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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第十七章 せっかくのパーティーを断られた人

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第63話 いなかったことにされる妹

「西園寺さん……」 


 青白い顔をして誠はハンガーの前で泣きそうな顔でかなめを見つめていた。かなめ、カウラ、アメリアとの昨日の飲み会の記憶が誠の頭の中でフラッシュバックしていた。いつものようにおもちゃにされた誠は泥酔して全裸になっているところをアメリアに写真に撮られて、いつも通勤に使っているカウラの車の中で見せびらかされていた。


「何のことかねえ。飲み過ぎはいけねえなあ……酒に弱いのは体質か?なら仕方がねえ」 


 とぼけるかなめに賛同するようにアメリアは頷いた。カウラは諦めたように視線をハンガーの中に向けた。


「日野少佐、何をしているんですか?」 


 気がついたようにカウラが叫んだ。ハンガーで呆然と中に並ぶ05式を見上げている日野かえで少佐がぼんやりと立っていた。振り向いた彼女は少し弱ったような顔で笑いかけてきた。


「やあ、君達はいつも仲がいいんだね……お姉さまは僕主催の夜会には出たくないって言うんだよ。クリスマスと言ったら夜会だろ?それを何で……僕の大事な『許婚』である神前曹長なら理由は知っていると思うのだが、どうだろうか?東和には夜会があまり無いと聞いていたのでお姉さまも喜んでくれると思っていたのだが」 


 何か言いたげなかえでの瞳に誠達は複雑な気持ちになった。かえでの夜会の内容が健全なものなのか、それともかえでの趣味の変態的なものなのかも気になったが、その話題を何故自分に振ってくるのかが気になった。


「それはですね……カウラさんの誕生日がたまたまクリスマスと重なりまして。なんと言っても所属する小隊の小隊長の誕生日ですし、そこは軍人として仕事を優先したのではないかと……」


 かえでの前になると緊張してしまう誠は言い訳じみた事とは分かっていてもそう言うことしかできなかった。


「お姉さまは幸せなんですかね。僕の主催した夜会より同僚の誕生日が優先なんだ……僕の……どこが足りないんだろう?今回の夜会は東和のセレブも呼んで盛大に祝おうと思っていたのに。セレブ達も夜会の少ない東和に会って甲武国四大公家の当主である僕主催の夜会とあってかなりの数が集まってくれると言うのに。かなめお姉さまの事だから、僕の事をもっとひどい虐め方をしたいのだろうか?神前君はどう思う?」


 東和のセレブと言うかえでの変態性とは無関係な第三者を呼ぶと聞いて、かえでの夜会が常識の範囲内のものだったことに安心すると同時に、かえでのその思考の異常性に気付きながらも誠はただ苦笑いしかできなかった。


「神前君。君の童貞を奪ってしまえばお姉さまの心も変わるかもしれないな……今夜あたりどうだろうか?僕の屋敷に来てくれるかな?もしも気が向いたらで構わないんだけど」


 そう言っていきなりかえでは見る人を引き付けて離さない笑みを浮かべて誠に迫ってくる。誠はあまりに突然のかえでの態度の変化にただ困惑するばかりだった。


「まだ早いです!僕達はまだそんな関係じゃありません!それに『漢』になる前にそんなことしたらクバルカ中佐に殺されます!」


 誠はこれ以上かえでに関わるとろくなことになりそうにないのでとりあえずその場を離れることにした。


「君も行ってしまうんだね……僕は一人だ……寂しいクリスマスになりそうだ。どんなにセレブ達にちやほやされてもお姉さまや『許婚』の居ないクリスマスなどあって無いようなものだ」


 立ち去る誠の背後でかえでがそう言うのを聞きながら誠はそのまま更衣室を目指した。


「まだ青い顔をしているな貴様は。昨日飲み過ぎたせいか?それとも日野少佐に何か変な要求でもされたのか?」 


 先ほどかえでにとんでもない要求をされたことを話す訳にもいかず、カウラの言葉に誠は力無く笑った。誠はそのまま近づこうとするが思い切りかなめに引っ張られてよろける。


「何するんですか!転んだらどうするんですか!」 


 誠は思わずそう言い掛けて口をかなめにふさがれた。そしてささやくつもりで誠の耳にアメリアが口を寄せた。


「今のかえでちゃんに下手に絡むと後で面倒でしょ。特に誠ちゃんはかえでちゃんの『許婚』と言うことになってるんだから。出来るだけデリケートに扱うように気を付けてね。でも誠ちゃんの童貞をあげるなんて簡単に言っちゃだめよ。そうしたらかえでちゃんの変態世界に引きずり込まれて大変なことになるから。そうなったら誠ちゃんももう正常世界には戻ってこれない立派な変態の一人になっちゃうわよ」 


 そこまで聞いて誠はかなめへの愛に生きるかえでの本性を思い出した。誠はそのことを思い出すと二日酔いでぼんやりした意識が次第に回復して背筋に寒いものが走るのを感じた。


「いいねえ、君達は。いくら魅力的な女性達が集まる夜会でも、かなめお姉さまも『許婚』の神前曹長も居ないとなるとまるで魅力を感じないよ。折角ホテルのオーナーに無理を言って予約した大ホールもすべては無駄だったんだ。まあ、仕方が無いか……人生すべてが思うようにはいかないと言うことなのかもしれないね」 


 ハンガーの冷たい空気の中、冷めた笑いを浮かべた後、かえでは大きくため息をついた。誠はそのままかなめに引きずられて事務所に向かう階段へと連れて行かれた。何か声をかけようとしていたカウラだが、そちらもアメリアに耳打ちされてかえでとの会話を諦めて誠達のところに連れてこられた。



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