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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第三十六章 色々あった時代

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第156話 思い出の母校

「もう行くのか?もう少し見ていたい気もするのだが」 


 誠が立ち上がるのを見て、驚いたようにカウラも立ち上がった。誠はつい考えも無く立ち上がってしまったことを悔いたが、ここでまたベンチに座るのも気が引けるような感じがしていた。


「じゃあ、次は懐かしい場所に行きましょう。僕の一番の思い出が詰まった場所です」 


 思いつきで誠は歩き始めた。カウラは少しばかり不思議そうな顔で誠を見つめながら隣を歩いていった。常緑樹の生垣に囲まれた公園を抜けると、再び古びた家の間の狭い路地が続いた。慣れていないカウラはその瞬時に変わる景色を見て誠の後ろをおっかなびっくり歩いてついて来た。


「どこに行くんだ?思い出が詰まった場所って……想像がつかないな」 


「ええ、まあついてきてください。来れば分かりますよ」 


 誠はカウラの言葉で思い出を探してみようと、目の前の開けた国道に出るとそのまま北風に逆らうように歩き始めた。そのまま歩道上に有った地下鉄の入り口の階段を下り始めた。


「地下鉄か?結構離れているんだな」 


「ええ、ちょっと離れているんで。その頃は自転車で行っていましたが、今は電車も平気な体になれたので地下鉄で行きましょう」 


 狭い入り口の階段を降りながらカウラは誠について来た。誠はエレベータの昇降口の前の券売機で切符を買うと改札の係員に渡して鋏を入れてもらった。カウラもおっかなびっくり誠の真似をして改札を抜けた。


「ちょうど良いですね。今の時間は地下鉄は一番空いている時間ですから」 


「え?そうなのか。豊川の駅に比べると人が多いような気がするのだが……あ!」 


 カウラが目の前に突然現れた銀色の地下鉄の車両に驚いたように反り返った。それを見て思わず誠は微笑んでいる自分に気づいた。


 止まった地下鉄の車両から吐き出される人々。見回してみるが乗り降りする客はまばらだった。それは昔からのことだった。


「ここから三駅です。そこが思い出の場所です」 


 そう言いながら誠はぼんやりと立っているカウラの手を引いた。車内の光景が昔と変わらない。一列シートに三人の客が腰かけていた。そんな様を見て誠はなんとなく安心感のようなものが心を包んでいた。


「かなり狭いんだな。この前都心に行った地下鉄は地上を走る電車と同じ規格だったが、こちらは一回り狭い」 


 カーブの多い路線の為、豊川の街を走る通勤快速よりは明らかに一回り小さな車両がこの路線には使われていた。誠は苦笑いを浮かべながら空いていたシートに腰掛けた。


「まあこの地下鉄は特殊な路線ですから。他の線への乗り入れも無いですし」 


「そうか、特殊な路線なんだな」 


 納得したようにカウラは頷いた。彼女はしばらくシートで揺られる誠の姿を前のつり革に手をかけて見下ろしていた。


「三駅程度なら立っていたほうが良いんじゃないのか?」 


「あ……そうかも知れませんね」 


 そう言うと思わず誠は立ち上がっていた。車両は早速急に右にカーブして加速を続けた。ゆらりと揺られているが、カウラはつり革につかまり緊張した面持ちで揺られていた。


「いいかげんどこに向かおうとしているのか言っても良いんじゃないか?」 


 カウラの言葉に誠はにやりと笑って見せた。


「僕の通ってた高校です。……大学はちょっと田舎にありましたから今日は行けそうに無いんで。大学はさすがに電車で通わなきゃならなくて、気持ちが悪くなるたびに途中下車を繰り返して結構遅刻しました」 


「そうか、大変だったんだな」 


 カウラはうれしさと寂しさが混じったような表情を浮かべていた。


 彼女は誠と出会ってから確かに変わってきていた。配属されてから半年。カウラの表情が増えていくのは誠にもうれしいことだった。それまでは単調な喜怒哀楽だけを映していた面差しに、複雑な感情の機微が見えるようになったのが自分のせいなら素敵なことだ。そんなことを思いながら早速減速を始めた地下鉄の外を見てみた。


 止まった電車の扉が開かれるこちらは国有鉄道との乗換駅だった。ドアが開けばほとんどガラガラの車内に買い物袋を下げた主婦や背広のビジネスマンが次々と乗り込んできては空いている席に腰掛けた。


「一気に混んで来たな」 


「これも昔からですよ」 


 そう言いながら誠は閉まる扉を眺めるカウラの後頭部のエメラルドグリーンの髪を見つめていた。


 再び電車が加速を始めた。そしてまた急カーブに差し掛かった。


「都市計画がむちゃくちゃだったのか?こんなにカーブばかりだとエネルギー効率が悪いだろうに」 


 つぶやくカウラの言葉にいつもの彼女らしい発想を感じて誠は微笑んでいた。


「でもまあ……」 


 誠はカウラが何か言葉を飲み込むのを見た。ただ黙って何かをごまかすように頬を赤らめるカウラのしぐさに心引かれる誠だった。


 次の駅では人の動きは無かった。そしてまた車両は動き出す。


「次の駅が神前の通っていた高校の最寄駅か……」 


 カウラは感慨深げだった。誠はなぜか彼女を連れてきたことが非常に恥ずかしいことのように思えてうつむいた。


「どうした?」 


 エメラルドグリーンのポニーテールの長身で痩せ型の女性が立っていた。誠も東和では大柄で通る体格なので、かなり回りの客の注目を集めていた。誠が先ほど座った席に腰掛けているピンクのカーデガンの上品そうな白髪の女性も、好奇心を抑えられないと言うようにちらちらと二人を見上げてきていた。


 そして再び電車は減速を始めた。白い壁面照明の光が目に染みながら流れていった。誠は周りの視線を気にしながら出口への進路が開いているのを確認した。



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