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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第二十二章 誠の実家

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第93話 誠の母『神前薫』と言う人

「おい……あれ」 


 かなめが指をさすまでも無く立派な瓦屋根をいただいた大きな門のところで箒で道を掃いている和服の女性が目に入った。


「ああ、皆さん!」 


 気がついて手を振るのは誠の母、神前(しんぜん)(かおる)だった。手を振る彼女に思わず誠は目をそらした。


「どうもお邪魔します」


 カウラが気を利かせて薫の手前で車を停めるとアメリアはいつものように素早く車から降りて頭を下げた。


「これ……蕎麦です。叔父貴からの土産でして……」


 トランクを開けたかなめが荷物の中から袋を出して誠の母に渡した。


「これはどうもご丁寧に……客間は片付いていますから荷物はそちらに」


 薫の言葉に甘えるようにして四人はそのまま道場の入口を兼ねた大きな玄関に上がり込んだ。


「それにしても早かったんですね、皆さん。都内は渋滞するから到着するのは昼過ぎだとばかり思ってましたのに」 


 客間のテーブルにアメリア、カウラ、かなめの順で並んで座った。アメリアは正座、カウラは横座り、かなめは胡坐をかいていた。


「ええ、まあ朝早く出たのでなんとかなりました。それでもこの時間でも事故渋滞はありましたがなんとか着きました」 


 そう言って出された茶碗に手を伸ばそうとするカウラだが、慣れない正座で安定が悪いのでふらふらと伸びた手が湯飲みを取り落としそうになった。


「そんな不安定な座り方するからだ。体育座りでもしてろ」 


 かなめはそう吐き捨てると悠々と茶をすすった。そこで突然アメリアが立ち上がった。


「すいません……座卓ありますか?」 


「そうですね、ベルガーさんや西園寺さんも……」 


「ああ、アタシはいいですよ。まあ正座で五分持たない誰かと違いますから」 


 そのかなめは挑発的にそう言った。にんまりと笑うかなめのタレ目はカウラを捉えていた。同じく勝ち誇った笑みを浮かべているアメリアの視線がカウラに飛んだ。だが、アメリアは膝から下の痺れに耐えかねてそのまま座り込んでしまった。


「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」 


 そう言うと薫は消えていった。すぐにアメリアの顔が誠の目の前に動いてきた。


「何度も言うけど、あれお姉さんじゃないの?本当にお母さん?」 


 毎回言われ続けてもう誠は飽き飽きしていた。実物を見たのは夏のコミケの前線基地にここを使ったとき。その時同じ質問を何度も受けたのでもう答えをする気力も無かった。


「ああ、叔父貴が最初に東和に大使館付武官として着任した時に撮った写真でもあの顔だぞ。あれじゃねえか?頭を使う人間は、年をくいにくいって言うじゃん」 


 かなめは嵯峨の写真を思い出しながらなんだか良く分からない例えを出してそう言った。


「言わないわよ。そんな話聞いたことが無いわ」 


 アメリアの一言だがかなめは黙って茶をすすった。


 かなめの叔父、司法局実働部隊隊長である嵯峨惟基が新人の甲武陸軍の東和大使館付武官時代。彼はこの道場に挑戦を仕掛けてきたという。


 その時、滅多に他流試合では剣をとらない母が彼の相手をした場面の映像は誠も目にしていた。それは一瞬であの嵯峨が倒される映像だった。


「まあ僕はそういうものだと思っていましたから。でも同級生のお母さんとか見ると確かに若く見えるような気もしますね。確かに変わらない……隊長が変わらないのは変だなあと思ってたんですが、母が変わらないのはそれが当たり前だと思っていたんで」 


 誠には母が昔から変わらないことはごく普通の事だったので特に気にしたことは無かった。


「そうだろうな。身近な人間は気づかないものだ。他の人間が見て初めて違いと言うものは分かる。そう言う物だ」 


 カウラは体育すわりのまま頷いてみせた。そこに笑顔で座卓を手にした薫が戻ってきた。


 言われて意識して見るとやはり自分の母は妙に若く見えた。高校時代あたりからそのことは誠自身も引っかかっていた。だがそんな意識していた時期も過ぎるとそういうものだと受け入れてしまっている自分がいた。


「はい、これ。カウラさんとアメリアさん」 


 薫はそのまま二人に木製の座卓を渡した。そしていつものようににこやかに笑う母に誠は少しばかり安心した。


「ありがとうございます……でも本当にお母様はお若いですね」 


 受け取りながらのアメリアの言葉ににっこりと笑う薫だが特に言葉も無くそのまま誠の隣に座った。


「嫌だわ本当にお上手で、でも、カウラさん。クリスマスが誕生日なんて素敵ですよね」 


 そう言うと薫は茶をすすってうれしそうにカウラを見つめた。


「まあ、特に私の場合は関係ないですが」 


 薫の言葉にカウラは微笑を浮かべながら答えた。カウラがまんざらでもないときの表情を最近誠は覚えていた。


「でも結構広い庭で……建物も古そうですし……」 


「悪かったですね。中古住宅で」 


 誠はアメリアの言葉に思わず突っ込んでしまった。


「そういう意味じゃないわよ、誠ちゃん。由緒正しいというか、風格があるというか……」 


 アメリアはごまかすようにそう言うと茶をすすった。そんなやり取りを薫はほほえましく眺めていた。


「そういえば神前一刀流の継承者は現在は薫さんじゃないですか?」 


 すっかりくつろいでかなめはそう言った。薫はにこやかに笑いながら頷いた。


「ええ、私の四代前の遼南の庶子の姫君が始めたという話ですけど」 


 真剣な表情を浮かべる薫にかなめは頷いて見せた。



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