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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第四十五章 人が良くて楽しい連中

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第197話 その名はピースメーカー

「サラ!例の奴やって!撃つだけじゃなくて回す方!」 


 パーラがカメラを構えながら叫んだ。それに応えるように親指で帽子の縁をはじいたサラが手にした銃を軽く胸の前にかざした。


「行くよ!見ててね!」 


 手にした銃を構えつつサラが急に振り向く。思わず撃たれるのではないかと思い誠はのけぞった。

 

 周りの視線を感じてそう叫ぶとサラは銃を振り上げた。鉄紺色の銃身の短いリボルバーは人差し指を軸に、くるくると彼女の手の中で回転していた。思わず拍手をする整備員達の様子を知るとさらにその回転は加速していった。


「ほう……見事にやるもんだ。練習したんだな。ご苦労なこった」 


 感心しているのか呆れているのか。カウラはまったくどちらとも付かない表情を浮かべていた。サラはそれを見るとすばやく右腰にあるホルスターに銃を叩き込んだ。技術部員や運行部の女性士官もそれには一斉に感心したと言うような拍手を送った。


「なんだ?サラはうちを辞めてウェスタン公園にでも就職するのかよ。それも良いかもな。オメエの管制はいまいちあてになんねえんだ。丁度いいタイミングだ。一応考えとけよ、その進路も」 


 一方かなめは明らかに呆れていた。それを見るとアメリアはつかつかとサラの横まで歩いていった。


「ちょっと見せて。私も実際にこの銃を手の取るのは初めてだから」 


 アメリアの言葉に頷いたサラが銃を手渡した。先日見た青みを帯びた黒い銃が冬の日差しに輝いて見えた。しばらく手にとって眺めた後、アメリアは銃器担当の下士官に振り返った。


「これ全部ブラックパウダー弾?」 


 先ほどの煙の上がり具合が気に入ったのか、アメリアは嬉しそうに銃器担当の下士官に尋ねた。


「違いますよ。あんなのさっきのでおしまいですから。あれはあれで結構いい値段するんで」 


 銃器担当の下士官にそう言われるとしばらくシリンダーを見つめていたアメリアが大きくため息をついた。彼女の手は普通のリボルバーのようにシリンダーを引き抜こうとするがまったく動く様子が無かった。


「これって……どうやって弾を装填するの?と言うか撃った薬莢を取り出そうって言ったってどうやって出すのよ。まさか全部手で取りだすの?火傷しちゃうじゃないの」 


 全弾撃ちつくしているらしくアメリアはしばらくじっと短い銃を眺めていた。それを見たサラが満面の笑みを浮かべていた。


「ああ、ちょっと貸してね……、これ借りてもいい?」 


 サラはそう言うとテーブルの上にあったドライバーを手にして銃の劇鉄を少し押し下げた。そのままシリンダーの後ろのブロックが開いた。そしてそこに開いている穴にドライバーを突き刺して薬莢を取り出した。


「面倒だな。一々一発一発薬莢を棒で押し出す訳か……昔の人は苦労してたんだな」 


「使い物にならねえじゃねえか。六発で仕留められればいいが仕留められなきゃ逆にこっちがやられるぞ」 


 カウラとかなめの意見ももっともだった。サラはようやく二発の薬莢を取り出すことに成功して次の薬莢を取り出すべくドライバーを持ち直した。


「そりゃあ映画の西部劇みたいに六発以上撃ちまくるわけには行かないですからね、現実問題。それに当時にしたって安全装置なんてものはついてないわけですから、一発分は弾は装弾しないのが一般的だったんですよ。だから実質は五発でケリをつける。シビアと言えばシビアな戦いですね」 


 銃器担当の下士官の一言にサラはムッとしたように顔を上げた。不器用にドライバーで自分の銃と格闘しているサラを見ながら銃器担当の下士官は必死になって笑いをこらえていた。


「一挺当たりの弾が少ないし、リロードも無理。だから二挺拳銃なんですよ。二挺あれば計最高十二発。下手なオートピストルより弾は多いって訳です」 


 銃器担当の下士官はそう言って得意げに自分の知識を披露した。


「そりゃわかってるんだけどさあ。相手が多弾数のオートで襲ってきたらどうするんだ?今は西部劇の時代じゃねえんだ。ダブルカーラムのオートマチックが主力の銃撃戦だ。そんな時はどうするんだよ」 


 かなめの問いに下士官は意味がわからないと言うように首をひねった。だが、すぐにかなめは彼の考えを理解して下士官の肩に手を乗せた。


「そうだな。サラの拳銃はただの(おもり)だからな。ベレッタなんて気取った銃は必要ねえか」


 納得がいったと言うようにかなめはそう言って頷いた。 


「ひどいんだ!かなめちゃん。そんなこと言うともう撃たせてあげないぞ!」 


 ムキになったサラはそう言って怒りをあらわにした。


「銃はおもちゃじゃねえんだ!仕事の道具だ!そんな使い物にならねえおもちゃなんて誰が触るか!」 


 かなめはそう言ってへそを曲げるが、サラの隣に立っているアメリアは前に置かれた弾薬の箱に手を伸ばしていた。


「これってここに弾を入れればいいの?」 


 アメリアはうれしそうにサラから渡されたリボルバーピストル、コルト・シングルアクションアーミーを手に弾をこめようとした。


「うん、そこから一発一発ハンマーをハーフコックにしてシリンダーを回しながら入れるんだよ」 


 サラの言葉を聞くとアメリアは45口径の弾丸を一発づつシリンダーに差し込んでいった。その表情は楽しいともめんどくさいとも取れる複雑なものだった。


「結構炸薬の量が多いんだな。フレームの強度は大丈夫なのか?」 


 カウラは心配そうにサラ達を見つめた。その手には箱から取り出した一発の弾丸が握られていた。


「ああ、大丈夫ですよ。元々こいつはアメリカとかの時代祭りの為に有るような銃ですから。威力はかなり抑えた弾しか手に入りません。まあ炸薬を増やせば威力は上がりますけど……どうせサラが使うんでしょ?意味ないですよ」 


 そう説明している間にアメリアは弾をこめ終わるとそのままターゲットを狙った。


「親指でハンマー起こせよ!シングルアクションだからな!」 


「わかってるわよ!」 


 かなめに野次られてアメリアは叫ぶように言い返した。そしてそのまま右手の親指でゆっくりハンマーを起こすとすばやく引き金を引いた。


 一瞬置いて轟音が響く。


 アメリアの手の中で滑ったように銃がはねて銃口が天井を向いているのが見えた。


 それを見てかなめは大笑いした。しばらく何が起きたかわからないと言うようにアメリアは立ち尽くしていた。


「ああ、ああなるのは仕方ないんですよ。グリップがなで肩ですし、元々グリップのシェリブズは丸くて握りづらいですから。どうしてもオートに慣れた人が初めて撃つと反動が上に逃げて銃口が天井向くんですよ」 


 下士官の言葉に思うところがあったのか、カウラが立ち上がるとアメリアの後ろに立った。


「私にも撃たせろ」 


 カウラのその言葉にしばらくアメリアは目が点になっていた。隣で笑っていたサラの表情も驚いたように変わった。


「ええ、別にいいけど……」 


 そう言ってアメリアはカウラに銃を手渡した。そしてそのままカウラは受け取った銃で30メートル先の標的に狙いをつけた。


「馬鹿やるなよ!」 


 そう言うかなめはいつの間にかタバコを吸い始めていた。野次馬達も展開がどうなるのか楽しみで仕方がないと言うようにカウラを見つめていた。カウラは静かにハンマーを起こす。その様子に場はあっという間に静まり返っていた。冬の北風だけが枯れ草を揺らして音を立てていた。


 カウラが引き金を引いた。そしてハンマーが落ちた。そして火薬の点火による轟音が響いた。最新式の炸薬とは言え、短い銃身では燃焼し切れなかった炸薬が銃口の先に炎の球を作って見せた。


「派手だねえ……こりゃ」 


 タバコを咥えているかなめの一言。誠が銃口の先を見ればマンターゲットの頭に大穴が開いていた。


「結構当たるもんだな」 


 そう言うとカウラは満足したように銃をサラに返した。


「まあレプリカですからバレルの精度なんかは今のレベルですよ。それにしてもさすがですね、反動をほとんど殺していたじゃないですか」 


 下士官に褒められてカウラは少し満足げに微笑んでいた。次は私だと言うようにかなめが跳ね上がるように立ち上がった。



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