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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第二十一章 超兵器の実験

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第87話 奇才の本領

「あんな芸当ができる法術師は他にいないんじゃねーかな。何が『最弱の法術師』だ!アタシだってあんな真似は出来やしねー。しかもこの状態で笑ってやがる。まったく底知れねえな」 


 そんなランの言葉に同じ法術師であるかえでは大きく頷いた。エンジンの音が途切れて沈黙が支配するハンガーが誠には不気味に感じられた。固定器具の冷却液の吹き上げる音、ハンガーを渡る強い北風の風鳴り、そのような音が響いてまるで何も起きていないかのような錯覚にとらわれた。


『実に静かだねえ……こりゃあ環境にやさしいや』 


 嵯峨は笑っていた。だが、真剣な表情で彼の様子と調査データ見比べているランにそんな言葉は届くものではなかった。


「ひよこ!データは?ちゃんと保存出来てるだろうな?こんな機会二度も三度もあるもんじゃねーぞ」 


 ランは念を押すように強い調子でひよこにそう言った。


『ばっちり取れてますよ……ってこれは干渉空間が大きいです!これだけのエネルギー退避領域があれば予定の倍ぐらいまで標準システムで回りそうですけど……そこまでやりますか?』 


 ひよこの声にランは複雑な表情で腕を抱えて考え込んだ。


『クバルカ。エンジン回すのは良いけど俺の負担も考えてくれよな。顔は笑ってるけどこの状態結構疲れるんだわ。いつまでもこのままってのは勘弁してちょうだいよ』 


 言葉とは裏腹に嵯峨は余裕の表情で笑みを浮かべていた。だが、しばらく考えた後ランは決断した。


「どー見ても平気そうに見えるけどなー……とりあえず30パーセントまで上昇後、そのままエンジンのエネルギーを正常空間内に誘導。停止ミッションに移行する」 


 ランは少し迷った後、エンジンを停止させるミッションに移行することを選択した。


「だろうな。焦る必要もないだろう。この機体は今すぐ必要になるような機体ではない。そもそも機体の出動許可が出る手続きが複雑すぎる」 


 カウラも同意するように頷いた。


「なんだよ……中途半端というか……煮え切らないと言うか……もっと派手にフルパワーを出すところとか見てみたかったのによう」 


 そんなことをつぶやくかなめをランがにらみつけた。


「わかってるよ。干渉領域に逃げてるエネルギーがエンジンに逆流してきたらドカンと行くって話だろ?確かに急いで稼動状態に持っていく必要も無いわけだし……」 


 かなめの返事が合格点の言い訳と捉えたのか、ランはそのまま視線をひよこに向けた。


「全てにおいて予想以上というところですかね。隊長!予定出力に達しました。後は……」 


『はいはい、絞ればいいんだろ?早速はじめるよ』 


 嵯峨はそう言うと口に左手を持っていった。それでタバコを口にくわえていないことを再確認するとそのまま大きくため息をついた。


「タバコなら後にしてくださいよ!以前どれだけその臭いで……」 


 コックピット内でタバコを吸う嵯峨にランは思わず苦言を呈した。


『すみません。申し訳ないです……シュツルム・パンツァーに乗ってる間はこれが無いと俺死ぬんで』 


 素早い手つきでタバコに火をつけながら嵯峨はおどけたようにそう言うとエンジン出力を絞った。


『こちらも順調です。観測された干渉空間が縮小……エンジン通常空間に出力転移!』 


 ひよこの言葉が届いたとたん、轟音が黒い機体から響きはじめる。再び機体の周りを制御を離れた干渉空間が覆った。


「つまらねえなあ。もっとやる気の出るようなアクションはねえのかよ」 


 ぼそりとつぶやいたかなめをランが見上げた。


「なんなら……オメーと実戦やるか……実弾・抜き身のダンビラ付きで。あのエンジンのパワーを見たろ?アクチュエーターの限界に近い出力のシュツルム・パンツァー相手に一戦やるところ、アタシは見てみたいもんだ」 


 そう言ってランはにやりと笑った。明らかにそれは無茶な課題を振るときのランの表情だった。


「遠慮します!全力で遠慮します!相手は伝説の『武悪』。しかも乗ってるのが叔父貴。勝ち目は無いです!」 


 かなめはそう言ってごまかしにかかった。そんな彼女をランは鼻で笑った。今度は黒い機体から冷却液が蒸発する煙と振動を伴う轟音が上がり始めた。整備班員の一部、耐熱装備を着込んだ一群がそれを見守っていた。


「島田!固定器具の冷却液を追加注入!それと各部の発生動力の観測データをこっちに送れ」 


 ランはそこまで言うと隣にあった椅子に腰掛けて勤務服の襟の辺りに指を差し込んだ。


「平気なんですかね……隊長は」 


 カウラの言葉にランは黙って笑みで返した。次第に機体の振動は止まり、島田の指示で整備班員達がホースやコードを持ってハンガーを走り回るのが見えた。勢い良く沸騰した冷却液の蒸気が吹き上がった。作業員の叫び声が響き渡った。


「予想以上。そう言う事だな」 


 モニターを見つめていたランは大きく頷いた。


「まあそういうこと」


 ランはそれだけ言うとテーブルに置かれていたジュースのカップに手を伸ばした。



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