グレイトフルなデイズ
ちょっと短めになってしましました。
連続で更新しますので、お待ち下さい。
煙の匂いが薄くなった頃、足音が近づいてきた。
「おーい、兄さん兄さん。朝から井戸端してるところ悪いけど、ちょっと聞いてもええかい?」
顔を出したのはマルコーだった。
相変わらずの軽い笑顔。肩のあたりには乾いた草をくくった袋を提げている。
兄は煙管をくるりと回しながら目だけで応じた。
「お、素材集めご苦労さん。で、ええ素材は集まっとるんか?」
「うん、上等やっさ〜! やっぱり辺境はええねぇ。森ん中、薬に使えそうなもんがごーまんあるんよ。
ワンら、ほとんど歩くだけで袋いっぱいになったさ〜」
兄の目がわずかに細くなる。
「……つまり、“薬の素材”集めに来たっちゅうことやな?」
マルコーは悪びれもせずに笑って、肩をすくめた。
「隠すことじゃないやいびーん。ワンら、薬草の扱いにはちょっとばかし詳しいわけさ〜。
けどな、同じナガの中にはちょっと“こわい人たち”もおるわけよ。
街の裏っ側で、あんまり良くないクスリばっかりさばいてる連中とかね」
兄は煙管を口元に運んだまま、目だけを動かしてマルコーを見た。
「……ほな、俺が今吸ってるこれも……もしかして“そっち系”か?」
「うぇっ!? いやいや、それは全然違うさ〜!」
マルコーは大げさに両手を振って否定した。
「それはただのヴェラ草やっさ〜。
ちょっと喉にくるけど、癖にはならんさ〜。吸いすぎたら普通に体に悪いってだけさね。
うちのおばあが“肺がバリバリになる”って言ってたけど、それはまあ……昔話やいびーん」
「バリバリになるって……お前、それ普通に怖いねんけど」
「でも兄さん、昨日も気持ちよさそうに吸ってたさ〜。“フーーッ”って音が気持ちよかったさ〜!」
「俺は今、笑ってええか悩んでる最中やわ」
弟が横でぷっと吹き出した。
「それとね、ひとつ知らせとこうと思って来たわけよ」
マルコーは袋を肩からずらしながら、少しだけ真面目な調子に変わった。
「明日、ビジャーが一回村を出るさ〜。
ちょっと中継地点の仲間んとこ行って、集めた素材を渡してくる手筈になっとるんよ」
「ほぉ……ビジャーが運び役か。足も早いし、手先も器用やしな」
「そいで、おしゃべりでお調子者。うちのところじゃ一番信用できんけど、一番仕事が早いヤツやさ〜」
「要するに、アホやけど便利やと」
「そうそう! さすが兄さん、ナガの気質わかってきたさ〜!」
「ほめられてる気が一切せんわ」
「だいじょぶ、ワンらナガ族、口は軽いけど腹は重いんよ」
「お前らの腹、信用ならん言い回ししか出てこんな……」
「ノリと風向きで全部なんとかなるさ〜。生きるとは、そういうことやいびーん」
「名言っぽく締めんな」
二人のやりとりに、離れたところで弟が肩を震わせて笑っていた。
マルコーは最後に片目をつぶって言った。
「ま、明日はビジャー抜きで動くけど、ワンらふたりはまだしばらくお世話になりまーす!」
「屋根が抜けるまでは泊まってええけどな」
「じゃあ修理はうちらがやるさ〜!」
「お前らが壊した前提で話進めんな!」
何かが起こりそうな、そんなマルコーとの会話。
物語は一気に加速します。