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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第六章 日常業務は続く

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第22話 ちっちゃな副隊長

「遅せーぞ!ここに着いてから歩くことしかしてねーのにいつまでかかってんだ!とっとと来い!」 


 オフィスを眺めていた誠達を甲高い声が怒鳴りつけた。司法局実働部隊が補修する主力兵器シュツルム・パンツァーと呼ばれる人型機動兵器。東和では特機と呼称される人型兵器の運用を任されている司法局実働部隊の中心部隊『機動部隊』の部隊長、本来は非番のはずのクバルカ・ラン中佐がその機動部隊の詰め所の前で誠達を待ち構えていた。いつもの事ながら誠は怒ったような彼女の顔を見ると一言言いたかったがその一言は常に飲み込んでいた。 


 勤務服を着て襟に中佐の階級章をつけ、胸には特技章やパイロット章や勲功の略称をつけているというのに、ランの姿は彼女が部隊屈指の古強者であるということにまるで説得力が無くなって見えた。その原因は彼女の姿にあった。


 彼女はどう見ても小学生、しかも低学年にしか見えない背格好だった。124cmの身長と本人は主張しているが、それは明らかにサバを読んでいると誠は思っていた。ツリ目のにらむような顔つきなのだが、やわらかそうな頬や耳たぶはどう見てもお子様である。


「あれ?今日は姐御は非番じゃなかったんですか?これは非番の日までお仕事とはご熱心なことで」 


 かなめはそう言うとそのままランのところに足を向けた。ランが非番の日に出勤してくることは珍しい事ではないのでかなめは特に驚いたような様子は無かった。


「東都警察の法術部隊の話が来ただろ?あれで神前と第二小隊の法術対応訓練メニューの練り直しが必要になってな。どうせ休日ってもすることもねーからな。今日はいつも将棋の相手をしてもらっている御仁が会合があるとか言って東都に出かけてるんだ。それでこうして仕事をしている訳。オメー等もアタシを見習えよ。人間仕事あってこその人生だ。人生なくして仕事はねーぞ」 


 そう言いながらランはにんまりと笑って詰め所の中に消えた。仕方なく誠達はその後に続いて詰め所に入った。


 部屋には端末の前のモニター越しに入ってくる誠を高梨と雑談している間にすでに到着していたタレ目で見つめるかなめがいた。


「神前、怒られてやがんの。しかも正論でだ。アメリアのゲームの原画なんか仕事中に描いてるからだ」


「西園寺!無駄口叩く暇があったら報告書上げろ!オメー等もな」 


 そう言うとランは小さい身体で普通の人向けの実働部隊長の椅子によじ登った。その様子をわくわくしながら見つめる誠に冷ややかなカウラの視線が注がれていた


「ああ、仕事!仕事しますよ!報告書!報告書!」 


 そう言うと誠は自分の席に飛びつき、端末を起動させた。


「おう、仕事か?ご苦労なこっちゃ」 


 司法局の勤務服から紫のド派手な背広に着替えた明石がついでのようにドアから顔を出した。そして手にしたディスクをつまんで見せ付けた。


「しかし、明石中佐は一般人には見えない私服を着るんですね」


 誠から見て明石のラメ入りの紫色の上下のスーツ姿はどう見てもやくざのそれにしか見えなかった。


「わしは軍に入る前はほんまもんのやくざやった。それを赤松の親父さんに拾うてもろうたんや。あの出会いがなんだらわしはとうにやくざ者として闇市でくたばっとったやろうな。軍には捨てられたが、その軍人の赤松の親父さんはワシを救うてくれはった。捨てる神あれば拾う神ありや」


 明石のあまりにも見た目通りの過去を聞いて誠は納得した。


「元やくざ屋さんなんですか……どおりでファッションセンスが普通と違うと思ってました。でも司法局は一応堅気の仕事なんでそのセンスはなんとかした方が良いと思いますよ」


 司法局本局で渉外担当と言う対外的窓口を担当する部署の責任者である明石が元やくざと知って誠は驚きを隠せなかった。


「やくざを馬鹿にすると姐御に怒られるぞ。『漢の道を行くものを馬鹿にするな!』ってな。ただ薬をやってる連中は姐御も軽蔑してる。人の道を反した『外道』だってな」


 そう誠に声をかけてきたかなめの真意が理解できずに誠はとりあえず閉所戦闘訓練の報告書を仕上げるべく作業に集中した。


「なんでやくざを馬鹿にするとクバルカ中佐が怒るんですか?」


 誠はかなめに素直にそう聞いてみた。


「姐御は今、そのやくざの組事務所の二階に居候している。なんでも、その組の組長と酒を酌み交わして義兄弟の契りを結んだらしい。おかげで特殊詐欺の連中も、やくざの客人相手に無茶な要求をしてくることが少なくなった。姐御はやくざ者が好きなんだ」


 あまりにも意外なかなめの言葉に誠は呆然とした。


「良いんですか?うちって一応警察でしょ?それがやくざの組事務所の二階に住んでるなんて……問題にならないんですか?」


 誠はかなめにそう聞いてみた。


「あそこの組は指定暴力団の傘下から離脱している。団体組織上は任意団体扱いだ。主に祭りの屋台を出したり、清掃業者に人材を派遣したりするのを主な業務としている。当然、薬物の密売や売春行為は組の規則でご法度にしている今時珍しいやくざだ。だから県警からも目を付けられていない。問題ないんじゃないか?」


 あっさりと作業中だったカウラはそう言って誠の疑問を解決してしまった。


「でもあれでしょ?高級外車とか乗ってるんでしょ?その組長……ああ、クバルカ中佐の車も高そうでしたね。あれもその組長の影響ですか?」


「くだらねーことをしゃべってる暇が有ったら仕事しろ!神前!だからテメーはいつまでたっても『(おとこ)』になれねえんだ!」


 機動部隊隊長室からランの叱責が飛んだ。仕方がないので誠はとりあえず今日の訓練の報告書を作る作業に集中することにした。



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