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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第二十一章 超兵器の実験

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第88話 実験を終えて

「機体のスペックはまだしもあのおっさんの能力は予定をはるかに超えている……むしろそっちの方が今回の実験の収穫だな。法術師同士の戦いでは自分の能力の限界を示した方が負ける。その鉄則をあのおっさんは守ってるってことだ。あのおっさんの能力の限界はまだまだこんなもんじゃねー。それだけは言える」


ランの言葉が雑然としたハンガーに響いた。


「そういうことね。まあ隊長がどこまでアメリカ軍の実験で能力を失ったかを吐けだなんて言っても無理なだけよ。いくら首を締め上げてものらりくらりとかわされるだけだから。ひよこでも捕まえて問い詰めてみようかしら。『隊長と誠ちゃんとかえでちゃんと茜ちゃん。一番強いのは誰?』って」 


 アメリアはジュースを飲みながらつぶやいた。画面にはすでにひよこの観測したデータのグラフが映し出されていた。


「大変だな。これで隊長の法術の限界能力と言う謎が新たな謎として誕生したわけだ」 


 ランの言葉にアメリアは大きく頷いた。


「今夜は島田達は徹夜だろうな。あのエンジンは冷却作業が一番面倒な作業になるんだ。実験データの整理もしばらくかかりそうだし。ひよこもしばらくは詩を書くのを止めにしてもらうしかねーだろうな」 


 冬の早い夕暮れは過ぎて、定時の時報が鳴った。ランは島田から送られたデータとにらめっこをしながら難しい顔でハンガーの隣の制御室に集まった誠達を見回した。


「本当に良いんですか?僕たち休んじゃって。みんな忙しそうじゃないですか」 


 誠は周りを心配するようにそう言った。ムッとした表情でランがそれを見つめた。カウラはアメリアの策で休暇をとらされるということが今ひとつ納得できない表情を浮かべていた。


「オメー等がいなくても仕事は回るよ。ここ数日は技術部は武悪のエンジンの冷却作業とデータ収集で整備の連中の手が回らないだろうからな。司法局の実力行使活動も、今頼まれてもうちは動けねえよ。既存オメー等の機体の整備に回す人的余裕なんてねーからな」 


 ランは投げやりにそう言って冷ややかな笑みを浮かべた。とても見た目の子供っぽさとは遠く離れたランの表情に誠も愛想笑いを浮かべた。


「みなさーんこれからはお休みですよ!」 


 突然ドアが開いた。そしていつものように突然アメリアが叫んだ。当然のようにそれをランがにらみつけた。


「えーん、怖いよう。誠ちゃん。あそこのちっこい怪物が……」 


 そう言ってアメリアはすばやく誠の腕にすがりついた。


「永遠にやってろ!バーカ」 


 アメリアが誠にまとわりつく様子をランは迷惑そうな表情で見つめた。彼女もアメリアのこういうノリには慣れてきたので無視して仕事に集中した。


「クバルカ中佐。私達の仕事は……」 


 そんな気を使ったカウラの言葉に画面を見つめながらランは手を振って帰れというようなそぶりを見せた。


「ほら!機動部隊隊長殿のありがたい帰還命令よ。カウラお願い」 


 アメリアは通勤用の車の主のカウラを見つめた。仕方がないというように端末を終了して立ち上がった。何度かランを見てみるカウラだが、ランの視線は検索している資料から離れることはない。


「早く帰れ!すぐ帰れ!しばらくは顔も見たくねー!」 


 そんなランの言葉に追い立てられるようにして誠達は詰め所を後にした。年末が近く、データを手にした管理部のパートのおばちゃん達があちこち走り回っていた。


「なんか凄く居場所が無い感じなんだけど。やっぱり帰るしかねえのかな?アタシ達」 


 忙しそうな隊員達を見てかなめは頭を掻いた。さすがに彼等がほとんど誠達に目もやらないことに気がついてため息をついたカウラはそのまま廊下を更衣室へと歩き出した。


 そのまま足早に廊下を走り回る整備班員や管理部員の邪魔にならないように端を歩きながら誠は更衣室へ入った。


「あれ?神前さんは今日は……」 


 中でつなぎに足を通していた整備班の西高志兵長が不思議そうな顔で誠を見つめた。その視線にただため息をついた後、誠はそのまま自分のロッカーの鍵を開いた。


「ああ、アメリアさんがクリスマスと正月というものを過ごしたいということで明日から休みなんだ」 


 どう説明するべきか悩みながらの誠の一言に西は首をかしげた。


「それは聞いてますけど……良いんですか?機体が無い第二小隊はしばらく動けませんよ。それに引継ぎ業務とかはできるだけ口頭でやるものじゃないんですか?臨時の出動とかあった時、誰が対応するんですか?」 


 西の言葉に指摘されるまでも無く誠もそれはわかっていた。


「そんなこと言ってもクバルカ隊長の指示だからな。それに整備班の作業の負荷を考えたら僕達の出動なんて無理な話だよ。そん時はそれこそ東和陸軍や東和宇宙軍にでも対応してもらうしかないな」 


 そう言って言い訳をする誠を西は不思議そうに見つめる。そしてすぐにその視線は羨望の色に染まっていった。


「いいなあ、僕達はたぶんクリスマスはハンガーで北風浴びながら過ごすことになりそうですよ。たぶん、ノンアルコールビールとかシャンパンとか買って」 


「大体お前は未成年だろ?それなら島田先輩とかの方が悲惨だよ……うちじゃあ珍しい彼女持ちなのに」 


 つなぎのファスナーをあげて、帽子をかぶっても遅番の仕事開始の時間に余裕のある西は立ち去ろうとしなかった。


「それにいいじゃないか。にぎやかで」 


 皮肉のつもりで言った誠の言葉だが、明らかに西の心をえぐるような一撃だった。瞬時に顔が赤くなる。そして大きく深呼吸をした西は視線をそらした。


「それじゃあ失礼します!」 


 誠を恨めしそうに一瞥した後、西は肩を落として更衣室を出て行った。


 そのまま誠はジーンズを履いてダウンジャケットを羽織った。


 更衣室の電源を消して廊下に出てみるが、相変わらず活気のある廊下には隊員が行きかってきた。電算室から顔を出した島田がうらやましそうに誠を見るが、そのまま勢い良く飛び出すと、早足でハンガーへと向かっていた。



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