閑話:この世界の避妊事情編 ~避妊具と価値観を輸入してくれ~
※閑話です。
本編ほど厳密な空気ではなく、だいぶ雑談寄りでやってます。
なので現代っぽい用語やセリフ回しがちょいちょい混ざりますが、そこはまあご愛嬌ということで。
「この世界の裏設定を、三馬鹿に漫才形式で喋らせてるだけ」くらいの軽いノリで読んでください。
ある晩、サロマの屋台通り。
三馬鹿はいつものように、油と煙と毒の匂いがないまぜになった空気の中で、魚の内臓串をかじっていた。
弟が、ふと思いついたように口を開く。
「なあ兄貴……この世界の避妊って、どないしとるんやろな」
兄の手がぴたりと止まった。
「……は?」
「いや、ワイら男やし、いつかはそういう場面もあるやろ? せやけどこの世界、コンドーさんとか全然見ぃひんやん」
「まず“コンドーさん”で覚えんなや。保健体育を雑に履修した中学生かお前は」
弟は串をくわえたまま首をかしげる。
「でも実際、ないやろ? 薬屋にも雑貨屋にも、それっぽいん売っとる気配ないし」
銀髪屋も顎に手を当てた。
「たしかにのう。ワシも、そういう“薄うて伸びる便利なもん”は見たことないけぇ」
兄がゆっくり顔を上げる。
「……お前ら、待て」
嫌な予感しかしない顔で立ち上がった。
「この衛生レベルで“生でどうぞ”が基本なんやったら、サロマはとっくに子どもと病気で地獄絵図やろ!」
銀髪屋があっさり答える。
「地獄絵図じゃで?」
「即答すな!」
弟が指を折りながら数え始めた。
「ほら、なんかあるんちゃう? 草を煎じて飲むとか、終わったあと逆立ちするとか、月の満ち欠けで今日はセーフとか」
「昭和の怪しい民間療法みたいに言うなや! 月に委ねるな!」
銀髪屋も思い出したように頷く。
「年寄り連中はよう言うとったのう。『根っこに苦い汁塗っときゃ子はできん』とか、『終わったあとに冷やした石の上へ座れ』とか」
兄は天を仰いだ。
「雑すぎるやろ避妊文化! なんやその“気合いと根性でなんとかする”路線!」
弟は真顔で続ける。
「あと、うちの村の婆ちゃんは言うとったで。『子種は熱に弱いさかい、熱い湯に浸かれ』って」
「どこまでほんまかわからん知識を命に関わる場面で運用すな!」
銀髪屋が肩をすくめる。
「ほいじゃが、神殿まわりじゃ変なのもあるで。
“精を抜いたあと、祈りで魂だけ結ぶ”とか言うとった姉さんもおったけぇ」
「メンヘラ式の結婚契約やんけ!」
弟は「なるほど」とでも言いたげに何度か頷いたあと、ぽつりと聞く。
「でも兄貴、この世界って……避妊失敗しても、割とどうにかなっとる感じあるやん?」
兄の眉間に深い皺が寄る。
「その“どうにか”を詳しゅう言うてみ」
「子どもできても、育てられへん親はおるやろ。
そしたら、孤児院とか、金持ちんとこの下働きとか、場合によっては奴隷商とか……まあ、どっかしらに流れていく仕組みできとるやん」
兄は持っていた串をへし折った。
「それを“仕組み”って呼ぶなや!」
屋台の親父が「串ぃ……」と小さく泣いたが、誰も気にしない。
兄は弟の胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄る。
「わしらはな、現代日本で性教育受けて育っとるんや!
“計画的な家族”とか“望まない妊娠を防ぐ”とか、そういう概念がある世界の人間やねん!
なんやねんこの、できたらできたで流れで何とかなるみたいな社会!」
銀髪屋が静かに言う。
「兄ちゃん……この街じゃの。
“できたら産みゃええ、無理なら流れてどうにかなる”いう考えの者が、ほんま多いんよ」
「その“流れてどうにかなる”の先が地獄なんやろが!」
弟は少し考えてから、悪気なく首をかしげる。
「でも兄貴、この世界では命って、そんな重たく扱われとらんのやろ?
なんちゅうか……大事やけど、めちゃくちゃ大事ってほどでもない、みたいな」
兄は頭を抱えた。
「その“そこそこ大事”が一番あかんねん!
雑に扱われるには十分軽くて、罪悪感を持つには微妙に重い、一番地獄のラインや!」
銀髪屋は、串の脂を指で拭いながらぽつりとこぼす。
「まあのう。
飢えとる家じゃ、ひとり増えるだけで飯が足りんようになる。
病気持っとる女でも、若けりゃ産まされることもある。
産んだ子が生き残るかどうかは、また別の話じゃし」
弟が目を丸くした。
「うわぁ……」
兄は勢いよく振り向く。
「お前はそこで“うわぁ”で済ませるな! もっと危機感持て!」
「いやでも、ワイに言われても……」
「言う! 弟として聞いとけ!
ええか、この世界で女に手ぇ出すっちゅうんはな、“ちょっとええ雰囲気やったし”で済む話ちゃうねん!
命一つ増えるかもしれんし、病気一つ背負うかもしれんし、相手の人生そのものぶっ壊す可能性あるんや!」
弟は神妙に頷いた。
「……ほな、ワイ、好きな子できても迂闊に尻尾振れへんな」
「そこは元から控えめにしとけ!」
銀髪屋が、ふと思い出したように口を開く。
「そういや、ナガの婆さんが“絶対に孕まん香”いうんを売っとったのう」
兄が食いつく。
「ほんまか!? それ、まともなんか!?」
「知らん。
ただ、“使うた女は二度と月のものが来んようになった”とは言うとった」
兄の顔が凍る。
「それ避妊ちゃう。別の呪いや」
弟が小さく手を挙げる。
「値段は?」
銀髪屋は、実にさらっと答えた。
「五百金貨じゃ」
兄は真顔で言った。
「死ねや」
三人のあいだに、妙にしんとした沈黙が落ちる。
やがて兄が、遠くを見るような目で空を仰いだ。
「誰かこの世界に……避妊具と、ついでに価値観も輸入してくれへんか……。
わし、もう文明のない性教育事情だけで三回くらい寿命縮んどるわ……」
弟がしみじみ頷く。
「兄貴、魔法使わんでも寿命減っとるな」
銀髪屋も真顔で続けた。
「ほいじゃが兄ちゃん、それがこの世界の“普通”なんじゃろうの」
兄は即座に言い返した。
「普通が終わっとるんや!」
しばらく更新が止まってしまい、すみませんでした。
最近はAI音楽生成が思いのほか楽しくて、ついそちらに時間を吸われておりました。
とはいえ、この話を止めたままにするつもりはないので、閑話を挟みつつ、本編のほうもぼちぼち進めていけたらと思っています。
気長に付き合っていただけたら嬉しいです。




