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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第十八章 久しぶりの語らい

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第69話 ロールアウト以来の再会

「ここかよ……また……まー気楽でいーっちゃーいーけどよ。気楽だし」 


 ランは上座で一人、手酌で日本酒を飲みながら短い足で胡坐をかいていた。月島屋の二階の座敷。何度と無く来ているだけにランの苦笑いも誠には理解できた。


「でも……いいの?私達までカウラちゃんのおごりなんて」 


 そう言いながら来客も待たずに突き出しの胡麻豆腐を出してもらってそれを肴にアメリアはビールを飲んでいた。彼女のわき腹を突いてサラが困った顔を浮かべるが、まるで気にする様子も無くアメリアはジョッキを傾けた。


「私達にとってはベルガー大尉と同じ妹に当たるんですね。本当に楽しみですね」 


 常識人のパーラも同じ『ラスト・バタリオン』の妹に当たるエルマを迎えることがうれしいようで笑顔でそう言った。


「でも残念ですね。島田先輩は別件があるって言ってましたから」 


 いつもはこういう席には欠かせない盛り上げると言ったらこの男の整備班班長島田正人准尉の姿が無いのが誠には少し残念だった。


「神前君。気にしなくても良いって!正人には他の女の人には会わせたくないの。私と言う立派な彼女が居るんだから!」 


 ピンクの髪を振りながらサラが元気に答えた。誠も笑みを浮かべながら主賓の到着を待っていた。


「すまん、待たせたな……って、同僚達も一緒か?」 


 階段からコートを抱えた青い髪のエルマが顔を出した。アメリアが隣の席に座れと指差すが、愛想笑いを浮かべたエルマはそのままかなめの隣のカウラと向かい合うテーブルの前に腰掛けた。


「どうも私の部隊では一人が飲みに行くと言い出すと、いつでもこんな有様なんだ。ここはうちの隊舎みたいなものだ。楽にしてくれ」 


 カウラの一言で緊張していたエルマの表情が緩んだ。エルマについてきた小夏にランが手を上げて注文を始める合図をした。小夏はそのそばにたどり着くとランの注文を受け始めた。


「もう五年経つんだな……社会適合訓練所を出てから。短かったような長かったような……不思議な時間だ」 


 まるで数十年前の出来事を思い出している時のような表情でエルマはそう言った。


「ああ。私にとってはあっという間だった。それだけ充実していたと言うことだろう。私は幸せなラスト・バタリオンなのかもしれない」 


 そう言ってカウラとエルマは見詰め合った。その様子をこの上なくうれしそうな表情のアメリアが見つめていた。


「昔なじみの再会だ。その再会に水を差すようなくだらねえこと言うんじゃねえぞ、特にアメリア!テメエはいつも一言多いんだ。気を付けろよ!同じラスト・バタリオンの先輩として少しは後輩に気を遣え!」 


 すでに自分のキープしたジンを飲み始めているかなめがいつものように奇行に走るかもしれないアメリアに釘を刺した。誠はその隣でいつ始まるかわからないアメリアの悪ふざけに警戒しながら正座で座っていた。


「今の品の無い発言をしたのが西園寺大尉だ。あの甲武国四大公家の筆頭、西園寺家の当主だ。見た目はああだが、あの貴族主義反対派の甲武国宰相西園寺義基公の長女と言う訳だ。だからあれほど庶民的な格好をしているんだ。きっと仲良くなれるに違いない」 


 カウラの言葉に眉を引きつらせながらかなめがエルマに顔を向けた。


「エルマ・ドラーゼ警部補です。お噂はかねがね……」 


 エルマが口ごもったのはかなめがいつも銃を持ち歩いて発砲をためらわないと言う悪い噂が東都警察内で広がっている証だと誠には思えていた。


「これはご丁寧に。ワタクシは甲武、藤の検非違使(けびいしの)別当(べっとう)要子(ようし)と申しますの。よろしくお願いできて?」 


 わざとらしく上品な挨拶を繰り出すかなめの豹変振りにエルマは目がでんぐり返ったような表情を浮かべた。時々かなめのこういう気まぐれに出会ってきた誠は苦笑いを浮かべながらエルマが落ち着くのを待っていた。


「あらあら……皆さんどういたしましたの?ささ、皆さん今日はカウラ様からおごっていただけると言う仰せなのですから……どうされました騎士クバルカ様」 


 かなめは貴族と紹介された手前、貴族を演じるべく上品にランの方を向いた。


「キモイぞ西園寺。それとオメーの飲んでるのを払うのはテメーだ。オメーのジン『タンカレー』は高いんだ。テメーで払え」 


 時々お嬢様を気取ることもあるかなめだが、初めてその現場に立ち会ったランが複雑な表情でかなめをにらんでいた。タレ目のかなめは満面の笑みでランを見つめていた。


「まあ、失礼なことを仰られますのね。おーっほっほっほ」 


 かなめが口に手を上げて笑い始めた。カウラとアメリアの二人はこういう状況のかなめには慣れているので完全に普通に振舞っていた。それを見てサラは階段の方に歩き始めた。


「小夏ちゃん!料理をお願い」 


「ハーイ!」 


 小夏の声が聞こえるとかなめはそのまま目の前のグラスのジンを飲み干した。そうして大きくため息をつき。彼女を見つめているエルマを見つめながらにんまりと笑った。


「やってらんねえなあ。貴族らしくするのはアタシは疲れるんだ。別にいつも通りでもいいよな、カウラ」 


 すっかり素に戻ったかなめにエルマは再びびっくりしたような表情を浮かべてかなめを見つめた。


「ならやるな。貴様の気まぐれが今回のメインイベントじゃ無いはずだ。そんな奇怪な行動を見て欲しければアメリアのやるお笑いイベントにそう言う芸人として出ればいい」 


 お嬢様モードからかなめはいつもの調子に戻った。頭を掻きながら手酌でジンを飲み始めた。



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