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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第二十三章 プレゼントを買いに

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第97話 突然の誠のひらめき

 その時、誠にひらめきが走った。それは誠にしか訪れない神の啓示ともいえるものだった。


「もう一度戻りますよ!デパートに」 


 誠はそう言うともと来た道を進んでデパートへと歩き始めた。突然の誠の行動にかなめもアメリアも驚いたような表情を浮かべた。


「なんだ?何かあるのかよ」 


 かなめはそう言って駆け寄って来た。アメリアはしばらく誠を見つめた後、走りよってきてにんまりと笑みを浮かべた。


「何か考え付いたのね。さすが誠ちゃん」 


 その問いに誠は黙って頷いた。


 とりあえず中に入り、そのままエレベータに向かった。


「6階か」 


 誠の言葉にかなめとアメリアはその階の店の一覧に目をやった。その隙にエレベータのボタンを押して誠は黙ってランプを見た。


「カルチャーフロアー?神前に文化的な素養があるとは思えねえんだけどな。理系脳の文科系知識ゼロの神前に」 


 そう言ってかなめはしばらく頭をひねった。しばらくその様子とそのフロアーに出展している店の名前を見比べていたアメリアだが、ひらめいたように満面の笑みで誠を見つめた。


「大体、誠ちゃんの考えていることは分かって来たわよ。これは考えたわね。これならかなめちゃんのお金ですべてを買おう作戦にも対抗できるかも」 


 アメリアの問いに誠は黙って頷いた。その二人の様子にかなめはしばらく訳も分からず呆然としていた。


 エレベータが止まる。地下の食料品売り場から流れてきた客が吐き出されるのと同時に三人は中に納まった。


「どう言う事だよ!二人だけなんだかわかったような顔しやがって。それにそんなにアタシが金に拘る守銭奴に見えるか?アタシは金払いが良いのが売りなんだ」 


 不機嫌なかなめにアメリアは自分の買い物袋に書かれたキャラクターを指差した。しばらくその絵に目を向けた後不思議そうにかなめは首をかしげた。


「は?それはその店のキャラクターだろ?……すると何か?あいつにそのちびのコスプレでもさせるのか?」


 かなめの言葉にアメリアはあきらめたような大きなため息をついた。その様子がさらにかなめをいらだたせているのがわかった。だが誠には迷いが無かった。


 ささやかなメロディーが流れドアが開いた。誠は慣れた足取りでエレベータの前の書店を素通りした。その確固たる足取りにかなめは少しばかり驚いたような表情を浮かべる。そしてアメリアもそんなかなめを興味深そうな視線で観察していた。


 文具店がある。その前でも誠は迷うことなく素通りを決めた。さすがにこの時はかなめの表情は驚きを超えて不思議そうなものを見つけた時の天然娘のサラのそれと変わらなくなっていった。


「ここまで来てわからないの?かなめちゃんも鈍いのね」 


 アメリアの挑発の言葉。だが、かなめは素直に頷いてしまっていた。


「あ!」 


 突然かなめが思いついたように叫んだ。そして手を打った。その視線の前には画材屋があった。


「そうか、絵を描くのか……なるほど。それは考えたな、神前にしては。自分の得意技を生かすとは……これはやられたな。さすがのアタシでも甲武まで絵師を手配するっていう時間はねえ。これは真似できねえや」 


 少しばかりかなめの声が震えていた。アメリアはニコニコ笑いながら早速アクリル絵具を物色し始めた誠を覗き込んだ。


「ずいぶん慣れた足取りだったけど……この店は?」 


 とりあえず店内をざっと見回す誠に声をかけたアメリアに微笑が浮かぶ。


「昔からよく来ていますから。小学校時代から絵は自信が有ったので。僕が褒められるのは体育の時と図工で絵を描くときだけでしたから」 


 誠はそう言ってアクリル絵具が並ぶコーナーを見つけて緑色の絵具を一つ一つ手に取った。


 手に取る絵具をしげしげと見つめていた誠にかなめがかごを持ってきた。


「使えよ」 


 いかにもぶっきらぼうにかなめはかごを差し出した。そう言われて誠は黙ってかごを受け取った。手にしているのは誠が一目見たときから惹かれていたつやのあるエメラルドグリーンの絵具を手に取った。そして肌を再現しようと誠は白の様々なバリエーションを確かめた。


「結構本格的に描くのね。縁側にでも座ってもらって、そこで直接カウラちゃんのスケッチでもするの?」 


 アメリアの言葉に誠は首を振った。


「そんなモデルにするなんて言ったら何をプレゼントするかバレちゃうじゃないですか」 


 誠はできればカウラの驚く顔が見たかった。


「そんなことをしたらアタシが殺す」 


 断言するかなめに誠は愛想笑いを浮かべながら絵具を選んでいった。


「確か筆とかはあったはずだから……」 


 そう言って今度は白い紙を手に取った。


「もしかして誠ちゃんの描く萌えキャラ系にするわけ?」 


 アメリアは呆れたようにそう言うと白い紙を持っていた籠に移した。


「まあ少しその辺は後で考えますよ。僕が萌えキャラとエロキャラしか描けないなんて舐めないで下さいよ」 


 次々と必要なものを迷わず選んでいく誠にしばらくアメリアとかなめは見入っていた。店員はかつて大学時代にここに通っていたときとは変わっていた。メガネの小柄な女子高生がバイトでやっていると言う感じの店員は誠が迷わずに画材を選んでいく様をただ感心したように眺めていた。


「じゃあ、これでお願いします」 


 絵具はかなりの量になった。その時誠は少しばかり寮に画材を送りすぎたことを思い出して後悔した。


「へえ、いいなあ。アタシも描いてくれないかな」 


 かなめが小声でつぶやいた。そこに顔を近づけるのは予想通りのアメリアの反応だった。


「なに?かなめちゃんも描いてほしかったの?ふーん」 


「な……なんだよ。気持ち悪りいな」 


 一歩下がってにやけた表情のアメリアをかなめはにらみつけた。


「ちなみに私の戸籍上の誕生日は4月2日だから。そん時はよろしくね!」 


「なんだよ!テメエが描いてほしいんじゃないか!」 


 かなめの突っ込みを無視するとアメリアはそのまま絵具のコーナーに向かった。誠は苦笑いを浮かべながら必死にレジの作業をしている店員を見下ろしていた。


「えーと。二万八千円です」 


 店員の言葉に誠は財布を取り出した。そしてその隣にはいつの間にかアメリアが紺色の絵具をいくつか持って並んだ。


「あのーお客さん。そちらもですか?」 


「ああ、いいわよ私が別に払うから」 


 財布を手にしたまま誠はアメリアを引きつった笑顔で見つめた。


「なにやってんだかなあ。急げよ!待ち合わせの時間まですぐだぞ」 


 かなめはそう言いながら複雑な表情で二人を見つめていた。



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