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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第三十六章 色々あった時代

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第160話 カウラのバッティング

 新見少年はすぐにキャッチャーに座るように指示を出すとカウラが到着するのを待たずに投球練習を始めた。


「小柄な割に結構速いな。手元で伸びる感じ。素材としては悪くない」 


 カウラはそう言って満足げに頷いた。彼女の指摘通り、小柄な全身を使って投げるスタイルは無駄が無く、もしも体格に恵まれていたなら注目を集めるような球を投げられるような素質があるように見えた。


 だが誠は不安があった。カウラは手加減が出来ない性質である。バットを持たされたと言うことは打ってもいいと言われたと同じだと思っているだろう。確かに誠達がバッターボックスの手前にたどり着くまでに投げた速球はそれなりの威力があるように見えた。それを見ればまじめなカウラが思い切りスイングしてくることは分かっていた。


 新見少年も相手が女性。しかもかなり細身で華奢に見えるというところで安心しているのだろう。しかし、それが完全に間違いであることに誠は気づいていたが、後輩への贈り物としてカウラとの真剣勝負の対戦をさせてやりたいと思うようになった。


 カウラは私服の時にはスニーカーにパンツと言うことが多いので、手渡されたバットを握ると首に巻いたマフラーを取って誠に渡した。


「教育してくるな」 


 明らかに模擬戦の時のぎらぎらした緑の瞳が誠にも見えた。完全に誠は彼女が戦闘状態に入ったことを理解していた。


 静かにカウラが右のバッターボックスに入った。


「よろしくお願いします!」 


 元気良く新見少年が怒鳴るように叫ぶのを満足げに頷きながら、カウラはじっと相手投手を見つめた。そしてそのままいつものようにホームベースぎりぎりのところに立って、ゆっくりと静かにバットを構えた。


「新見先輩!ぶつけたりしないでくださいね!」 


 野次馬と化した野球部員の一人が叫んだ。周りの少年達も頷きながらじっと見つめた。だが誠はカウラの実力を知っているだけにただ苦笑いを浮かべるだけだった。明らかに新見少年は投げづらそうに、誠がいたころと同じようにかなり荒れた状態のマウンドの上で、眉を寄せてカウラを見下ろしていた。


 誠は周りが静かになったのに気づいてグラウンドを振り返れば、シュート練習をしていたサッカー部員も、サンドバッグにタックルの練習をしていたラグビー部員も、野球部に飛び入りでやってきた緑の髪の女性の姿に目を向けているのがわかった。


 新見少年はようやく自分の置かれている状況を理解したと言うようにマウンドの上で大きくため息を付いた。そしてそのままゆっくりと振りかぶった。


 明らかに動きが先ほどの投球練習より硬く見えた。新見少年の手を離れたボールはキャッチャーが飛びついたミットの先を抜ける外角へ大きく外れた暴投になった。


「おい!新見!いつもどおり投げろ!」 


 鶴橋の檄が飛んで、ようやく吹っ切れたように野次馬の野球部員から新しいボールを受け取った。


「カウラさん。もう少しホームベースから離れて立ってあげれば……」 


 誠の言葉にカウラの真剣そうな視線がやってきたので黙りこむしかなかった。肩を何度かまわすような動きの後、新見少年は再び振りかぶった。明らかにカウラはバットを握る手に力をこめていた。おそらくは初見の女性のバッターを相手にして緊張しているのだろう。それを読んでいたかのように先ほどとは雰囲気の違う構えのカウラがそこにいた。


 ピッチャーは先ほどの力みすぎての暴投から学んで、今度はスピードを殺したような変化球をストラークゾーンに投げ込んだ。当然そのような球を見逃すカウラではない。


 その華奢な外見からは想像も付かない速さのスイングで、内角低めに落ちていく緩いカーブをバットで捉えた。打球は新見少年の額の上を強烈な勢いで通り抜けていった。そしてそのままフェンスに激突したボールが大きな音を立てた。


 グラウンド中が静まり返った。誠は予想していたこととはいえさすがにバツが悪そうに鶴橋の目を見た。


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