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第4話 説教する『駄目人間』 

 誠が入ってきた重い扉を開いて重装備のカウラと普段の勤務服にピコピコハンマーを持った司法局実働部隊の勤務服姿の嵯峨が姿を現した。


「なんだよお前等。たるんでるんじゃねえのか?これじゃあしばらくは俺も前衛に出なきゃならねえじゃねえか。俺は背後で暗躍するタイプの人間なの。裏でこそこそ悪だくみを巡らすのが大好きな人間なの。そんな人に前線に出てこいだなんて残酷なこと良く言えるね。それは人としてどうかと思うよ、俺は」 


 そう言いながらもニコニコと笑い、嵯峨は奥の棚のコーヒーメーカーに向けて真っ直ぐに歩いていった。入り口に立ったまま装備も外さずに渋い表情をかなめに向けているカウラが気になって誠は自然を装いながらカウラに近づいた。


「ドンマイ。相手が悪すぎでしょ。隊長は元甲武国国家憲兵隊の隊長をしてたのよ。相手の寝首を掻くのが専門の部隊。そこの最強の男相手にカウラちゃんは良くやったと思うわよ、私は」 


 アメリアがデータをまとめながら手を上げてそう言った。その言葉にかなめはアメリアの後ろに回り後頭部をはたいた。


「かなめちゃん!いきなり何すんのよ!コーヒーがこぼれたらもったいないでしょ!」 


 いつものかなめの身勝手な暴力にアメリアはいつも通り怒って見せた。とりあえず、ここで怒っておかないとさらに嫌がらせが加速していくことをアメリアも知っていた。


「ああ、ごめん。蚊がいたんだ。おかしいなあ……こんな季節に。アタシは甲武の生まれだから東和の蚊の習性は良く知らねえんだが……冬でも出るんだな。東和の蚊は」 


 とぼけた調子でかなめはそう言ってアメリアに笑いかけた。


「そんなの甲武国も東和も関係ないじゃないの!もう十二月よ!蚊なんているわけ無いじゃないの!もう、殴りたいから殴ったって……そんなに殴るのが好きだったらかえでちゃんを殴ってあげなさいよ。あの人はマゾなんだから」 


 明らかに芝居とわかるような怒り方をするアメリアに誠はなんともいえない苦笑いを浮かべるしかなかった。二人がにらみ合うのを見てようやくヘルメットを脱いだカウラがつかつかとかなめに歩み寄った。


「止めておけ、西園寺。ここは子供の遊びをするところじゃない。訓練場だ」


 いつも通りカウラは淡々とした調子でかなめにそう注意した。 


「ああ、隊長さんのお言葉なので自重しまーす。アメリア、小隊長殿のお言葉に感謝しろよ」 


 そう言うとかなめは自分より一回り背の高いアメリアを特徴的なタレ目で見上げて薄笑いを浮かべてみせた。その態度に明らかに不機嫌になりながらカウラは銃の弾倉を入れてあったベストをテーブルに放り投げた。隣で使用した模擬弾の抜き取りを終えたリン、ベストを専用のケースに仕舞ったアンがアメリアに何か耳打ちしているかえでを待っていた。


「それじゃあお先に失礼します!お姉さま、先に隊でお待ちしていますね!」 


 かえではそう言うとそのまま支度を終えたリンとアンを連れて訓練場の出口へと向かっていった。


「最近、普通よね、かえでちゃん。前みたいに何かというと『お姉さまー!』とか言ってかなめちゃんに抱き着くことも無くなったし。『許婚』の誠ちゃんに絡むこともあまり無い。さすがに学習能力は高いって言うことかしら?誰かさんと違って」


 頷くアメリアを見ながらかえでは素早く背筋を伸ばして帰っていくかえで達に敬礼した。


「おう、ご苦労さん!」 


 ピリピリとした雰囲気をかもし出しているカウラ達を面白そうに眺めていた嵯峨が振り返って義娘に手を振った。


「ところでアメリア、学習能力がねえのは誰だ?アタシのことじゃねえよな?島田だよな?あのヤンキーのことだよな?アイツは確かに学習能力ゼロだからな。バイク泥を何度も繰り返してその度に近くの警察署のお世話になる。確かにアイツには学習能力はねえ」


 かなめは分かっていてその場にいない整備班長でヤンキーで何度も窃盗を繰り返しては警察のお世話になっている島田正人准尉の名前を挙げてそう言った。


「え?自覚が無かったの?かなめちゃん。貴女の事よ。学習能力が無いのは。いつも全身突撃ばかりで回りがまるで見えてない。ランちゃんが好きな将棋と違って前だけ見てて戦争は勝てるほど甘くは無いのよ。そんなかなめちゃんを学習能力が無いと言う他のどんな表現で表すのが適切なのかしら?他の表現方法が有ったら教えてもらいたいくらいだわ」


 アメリアは挑発的な態度で着替えを終えようとしているかなめにそう言った。


 かなめが着替えを終えたらアメリアを射殺するのではないか。誠はいつものかなめの銃に頼る性格を知っているので恐怖に駆られた。


「アメリア。西園寺に学習能力が無いのは今に始まったことではない。すべては小隊長である私がその西園寺の性格を知った上で指揮を出していれば良かっただけだ」


 自分を責めるような調子のカウラの言葉がさらにかなめの怒りに火をつけた。


「おい、カウラまで何を言ってるんだよ!実戦経験ってもんがアタシに比べて無いに等しい人間に指図される覚えはアタシには無いね!戦闘は一に実戦、二に実戦だ。安全の保障されてる訓練なんていくらやっても無駄!訓練しかしたことのねえテメエ等とアタシじゃレベルが違うんだよ!叔父貴が強いのはその実戦経験の差だ。さすがのアタシも叔父貴がくぐった地獄の戦場を生き残る自信はねえ」


 かなめはふてくされてそう叫ぶと制服の上に着用しているホルスターから愛銃スプリングフィールドXDM40を取り出そうとした。


「お三方、止めてくださいよ!ここは『特殊な部隊』の隊内じゃないんですよ!借り物の施設なんですよ!少しは自重してください!」 


 三人の仲裁を押し付けられた誠は泣きそうな表情で、部隊長である嵯峨の隣の席に座って彼のにんまりと笑う顔を見つめていた。



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