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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第三十五章 二人だけの散歩

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155/200

第155話 出かけていく二人

「じゃあ、行きましょう」 


 立ち上がった誠の視線の前にはカウラの引きつった笑顔があった。


 そのまま同乗の長屋門をくぐって誠は歩き出した。つぎはぎだらけの路地のアスファルトの上を所在無げに歩く誠にカウラはついていった。下町の細い道を歩きながらカウラはしきりに周りを見回していた。


「やっぱりずいぶんと古い街なんだな、東都は」 


 カウラは感慨深げにつぶやいた。


「まあ、豊川みたいに先の大戦の特需の後に大きくなった都市とは違いますから。それこそ地球人がこの星にやって来た時からの街ですからもう400年の歴史が有る訳です」 


 自分でも教科書の受け売りのようなことを言っていると思いながら誠は苦笑いを浮かべた。


 東和共和国は第二次遼州戦争では、同じ日系文化圏の甲武国の参戦要求を最後まで拒否して中立を貫いた。遼州の主要国すべてが参戦した戦いに加わらず、ひたすら各国の発注する物資を提供した姿は『遼州の兵器庫』と勝利した国からも敗北した国からも揶揄されることになった。


 その急激な経済成長以前から東都の下町として栄えている東都浅間界隈の路地裏には古いものが多く残されていた。


「もうすぐ見えますよ」 


 カウラに歴史の講釈をしても逆に教えられるだけだと思いながら、誠は枯れ井戸の脇をすり抜け、人一人がようやく通れると言うような木造家屋の間を抜けて歩いた。


「なるほど、これか」 


 開けた場所に来て、カウラは感心したように目を見開いた。


 そこには公園があった。冬休みが始まったと言うことで少年野球の練習が行われていた。


「北町ライガース。僕が野球を始めたときに入ったチームの練習ですよ」 


 誠の言葉にカウラは思わず彼を見上げた。そしてすぐに彼女は黒と白の縞のユニフォームの小学生達が守備練習を続けているのを見た。


「お前にもこう言う時期があったんだな」 


 走り回る少年少女を見ながらカウラは感慨深げにしていた。誠はカウラの着ているジャンバーが比較的薄手のような気がして自分の首に巻いているマフラーを彼女の首にかけた。


「おい!」 


 カウラは突然の出来事に驚いた。ここでかっこいい台詞でも言えればと思いながら、誠は何も言え無かった。そのままカウラから目を離して後輩達の練習を見ているふりをした。


「すまない」 


 カウラはそう言うと誠から受け取ったマフラーを自分の首に巻いた。


「でもこんな時期。私は知らないからな」 


 さびしそうなカウラの言葉。そっと誠は弱々しく微笑むカウラを見つめた。


「すみません」


 誠はしょげたようにそうつぶやいた。


「いや、そんな……お前の昔を教えてくれるのはうれしいんだ。こう言う思い出は私には無いからな。でも……」 


 カウラの言葉が揺らいで聞こえる。誠はそのまま公園のベンチに向かって歩き始める。カウラもぼんやりしていたがそんな誠を見て少し距離を置いて彼について歩いた。


 守備練習をしていた少年達が、ノックをしていた監督らしい女性に呼び集められるのが見えた。走って外野からホームへ向かう少年達。その向こうに見えるブランコには中学生か高校生くらいの私服の女子の集団が手にジュースのボトルを持ちながらじゃれあっているのが見えた。


「こう言うところで育ったのか、お前は」 


 カウラは誠がベンチに座るのを見ながら立ったまま公園を見回した。隣に見えるのは金属部品のプレス工場。そこの社長の息子が中学生の同級生だったことを思い出して、誠はなんだか懐かしい気分に浸った。


「お前もいろいろ思い出すことがあるんだな。そんな顔をしているぞ」 


 そう言うとようやく好奇心を満たされたと言うように、カウラが誠の隣のベンチに腰掛けた。


「まあ、昔の僕はあの子供達の輪にいたのは事実ですけど……それでも目立たない子供でしたから」 


 少年野球の子供達がグラウンドに散った。どうやら紅白戦でも始めるらしい。


「目立たないと言う割には高校ではずいぶんな活躍をしたらしいじゃないか」 


 皮肉るようなカウラの言葉に誠は照れ笑いを浮かべた。


「まあ、左利きでタッパがあったのが良かったんでしょうね。中学までは控えばかりでしたが、高校だって弱小で知られた高校でしたから。部員が12人しかいなくてサッカー部とかからの助っ人で試合を成立させていたような感じでしたよ」 


「それで三回戦まで勝ち進んだんだろ?凄いじゃないか」 


 カウラに言われて誠は恥ずかしさにうつむいてしまった。正直、誠は褒められることには慣れていなかった。しかも相手はいつも模擬戦での判断ミスや提出書類の不備を指摘されているカウラだった。


「まあ運が良かったんですよ」 


 そう言うと誠は立ち上がった。



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