第37話 家事と無縁な女達
「それでお料理……」
こう言ってアメリアは黙り込んだ。
アメリア、カウラ、かなめ。家事とは縁のない三人である。寮の料理当番では三人がすさまじい能力を発揮して見せたことは伝説となりつつあった。
アメリアに任せると味付けが崩壊した。包丁の使い方は誠と同じ程度、レシピどおりに火を通し手早く作業を進めた。だが味付けで普通を拒否する彼女は絶対に適量を守ることはなかった。それ以来彼女は食材切りがかりとして味付け担当を別に設けて料理当番を務めることになった。
カウラの場合手際が悪いのが問題だった。まるで理科実験をしているとでも言うように、計りに目を向けて動かなくなる。そんなカウラに笑っていられたのは最初に当番のときだけだった。ともかく計る。何でも計る。そして間違えないようにと調理中にも計る。次第に料理を作っているのか食材の重さの検査をしているのかわからなくなる。当然時間は数倍かかり、朝食を食わないで寮を飛び出す隊員が続出した。それ以来彼女は食事当番が免除されることとなった。
正反対なのがかなめだった。適当、いい加減、そして短気。野菜炒めは半生。目玉焼きはスクランブルエッグ化。味噌汁はぬるかった。本人は全く気にせず食べるだけに性質が悪かった。当然彼女も食事当番免除組である。
「ほら!クリスマスの時期ってオードブルの広告とか一杯出ているじゃないですか!何とかなりますよ!それに母は料理が得意なんで……皆さんの料理の勉強にもなるかも知れませんよ。今から考える必要なんて有りません!」
明るく作り笑いを浮かべて誠は叫んだ。とりあえずアメリア達が作る料理は食べたくないと言うはっきりした意志がそこには現れていた。自覚のあるカウラは引きつった笑いを浮かべて頷き、自分のことは棚に上げているだろうが、とりあえずアメリアとカウラの料理は食べたくないかなめが納得したように頷いていた。
「そうね……じゃあ料理は出前でオーケーっと。期待してるわよ、誠ちゃんの『おふくろの味』」
誠は胸をなでおろした。コタツから追放されて正座している誠の足を隙間風が襲った。
「神前。寒いんじゃないのか?」
カウラはそう言うとかなめをにらみつけた。一人、こたつに入ることを許されずに正座を続けていた誠は確かに寒かった。そればかりでなくなんとなくはじめた正座のせいで足がしびれてきていてぴょこぴょこと足を動かしてそれを我慢していた。
「仕方ないなあ……ここに足を入れろよ。少しは暖まるだろ」
ずるずるとかなめは横に移動した。そしてそこに足一本分くらいのスペースが出来た。
「おい、西園寺。それじゃあ入れないんじゃないのか?神前はこの長身だ。足も長い。そんな幅じゃ入りきらないぞ」
カウラは大柄な誠を気遣ってそう言ってくれた。
「良いんだよ!片方ずつ変わりばんこに入れればあったかくなるだろ?それになんなら……」
タレ目のかなめの上目遣いの視線を感じて誠は寒気がした。舌なめずりをしているその顔にはなんともいえない色気が立ち込めた。誠も一瞬だまされそうになるがカウラの冷たい視線で我に返った。
「無茶言わないでくださいよ。それにそんなに密着してたらセクハラじゃないですか。僕は日野少佐じゃありません!」
誠の泣き言が響く警備室の中は暖房は聞いているがこたつの中で無いととても耐えられるものでは無い。だが、コタツの上で画面を黙っていじっているアメリアは彼等のことなど眼中になかった。




