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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第三十七章 ほっとけない人々

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第163話 思い出のランニングコース

「急いでどうするんだ?そんなに」 


 早足で裏門から出た誠はそのまま駅の反対側に向かってそのままの勢いで歩いた。後ろから先ほどの後輩達がランニングシューズに履き替えたらしく元気に走って二人を抜いていった。


「そうか……ここが神前の思い出の地……」 


 カウラはうれしそうに誠を見上げた。


「ランニングコースなんかの思い出を教えてくれるんだな。神前は走るのが好きだからな。とてもうれしいぞ」 


 そう言うカウラの表情は初めて見る歓喜の色を帯びていた。


「ええ……まあ、そんなところです。昔もよく走りました。当時は辛かったですが、今となってはこのランニングが今の僕を作ったんですね。今でもクバルカ中佐のしごきに耐えられるのはこのランニングなのかなあなんて思っています」 


 実は特に理由は無かったのだが、カウラに言われてそのとおりと言うことにしておくことに決めて、ようやく誠の足は普通の歩く速度に落ち着いた。


 常緑樹の街路樹が続いていた。両脇に広がる公営団地に子供達の笑い声が響いていた。カウラは安心したと言うように誠のそばについて歩いていた。


「この先に川があって、そこの堤防の上を国営鉄道と私鉄の線路の間を三往復してから帰るんですよ。二往復目からは結構息が切れて、三往復目になると、もう足がだんだん張ってきて……結構大変でした」 


 誠はそう言いながら昔を思い出した。考えればいつもそう言うランニングだけは高校時代から続けてきたことが思い出された。現在もランが嵯峨にこれ以上誠を走らせると壊れると言うことで距離は短くなったものの勤務時には8キロ前後のランニングを課せられており、誠の生活の軸であるランニングは昔と特に変わることは無い。


「そうなのか。貴様でもそんなに辛かったのか。それなら私などとても無理そうだな」 


 しばらく考えた後カウラは納得したように頷いた。そしてそんな二人の前に大きな土の壁が目に入ってきた。


「あれがその目印となる堤防か?」 


 カウラが興味深そうに目の前の枯れた雑草が山になったような土手を指差した。誠はうなづくとなぜか走り出したい気分になっていた。


「それじゃああそこまで競争しましょう」 


 元々こう言うことを積極的に言い出すことの少ない誠の言葉にうれしそうに頷いたカウラが走り出した。すぐに誠も続いた。


 およそ百メートルくらいだろう。追い上げようとした誠が少し体勢を崩したこともあり、カウラがすばやく土手を駆け上がっていくのが見えた。


「これが……お前の見てきた景色か……こういう景色があると言うのは羨ましいな。私には思い出を持つほどの時間がこれまでなかった。本当に羨ましい」 


 息も切らさずに向こうを見つめているカウラに誠は追いついた。そしてその目の前には東都の町の姿があった。


 ガスタンクや煙突など。おそらく他の惑星系では見ることの出来ない化石エネルギーに依存する割合の高い遼州らしい建物が見えた。そしてその周りには高層マンションと小さな古い民家が混在している奇妙な景色が広がっていた。


「まあ、こうしてみると懐かしいですね。たった六年前の話だと言うのに、もうずいぶん前の事のように感じます」 


 誠は思わずそう口にしていた。『特殊な部隊』に入ってからの充実した日々が時の流れを変えて一気に自分の思い出を遠くの方に運んでしまっていた。それが誠の今の実感だった。


「懐かしい……か。いつかは私もそう言う気持ちになるのかもしれないな」 


 カウラの表情が曇った。彼女は姿こそ大人の女性だがその背後には8年と言う実感しか存在しない。彼女は生まれたときから今の姿。軍人としての知識と感情を刷り込まれて今まで生きてきた。誠のように子供時代から記憶を続けて今に至るわけではない。


「すいません。カウラさんの身の上を考えて無い発言でした」 


「何で謝る。貴様は何も悪い事は言ってないぞ。それでも貴様が気にするのならまあいいか」 


 そう言うとカウラはうれしそうに思い切り両手を挙げて伸びをした。


「それにしても素敵な景色だな。豊川の町並みも好きだが、この街並みも好きになれそうだ」 


 川原の広がりのおかげで、対岸の町並みが一望できる堤の上。カウラは伸びの次は大きく深呼吸していた。誠は満足げにそれに見とれていた。



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