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奴隷から囚人となる日

《注意!!》本編❝ケダモノたちよ❞を8章含む全てを読了していることをお勧めします。



蓮太が小夏捜索に出立し、不運にも変若水の双子、杏と桃に捕らわれた時から約1年ほど前の話。

まだ龍の行水の被害も収まっていなかった。

どこも人手を必要とし、奴隷商人は貧民の集まる地域から人攫いを繰り返していた。


「ほら!檻に入ってろ。4人集まったら迦具夜の伊良皆さんに売り渡してやるからよ!」

素行の悪い男に押され、檻に入る男。

その名は『関 家守』。

「今、一人は出払っててな、直ぐ戻ってくるからよ。」

既に一人、先客もいるようだ。


そして4人になる日をただ待つだけ。

そう思っていた…


八俣の奴隷となった4人の若者が、希望を砕かれ、心身をもてあそばれる日々。脱出の機会を伺い、遂にその時が来る。 スプラッタ性の高い物語。本編とはまた一味違った作風をお楽しみ下さい。


❝ケダモノたちよ❞の更なる登場人物の吟味、本編で一部解き明かされない内容が明らかとなります。


ーーー


今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・関 家守 (せきいえもり)

置田村・東地区・八俣の貧民。いきなり拉致され、相島の倉庫に監禁される。ただの貧民ながらも道徳観を備え、観察眼と機転の利く秘めた特性がある。


・針本 雀松 (はりもとわかまつ)

置田村・東地区・八俣の貧民。美男子で幼い頃からその美貌に悩まされてきた。拉致されると外道たちの慰み者として扱われ、惨めな日々を過ごす。


・羽田 狂太郎 (はねだきょうたろう)

都の売れない芸人。48歳になるも芽が出ないまま、祖柄樫山の田舎者を相手におひねりを期待してきたものの、拉致され、監禁される。本人曰く都で必要とされる芸人。


・町田 琴 (まちだこと)

置田村・東地区・八俣の貧民。畑作業中に石木に拉致される。ショートカットの気の強い村娘。


ーーー


・二木 洋四郎 (にきようしろう)

神奈備出身。貧民で、弱い者から必要なものを奪えばそれで良いという考えの持ち主。強い者には媚び諂う、最低な男。


石木 市衛 (いしきいちえ)

金に汚い小悪党。小心者だが、追い込まれるとどんな暴行も起こしてしまう。


・福本 惣之助 (ふくもとそうのすけ)

置田村の南地区・日輪の刀禰。日輪の刑務長。出世欲が強く、豊倉の力で刑務長になる。武道にも精通しているが、自分が出向くのは最後という考え。


・大須賀 栃虎 (おおすがとちとら)

栃虎の息子。パッと見はイケメンで、育ちの良さを伺わせるも、裏の顔は悪業に手を染め、暴行を繰り返す。人身売買から、婦女暴行を息をするように行う。虎太郎の仇の1人。


ーーー


・缶 杏 (ほとぎあん)

黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で長女。狡猾で、弓の名手であり、接近時は中華刀とカンフーで応戦する。父と同じ、暴力で支配、解決するタイプ。脚が露になった、黒と杏子色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。


・缶 桃 (ほとぎもも)

黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で次女。姉の杏にそっくりな顔立ちだか、それ以上に感情的で暴力的。火遁の術を用いて火焙りにし、接近時は短刀で八つ裂きにする野蛮性を持つ。姉と同じ、脚が露になった、黒と桃色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う


■ ▢ ■ ▢

『龍の行水』が祖柄樫山に災厄をもたらし、その被害に苦しむ各地区の長、乙名は復興に人手を必要としていた。

限られた人員で一早く復興を済ませ、敵拠点の奪還の準備に入る、どこもそんな状況の中、貧民が集まる置田村の東地区・八俣。ここでは人気のない場所で人を(さら)い、奴隷商人に売り渡すことが日常化していた。

彼ら人攫いは無論、一定の権力をもつ者たち。

警察同等の官人や刑務主という彼らにとって、貧民は金にする動物に過ぎなかった。

今日もまた相島邸の倉庫に一人の男が連行されてきたようだ…




惟神収容所の悪夢 ~ケダモノたちよ・外伝シリーズ~

         奴隷から囚人となる日




◎和都歴451年 4月25日 置田村・八俣  相島邸・倉庫


「ほら!さっさと入れ!」

牢屋に放り込まれた男はそのまま転倒する。


ーガチャン!


牢が閉まる音と共に、男は顔を上げる。

「お前の他に、もう一人いるんだけどよ、そいつは今、シゴト中でな、へへへ。」

「だ、出してくれ!」

「うるさい!」

若い男は怒鳴り声と共に、牢を蹴飛ばす。

「俺だってこんなことしたくない、けどしないと俺がそっち側に行くことになる…俺はもう家族も失い、何もないんだ。やりたいことさせてもらう、そう決めたんだからな!」

「お、俺には関係ない!助けてくれ!」

「うるさいって言ってんだ!この石木市衛(いしきいちえ)をなめるとタダじゃおかない!」

石木は壁に掛かっている木刀を持つと扉を開ける。

「な、なにを…」


ードカ!


「うああ!!」

「俺に…俺に跪け!そしたら許してやる!」

石木は何回も木刀で男を殴ると男は直ぐに跪いて懇願する。

「よーし…お前、名前は?」

「家守…関 家守(せきいえもり)です。」

「そうか。4人くらい集まれば、お前も直ぐ伊良皆さんに売り渡されてケダモノになっちまう。今のうちに可愛がってやるからよ。」

そういって石木は牢を出る。

「変な気を起こすなよ?どうせ出れっこないんだ。」

そう言って石木は倉庫を出て行った。

「くそ…何なんだ!」


◎和都歴451年 4月25日 置田村・日輪  牢屋


「二木…と言ったね?済まない、いきなり連れ出させてしまって。」

「いえ、金さえ貰えれば。お愉しみ出来ましたか?」

「美男子というのも中々のものだな、癖になりそうだ。」

「へへ、福本さんの好みの男、またお連れします。」

そういって二木は美男子の奴隷を馬車に乗せ、相島邸倉庫へ輸送しだす。

「・・・」

美男子の目は虚ろに、そして暗い形相だった。


◎1時間後 置田村・八俣  相島邸・倉庫


「ほら、入れ。」

二木が美男子を家守のいる牢に入れる。

「仲良くしてろよ?あ?そっちには興味ねぇか、はっはっは。」

見下す態度で牢を閉める二木。

「後二人くらいいないと売りに出せないんでな。」

そういって二木は倉庫を出て行こうと扉を開けるとまた一人連行されてきた。

「コイツ、都からちょっと稼ぎに来た旅芸人らしいです。」

石木が二木にそう伝える。

「へえ?」

「お、俺は都でも名の知れる旅芸人・羽田 狂太郎だ!こんな仕打ちをしてタダで済まんぞ?」


ーバキ!


「うぁ!」

二木が羽田を殴りつける。

「お前…気に入らない顔と声してるな?」

二木はそう言うと、倒れている羽田に馬乗りになると何度も殴り始める。

「うあ!やめ!ぐは!」

「お前は…このまま…殺しちゃおっかな~?」

二木が殴り続けていると大須賀栃虎が入ってくる。

「何してる?」

「あ、栃虎さん!」

二木は直ぐに直立し、土地たらにお辞儀する。

「・・・」

栃虎は羽田を見る。

「殺すな?金にするんだ。いいな?」

「は、はい、すみません。」

そういって栃虎は去っていく。

「石木、お前も4人目を探しに行くぞ!こい!」

そういって、羽田を牢に押し込むと、二木と石木も倉庫を出る。

「く…くそ!ここはどこだ?官人は居ないのか?」

「・・・」

羽田の叫びにも虚ろな美男子。

「アイツらが官人見習いなんだ。」

「な、なに?」

家守の一言に驚く羽田。

「くそ…こんな所!来るんじゃなかった!」

羽田は壁を蹴飛ばす。

「・・・」

「アンタは?ずっと黙ってるけど?」

「…針本 雀松(はりもとわかまつ)。」

「女みたいな顔だ!はっ!お前、その手のモンなのか?」

雀松は羽田を睨む。

「お~怖!・・・まったくやってられないぜ!」


◎2時間後 置田村・八俣  相島邸・倉庫


羽田は祖柄樫山のこと、置田村の事を家守から聞くと、自分の奴隷となった事実をようやく把握できた。

「まさか…有り得ない。許されんのか!そんなこと!」

羽田は絶望し、荒れる。

⦅・・・られるぞ!どうすんだよ?⦆

二木の声がする。

「明日見つかればいいけどな・・・」

二木は4人目が見つからないことに苛立ちが隠せない。

「ムシャクシャするぜ・・・」

そう言って二木は壁の木刀を手に取り、羽田を見る。

二木が牢に入る。

「ま、待て!」


ー!!


◎和都歴451年 4月26日 朝 置田村・八俣  相島邸・倉庫


「あ…あーんだよ、ここの村は…あーんだよ…へへへ…」

痣だらけの羽田が独り言を言う。

「このままじゃ…ホントに殺される…何とかしないと。」

「あ?何とか?」

家守の言葉に何か気に入らなかった羽田。

「だってそうだろ?このままじゃー」

「殺されるってか?俺のセリフだ!まず殺されるのは俺だろ!お前代わりに殴られろよ!俺の方が都にも必要とされてる価値ある人間なんだ!こんなクソみたいな村で終わってたまるか!」

羽田が感情的になる。

⦅んか…うるせえなぁ?⦆

二木の凄む声が外から聞こえると、羽田もビクッとなって静かになる。


◎和都歴451年 5月1日 昼 置田村・八俣  相島邸・倉庫


「放せ!放さないとぶん殴るよ!」

石木が若い女を連行してきた。

「痛っ!こいつ!二木さん、これで4人だ、問題ないだろ?」

「気の強い女だな?いいじゃねぇか。」

二木は服を脱ぎ始める。

「何すんのさ?ぶちのめすよ?」

「石木、いつも通りだ。」

「はい。」

石木が女の右足右手を縛り、左足左手をそれぞれ縛った。

「股広げとけよ?気の強いお姉さんよ。」

「二木さん、相島さんや栃虎さんに献上しないで大丈夫なんですか?」

「許可は得てる。」

止めに掛かる石木を邪魔の様に退かし、二木が女の服を脱がし、襲い始める。

「や、やめろ!やめ…!」

「おら!泣け!」

「あ…す、すげぇ!」

二木の隣で石木も服を脱ぎ始める。

「慌てるな!」

二木が石木に手をかざす。

家守は正面の出来事から目を逸らすと、その視線の先に見える羽田は釘付けになって見入っている。

「なんだ?旅芸人もやりたいのか?最後にヤラせてやるよ。」

二木、石木が強姦を終えると既に女の気力と精神は無くなっていた。

牢に女を投げ込む石木。

「好きにしろ、人生最後の女かもしれないぜ?」

二木が服を着ながらケダモノの様に言う。

「羽田!」

女に跨り始めた羽田を止める家守。

「放せ!俺は都の有名人なんだ!こんな村の女、一人二人…ヤったって許されるんだよ!」

羽田はケダモノの様に女を襲い、二木らは嘲笑する。


◎和都歴451年 5月1日 夕 置田村・八俣  相島邸・倉庫


「夜になったら伊良皆さんのトコに売りに行く。」

二木が服を着ながら、女を牢にまた押し込んだ。

「死んじまう前に早く伊良皆さんの術で商品にしてもらえばいい。」

二木と石木が外へ出る。

「大丈夫かい?」

「・・・く…ちき…しょ…」

「名前は?」

女に服を着せながら話す家守。

「…町田…琴。」

「生き延びよう、一緒に。」

家守の言葉に頷く琴。

「へ!奴隷だぞ?生き延びたって生き地獄だ。それより俺がもっと可愛がってやろうか?」

「黙ってろ!」

羽田の言葉に言い返す家守。

「ハッ!今更正義ヅラしても何の得もない。ちくしょう!」

雷雲が轟き、雨が降り始めた。


◎和都歴451年 5月1日 夜 置田村・八俣  相島邸・倉庫


「馬車に乗れ。時間だ。」

石木が馬車を漕ぎ、4人は牢の荷台に乗せられる。

二木が後ろから馬で監視するように追従する。


置田村と黛村に掛かる吊り橋を渡り、川沿いに南へ下る。

山から下ると、道と川の高さも徐々に低くなり、1メートル下に川が流れる。

雨で流れは強くなっていた。


ーピカ!!


轟いていた雷が、馬車の通る真横の木に落ちた。


ーヒヒーン!


馬車の馬は感電したようで、荷台ごと川の崖に滑り落ちた。

二木も馬に振り落とされ、足をくじく。

「くそ、石木!奴隷を…!」

ビッコを引きながら急いで石木と馬車に近づく二木。

「石木、早く奴隷をー」

石木の瞳孔は開いていた。

「くそ!」


馬車は緩やかに川に落ち始めていた。

「・・・う!」

家守、雀松、羽田は目を覚まし、壊れかけた扉を必死で開ける。

「早くしろ!沈むぞ!」

雀松が落ちていた端材で扉を叩き壊す。

「開いた!」

「どけ!俺が先だ!」

雀松を退かして一目散に外へ逃げる羽田。

「…あれ、琴…琴さんは…?」

家守が荷台を振り返ると倒れたままの琴がいた。

⦅何してんだ!そんな娼婦、置いていけ!⦆

「娼婦なんかじゃない!」

家守が琴を抱きかかえると、もう目を覚まさなかった。

「・・・」

家守は琴の胸に手を乗せ、その心音のないことを確認する。

その瞬間、哀しみと悔やみの念を走らせる。

「ありがとう。袖振り合う少しの関係でも、君は素敵な女性だったよ。」

家守は彼女の腕を組ませて、遺品だろう髪飾りを咄嗟に取った。

⦅お前ら!逃げるな!⦆

二木に見つかる羽田と雀松。

奔って逃げる二人を、ビッコ引いて馬まで向かうと乗って追い始める。

二人を追う二木を、更に後ろから追う家守。

「この野郎!このままじゃ俺は破滅だ!止まれ!旅芸人!お前だけは殺す!」

吊り橋を渡らず、森に入り更に北上する二人。

「くそ、森じゃ馬が思う様に進まない…」

それでも二木は馬を何とか走らせる。

「はぁ、はぁ、も、もう…そろそろ疲れが・・・」

羽田が疲れてくると、二木の馬が後方から見えてくる。

「オラぁ!」

二木が馬から飛び掛かる。


一方、家守は必死に逃げ、ただひたすら北上していた。

「はぁ、はぁ、雀松は・・・?」

歩きながら夜の森をひたすら進む家守。

「どこまで…行ったんだ?」

雷雨は止むことなく、一瞬、辺りを明るくする。

するとその瞬間、目の前に頭を射抜かれ、大木に磔になっている二木の姿が映る。

「うわぁ!」

家守は驚きのあまり肝を冷やした。

⦅・・・たんだ!助けてくれ!⦆

羽田らしい声が叫んでいる。

家守は先に進むと、羽田が青龍刀を持った女と話している。

「知らなかったんだ!本当だ!密偵じゃない!」

「あれ?後ろの人は?お仲間さん?」

女の言葉で、羽田は振り返る。

「あ、家守!頼む、助けてくれ!」

羽田は走って家守に近づこうとする。


ーズシャ!!


羽田は青龍刀で胴を真横に切り裂かれた。

「…あ…あ…!!」

血しぶきと共に倒れこむ羽田。

「動くなっていったじゃん。」

女は青龍刀をクルクル回しながら話す。

「な、何だお前たちは?」

「え?私は杏。」


ードカ!


後ろから不意打ちをくらい、倒れこむ家守。

「私は桃、よろしくな?」

もう一撃を食らうと、家守は気を失った。


◎和都歴451年 5月2日 朝 黛村・変若水  惟神収容所


家守は目を覚ます。

「こ…ここは…?」

辺りを見回すと、監獄のような場所で、両腕、両足を縛られ吊るされていた。

目の前の牢には雀松がいて、彼は真っ裸にされ、同じように吊るされていた。

「お目覚め?」

真後ろに桃がいたらしく、家守の視線に入ってくる。

「惟神収容所へようこそ。」

桃がケダモノのように笑うと、雷鳴が轟く。

惟神収容所の悪夢 ~ケダモノたちよ・外伝シリーズ~

エピソード1・奴隷から囚人となる日 

       ー完ー


次回2025/7/21(月) 18:00~

惟神収容所の悪夢 ~ケダモノたちよ・外伝シリーズ~

エピソード2・サイコロゲーム ~桃より愛をこめて~ を配信予定です。

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