗るな!」
ードカ!
「いて!」
小田が雀松を蹴飛ばす。
「止めろ、桃さんに知れたら殺されるぞ?」
向出が仲裁する。
「…うるせぇ!」
粕谷も一緒に蹴り始める。
ードカ! ドカ!
「や…やめ…」
「死んじまうぞ、やめろ!」
向出が止めに牢に入る。
「死ぬだ?こうすれば死ぬんじゃねぇか?」
小田が薪で雀松を殴りかかる。
ードゴ!!
雀松は腕でガードしつつも、倒れこんでしまう。
ーチャリーン
同時に小田の懐からカギが落ちたようだ。
しかし誰も気づいていない。
その瞬間、雀松は覚悟を決める。
「ん?なんだ?」
雀松は咄嗟にカギを拾い、開いていた牢から出ると、鉄格子を閉め、鍵を閉める。
「お、おい!出せ!」
三人が叫ぶ中、雀松は廊下を走り去る。
看守部屋がある。ここを抜けれれば出口だ。
こっそり窓から中を見る。
ーシャァァァ・・・
水の音が聞こえる。
「行水しているのか…チャンス…!」
ゆっくり中へ入ると、壁には見慣れない青龍刀が飾ってある。
1つ手に取り、タオルを腰に巻き、ゆっくり看守部屋を抜ける。
「やった・・・あとはこの洞窟の外に出れば・・・ー!!」
目の前から桃がやってくる。雀松は咄嗟に洞窟の僅かな隙間に申し訳ない程度に隠れる・・・
「・・・」
雀松は息を殺す。
「♪~」
桃が目の前を通り過ぎるとき・・・
ーキラン!
雀松の持っていた青龍刀が光り、桃は気付く。
「な…お、お前!プリンスちー」
「うわぁぁ!!」
雀松は無我夢中に青龍刀を振り回す。
桃が寸前で躱すも、腕を掠ったようだ、血が流れる。
「…!」
「うわぁ!!」
雀松も一呼吸して状況が分かるとトドメを刺すつもりで思いっきり一太刀入れ込むー・・・
ードガドガドガ!!
桃は、その一太刀を華麗に躱し、飛び上がり、旋風脚を応酬する。
「うげぇ!!」
青龍刀を拾い上げようとする雀松の手を踏みつける桃。
「プリンスちゃん…やってくれたなぁ…?欲情してきちゃった…アッハッハッハ!」
そういってもう一撃を食らうと、雀松は気絶した。
◎和都歴451年 5月5日 23時 黛村・変若水 惟神収容所
雀松は目を覚ますと、そこは看守部屋のようだった。
真っ裸で宙吊りにされ、目の前に机があり、その反対にも同じく真っ裸で宙吊りにされた男がいる。
「助けてください!」
そう叫ぶのは…小田だ。
「さて・・・」
雀松の後ろにいた桃が話始める。
「この小田が、プリンスちゃんの暴挙に出た原因みたいじゃない?」
「た・・・助けて…」
「黙りな! まぁ、プリンスちゃんは私の恋人だ。うん、いいだろう。逃げたいなら、何処へでも…逃げて構わない。」
「ほ…本当か?」
桃の話に笑みを浮かべる雀松。
「ああ…でも、その前にこの男の価値を試したいんだ、付き合ってくれ。」
「価値?」
「ああ。」
ーゴロゴロゴロ・・・
桃が前の机に2つのサイコロを投げる。
「このサイコロで目の数が多く出れば、そいつは無罪放免。」
「え?」
「少ない方は…」
ードス!
桃が机に短刀を突き立てる。
「ちょ…僕は逃がしてもらえるって…」
「そう、このゲームで勝てばね。私の彼はこんな茶番で負けるようなフニャチンじゃないだろう?」
「た…助けてください、桃さー」
「ゲームスタートだ!」
小田の悲鳴を遮る様に、桃が短刀を抜きながら声をあげる。
「1ゲーム目、私のプリンスちゃん!サイコロを振って!」
「そんな…」
雀松は渋々サイコロを振る。
ーゴロゴロゴロ・・・
4と5・・・
「よっし、プリンスちゃん、これは勝てるんじゃないの?」
「桃さん…こんな…」
小田が泣きそうな声でサイコロを振る。
ーゴロゴロゴロ・・・
4と2・・・
「あ~小田ぁ…残念!」
桃が短刀を握って小田の顔を見る。
「え・・・」
ーザシュ!!
小田の首に短刀が刺さる。
「負け犬は死刑だ。」
小田の首を短刀でグリグリと抉る。
「プリンスちゃんを…引き留めてくれない…無能な奴は…」
桃は短刀で抉りながら首を切断していく。
「し・け・い!!」
ードス! ゴロゴロゴロ……
「うわ!!」
雀松が悲鳴をあげる。
「アッハッハッハ、心配すんなってプリンスちゃん、自分の首じゃないからさ?」
桃が狂気の笑みを浮かべる。
「くそ…でも勝ったんだ、早く解放してくれ。」
「慌てないでぇプリンスちゃん。2ゲーム目に挑戦だ。」
「何言ってる?聞いてないぞ?」
「向出?連れてきて。」
桃が声をあげると、向出は裏に居たらしく、真っ裸の粕谷を連れてくると、宙吊りにした。
「さぁ、この男もプリンスちゃんを蹴りまくった男だ。ゲームで罰を下さないとダメだろう?プリンスちゃん。」
「そんなのどうだっていいい!早く解放ー」
「ゲームスタート!!」
桃が声をあげると短刀を納め、手に炎を滾らせる。
「な…んだって…こんな目に…」
ーゴロゴロゴロ・・・
1と5・・・
「おっと、プリンスちゃん、これは危険じゃないか?」
「ま…まさか…そんなぁ…」
雀松は泣きそうになる。
「これは…よし、俺は無罪だ!俺は…!!」
粕谷が息巻く。
ーゴロゴロゴロ・・・
2と3・・・
「あちゃ~…粕谷~! これじゃプリンスちゃんを逃がしちゃうじゃないか!」
「い…いや…そんな!」
震える粕谷。
ーボワッ!
桃の手から火炎流が粕谷に流れる
「あぁぁぁつぃぃkdklれ、えg、b」えb・・・・・・」
粕谷は丸焼けになった。
「む…惨すぎる…」
「優しいねぇプリンスちゃん。ライバルの心配をするなんて。そういうとこ好きだわぁ。」
桃の狂気なる愛が、形容しがたい表情を作り出す。
「でも、これで…や…やった。これで逃がしてくれるんだな?」
「そう…だけど…あれ?」
桃が向出を見る。
「お前もプリンスちゃんに…」
「いえ、私は彼を助けた身です。」
「でもでも?閉じ込められたとか?そんな失態、ダメじゃない?」
桃がイヤらしい顔をする。
「そ…そんな…」
「このままプリンスちゃん逃げたら、アンタが見す見す逃がしたも同じだろ?」
そういいながら、向出を宙吊りにしていく桃。
「さぁ!3ゲーム目のスタートだ!」
「これで最後にしてくれ!!」
そう言って雀松がサイコロを投げる。
ーゴロゴロゴロ・・・
4と6・・・
「おいおい、これは…」
桃が向出を見る。
「くそぉぉぉ!!」
ーゴロゴロゴロ・・・
4と6・・・
「お…ドロー?向出、アンタやるねぇ!」
「引き分けか・・・」
「気を取り直して…スタートだ!」
「勘弁してくれ!!」
ーゴロゴロゴロ・・・
5と6・・・
「おお!凄いなプリンスちゃん、さすがは私の男!・・・対するフニャチン野郎の目は?」
桃が向出を見る。
「もう…6の6出ろぉぉぉ!!!」
ーゴロゴロゴロ・・・
3と4・・・
「あ~ん、ついに向出、敗れる!!」
「そんな!俺は何もしていない!!無実だ!!」
「そうだ、でもゲームに負けて、プリンスちゃんの脱走を阻止できなかった落とし前はつけてもらう。」
桃が壁に掛かる青龍刀を手に取ると向出の元に歩いてくる。
「た・・・たすけー」
ーザシュ!
「うわぁぁぁ!!」
向出の右手が切断された。
「この…役立たずが!!」
ースパ!!
ーゴロゴロゴロ・・・
向出は首を切り落とされた。
「ヒィイイイイ!!」
雀松が奇声をあげる。
「シィィィ・・・プリンスちゃん、そんな弱虫じゃ私の男は務まらないよ?」
「もう沢山だ!早くここから出してくれ!」
「アッハッハッハ、わかったわかった、でもゲームにはボスがつきものだ。」
「ボ…ボス?」
「ラストゲーム…開始といこうか?」
そう言って桃が椅子に座り、机に乗り出す。
「お前が?はは…負けたらどうする?」
「え?ルールは同じだよ、そうだな…私が負けたら、アンタが私を殺して、ここを出て行けばいいさ。」
「本当だろうな?」
「アッハッハッハ!!…まさかもう勝つ気でいるの?プリンスちゃん…さすがよぉ、私の男はそうでなくちゃ…!」
椅子にのけぞり、ケダモノのように笑う桃。
「…よし!!」
雀松はサイコロを振ろうとする。
「あ、そうそう…」
「なんだ?やっぱりやめるのか?」
「私のゲームには私のルールがある。」
「何?」
「さぁ、サイコロを振りな。わかるよ。」
ーゴロゴロゴロ・・・
1と1・・・
「・・・!」
「アッハッハッハ!!」
「こ…こんな?」
「さぁ…私の番だね?」
ーゴロゴロゴロ・・・
6と6・・・
「バカな!!イカサマか?」
「じゃぁ…もう一度振りなよ?」
「・・・くそ!!」
ーゴロゴロゴロ・・・
1と1・・・
「バカな!!」
「さぁ…プリンスちゃん…」
桃がゆっくりと立つと、雀松の元に歩み寄る。
「折角のラストシーンだ…たっぷり愉しんで…」
桃が服を脱ぎ捨て、力強く愛撫していく・・・
◎和都歴451年 5月6日 3時 黛村・変若水 惟神収容所
血だらけの桃が水浴び場へ入る。
ーシャァァァァ・・・
カラダの血を洗い流す桃。
「…あぁ、最高だったよ…プリンスちゃん…」
惟神収容所の悪夢 ~ケダモノたちよ・外伝シリーズ~
エピソード2・サイコロゲーム ~桃より愛をこめて~
ー完ー
次回2025/8/18(月) 18:00~
惟神収容所の悪夢 ~ケダモノたちよ・外伝シリーズ~
エピソード3・惟神収容所からの脱出 を配信予定です。