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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第十五章 基地祭帰りのドタバタ

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第55話 いつもの展開となって

「ああ、カウラちゃん。実はお願いがあるんだけど……聞いてくれるかしら?」


 アメリアはそう言ってカウラの表情を伺うように長身の腰をかがめた。 


「寮まで送れってことか?貴様は自分の車は車庫に置きっぱなしでまるで自分で運転すると言うことはしないんだな。自動車はあまり長期にわたり運転しないと自然に壊れるものだぞ。まあ私達は今日はすることも無いからな。良いだろう、送ろう」 


 そう言うとカウラは奥の更衣室に向かう階段を登り始めた。誠、かなめも彼女に続いた。ハンガーを臨む管理部の部屋の明かりは煌々と輝き。中では管理部部長の高梨に説教されている菰田の姿が見えた。


 誠はわざと中を見ないようにと心がけながら実働部隊の部屋の扉に手をかけた。


「おう、帰ってきたか。ごくろーさんだな」  


 機動部隊隊長の椅子には足をぶらぶらさせているランが座って難しい顔で端末の画面を眺めていた。


「おう、姐御……ってやっぱりこれかよ。また面倒ごとが一つ増えやがった」 


 部屋に飛び込んでランの後ろに回りこんだかなめはがっかりしたように額に右手を当てた。部屋の明かりはランの上の一つを除いて落とされている。静かな室内に誠達の足音だけが響いた。


「オメー等も知ってたか。でもなー。アタシはこいつには乗りたくねーんだよな。いや、もう二度と乗らねーと決めてるんだ。アレは穢れた機体だ。一度生き直すと決めたアタシは二度と乗りたくねー。あの殺す殺されるの地獄の日々はもうたくさんだ」 


 再びランはため息をついた。画面にはランの専用機として配備予定の『方天画戟』の画像が映っていた。


 パーソナルカラーの紅と黒で塗装された機体。特徴的な額の角のように見える法術監視型レーダー。画像に映っているのは宇宙での模擬戦闘の様子だった。東和の前世代型のシュツルム・パンツァーである自動操縦の89式や97式が次々と撃破されていく様は、さすがに本当の意味でシュツルム・パンツァーと呼べる特機と言わしめた威力を知らしめるものだった。


「結構動くもんだねえ。そう言えば波動パルスエンジンが09式に搭載する予定で開発された奴のボアアップしたバージョンを搭載しているんだって話だよな。かなりの馬力だな」 


 かなめは感心した調子で画面の中で05式では考えられない機動を見せる『方天画戟』の動きを眺めていた。


「まあな。出力的には10パーセント増しくらいだが吹き上がりが全然違うからな。さもなきゃこんな機動は取れねーよ。まあ、『武悪』の特殊な構造のエンジンは別としての話だがな。アレのエンジンは特殊過ぎる。あんなものに耐えられるアクチュエーターなんてまだ開発されてねーぞ。まったくエンジンばかりでかくなったってそれに似合う手足を動かすアクチュエーターが無ければ宝の持ち腐れじゃねーか」 


 紅い機体の圧倒的な勝利に終わる模擬戦闘訓練を見ながらランは浮かない顔で誠達を見上げてきた。


「なんだよ、ずいぶん乗り気じゃないみてえじゃねえか。何かあったのか?」 


 ランはかなめの言葉を聞くと彼女の顔を見上げる。そして目をそらして大きなため息をついた。その挑戦的な態度に拳を握り締めるかなめを押しのけるとカウラはランの目の前の書類を手に取った。


「『新装備関連予算計上に関する報告』?やっぱり予算がらみの話ですか」 


 乾いた笑いを浮かべるカウラの言葉に静かにランは頷いた。


 嵯峨の『武悪』、ランの『方天画戟』どれも軍の規格を適用すれば確実に失格とされることは間違いない機体だった。開発コストや生産コストがもし半分以下だったとしても採用に踏み切る軍は存在しないと言われる維持コスト。要求される予備部品の精度とそれで発生する部品のロスの多さは改修を依頼されていた菱川重工のトップもためらうほどのものだった。そしてそれを運用状態に持ち込むまでにかかる作業量は想像を絶するもので、それがもたらす仕事環境の変化を予想して島田などはすでに頭を抱えているように見えた。


「遼帝国の革命博物館にでも返品したらいいんじゃないですか?そんな予算、うちに無いでしょ?それがあるならとっと第二小隊の機体を用意してくださいよ」 


 アメリアの言葉に一瞬光明を見出したような明るい表情で顔を上げるランだが、すぐに落ち込んで下を向いてしまった。


「それができりゃー苦労はしねーんだよ。アタシだってこんな化け物は要らねーんだ。よっぽど使える第二小隊の05式三機の引き渡しを済ませてー……はあー」 


 再びランは大きくため息をついた。


「中佐殿!」 


 突然アメリアが直立不動の姿勢をとって叫ぶ。


「お?おい……うむ……なんだ?」 


 アメリアの言葉に怯みつつランは恐る恐るその表情をうかがう。誠は嫌な予感に包まれながら突然の真剣な表情のアメリアを見つめた。カウラもかなめも同じような考えが浮かんだらしく、カウラは呆れて、かなめはニヤニヤ笑いながらランとアメリアを見つめていた。


「実は今の中佐殿の姿に萌えてしまいました。抱きしめる許可を頂きたいのですが!」 


 アメリアの脳内はいつものように腐っていた。


「馬鹿野郎!下らねーことを考えるのはやめろ!」 


 誠の予想したとおりの言葉を発するアメリアをランは真っ赤になって怒鳴りつけて目の前の予算関係の書類を手に取った。


「もうっ!本当にかわいいんだからランちゃんは!」 


「おい、クラウゼ。一遍死ぬか?いや死んだ方がいい、なんなら殺してやろうか?」 


「まあっ!ランちゃんたら怖い!」 


 そう言って弾力がありそうなランの頬を突こうとするアメリアだがランはその指を叩き落した。アメリアは少し残念そうな顔でランを見つめた。



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