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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第十六章 いつものような飲み会

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第58話 質素を旨とする家訓

「でも、上流貴族のレベルの肉って、結構いい肉を食べられるのよね。食客の人も大喜びだわ」


 アメリアは肉が好きなので楽しそうにそう言った。 


「あのなあ、もう一年半の付き合いだろ?観察力のねえ奴だなあ。アタシの食ってるもをの見てねえのか?」 


 かなめが呆れたようなタレ目をアメリアに向けた。実際この目で何度も見られている誠はその独特の相手を苛立たせる感覚を理解して複雑な表情で睨み返しているアメリアのことを思っていた。


「何言うのよってああ……」 


 かなめに嘲笑のような言葉を浴びせかけられてアメリアは手を叩いて何かを悟った。そんな様子をほほえましく春子はほろ酔い加減で見守っていた。


「はい!兄貴!」 


 計ったようなタイミングで小夏が誠にジョッキを運んできた。かなめとアメリアの間の緊張した空気が解けた。


「貧乏舌だものね、西園寺さんは」 


 春子に指摘されてかなめは頭を掻いた。


 確かにかなめの悪食は有名だった。ともかくまずいと怒っているのは菰田の味付けが崩壊した料理と、目の前のカウラとアメリア、二人の料理を出されたときだけ。後は鮮度が見るからに落ちている魚だろうが、ゴムのように硬い肉だろうが、素材で文句を言うことはまず無い。そして味付けも量の測り方がおかしくて誰もが文句をつけるところでも平気で食べているかなめをよく見かけた。


「まあ、否定はしねえよ。西園寺の家は代々そうなんだ。爺さんも食い物に文句をつけたことが無いって言うし、親父もおんなじ。まあ遼帝国貴族の出のお袋やかえでなんかは結構舌が肥えてて、いろいろ文句を言うけどな」 


 さらりとそう言ってかなめはグラスの酒を飲み干した。誠はなんとなく納得ができたと言うように出されたビールを飲み干した。


「でも結構な量なんじゃないのか?何千人っているんだろ?食客」 


 カウラは安い肉とは言え、人造肉しか食えない平民しか住んでいない甲武の西園寺家の出費が気になってそう言っていた。


「まあ芸人なんて言うのはほとんどが稼ぎ時でも寄席なんかに呼ばれずに暇を持て余しているのがほとんどだからな。でもお祝い事の季節に最下等の肉ばかり買いあさる貴族なんて他にいねえよ。その時期は安い肉は結構余るからさらに安く買いたたけるんだ。書生連中もコネがあるから流れ作業で何とかなるみてえだったぞ」 


 かなめはそう言うと今度は自分で酒を注いだ。


「わかったことがあるわ!」 


 突然アメリアが叫ぶ。いかにも面倒だと言うような顔でかなめがアメリアを見つめた。


「なんだ?」 


 アメリアをにらみつけるかなめの目をじっと見つめた後、アメリアが口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「かなめちゃんの話は全く参考にならないということよ!そんなクリスマス嫌!」 


「だったらしゃべらせるんじゃねえ!」 


 かなめが大声で怒鳴りつけた。さすがにその大きな声に誠は驚き、カウラと春子は顔をしかめた。


「だから外道って言うんだよ」 


 厨房の入り口の柱に寄りかかっていた小夏は少し引き気味にそう言うと奥へと消えていった。


「あんまり大きな声出さないでよ……」 


 そう言うとアメリアはビールを口に運んだ。その様子をにらみつけるかなめの手が怒りに震えている。誠はできるだけ穏便にことが済むようにと願いながら様子をうかがう。


「でも確かに参考にはならないわね。アメリアさん達は普通のクリスマスの過ごし方をしたいんでしょ?」 


 春子の微笑みにカウラは苦笑いを浮かべていた。それを見て誠も頭を掻きながら周りを見回した。


「やっぱり恋人と二人っきりって言うのが定番よね。特にこのモテない宇宙人の星である遼州ではファンタジーの世界と言われるくらいのあこがれだわ」 


「あの、春子さん……」 


 誠は三人の脅迫するような視線を浴びて情けなく声をかける。春子は笑顔で手にしたグラスの中のビールを一息で飲み干した。


「それに至るには私達の経験値が足りないのよ。だから、とりあえず家族や仲間でのクリスマスの過ごし方を体験しようと……」 


 珍しく焦った調子でアメリアは取り繕いの言葉を並べる。隣で大きくカウラがうなづいてみせた。


「そういうことなんで春子さんは何か……」 


 ようやくタイミングが見付かり誠が声をかけた。その後ろではグラスにウォッカを注ぎながら威圧してくるかなめの姿があった。



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