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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第三十四章 カウラの誕生日前夜祭

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第149話 蟹鍋への道

「本当に仲がいいのね。かなめちゃん、うらやましいでしょ?」 


 そう言って見つめてくるパーラにかなめは思わず顔を赤らめた。そしてそのまま足を玄関に向けた。


「そう言えば西園寺さんのお母さんて有名な剣術家で……」 


「お袋の話はするなよ」 


 かなめはパーラにそう言うと足を速めた。


「ええ、かなりしごかれたらしいわよ。すっかりトラウマになったみたいで」 


「アメリア!聞こえてんぞ!」 


 怒鳴るかなめにアメリアは思わず首をすくめた。誠も仕方なくかなめやカウラと玄関へと向かった。引き戸を開いて入った玄関には大量の大きな白い断熱素材の容器が積み上げられていた。


「これ……全部蟹?」 


「そうよ!」 


 呆れたようにつぶやくかなめにアメリアは元気良く答えた。誠も空の容器を見つめながらその量の多さにただ圧倒されていた。


「北海ズワイ……本物か?最近のこう言う表示の紛らわしいのは何とかならないのか?」 


 カウラのつぶやきに誠も苦笑した。遼州には地球に住むようなズワイガニはいない。脊椎動物が生物学上の同様の進化をたどったとされている遼州だが、甲殻類の進化は地球のそれとは違った。この『北海ズワイ』と呼ばれている『リョウシュウクモガニ』は見かけは確かに蟹と思えるが、足の数が二本多いのが地球の蟹とは違う点だった。美食家のクバルカ・ラン中佐に言わせると味はあっさりしすぎていて地球のズワイガニより劣るという話だった。


「でもまあこれは誰が金を払ったんですかね。これ結構な値段しますよ」 


 呆れながら誠は靴を脱いだ。かなめは誠を待たずに奥の洗面所に走って行った。


「隊長に決まっているじゃない……オートレースで大穴当てたんだって!私達が今日暇してるって言ったら、ちょうどいいのがあるって千要市場で買い占めてくれたのよ」


「よかったわね!誠ちゃん!蟹好きでしょ?」 


 背中からいきなりアメリアに声をかけられて誠はバランスを崩した。ブーツを脱ぎ終えたカウラが手を出さなければそのまま顔面から玄関のコンクリートにキスをするところだった。


「脅かさないでくださいよ。顔面からこけるところだったじゃないですか」 


 パーラは満面の笑みを浮かべながら体勢を立て直す誠に手を貸した。


「ごめんなさい。でもこれで今日は蟹鍋ができるのよ。みんな楽しくって……」 


 そう言うとサラはサンダルを脱いでそのまま道場へ向かう廊下を小走りで消えていった。


「楽しそうだな」 


 誠を待ってくれているカウラに笑顔を向けながら誠はようやく靴を脱いで立ち上がった。


「でもこんなに食べるんですか?これってかなりの量ですよ。それに鍋が……たぶんそれは用意してあってバスに積んであるんですね。失礼しました」 


 明らかに伊達では無い量に誠はただ圧倒されていた。


「ちゃんと手を洗って!」 


 道場の方からの母の叫びに苦笑いを浮かべながら誠はそのまま廊下を奥に進んだ。


「良いわね、お母さんて」 


「そうですか?面倒なだけですよ」 


 パーラの言葉につい出た言葉に誠は頭を掻いた。そんな誠をカウラは静かに見守った。


「なんだよ、早くしないと全部食っちまうぞ」 


 洗面所に向かう廊下から顔を出したかなめがそう言って笑った。誠は仕方がないと言う表情でそのまま洗面台に向かった。


「お前もちゃんと手ぐらい洗えよ」 


「余計なお世話だ」 


 いつものように一言多いかなめにカウラがやり返した。


「本当に二人は仲良しなのねえ」 


 サラの言葉にかなめとカウラが見つめあった。次第にその表情が複雑なものになった。


『どこがですか!』 


 声をそろえて二人が言うのを見て手を洗っていた誠が噴出した。それを見るとすぐさまかなめの手がその襟首を捕まえて引き倒した。


「おい、どういうつもりだ?あ?」 


 かなめはそのまま誠の利き手の左手をつかむと後ろにぎりぎりと締め上げ始めた。


「どういうつもりも何も……」 


「西園寺、ちゃんと躾をしておけ」 


 カウラは引き倒されてじたばたしている誠を横目に見ながら、優雅に手を洗っていた。そしてその水音と暴れる誠の音ににまぎれて玄関の引き戸を開く音が聞こえた。


『はじめちゃうからね!』 


『いいぞ!アタシも行くから待ってろ!』 


 廊下でサラとかなめの叫び声が響いた。


「冗談抜きで西園寺はすでに始めているだろうからな。こういう時のあいつは気が早すぎる」 


 笑みを浮かべているカウラについて道場へ向かう廊下を急ぎ足で進んだ。


「かなめちゃん!もう蟹を入れちゃったの?」 


 アメリアの声が響いた。道場にはテーブルが五つほど並んでいた。上にはそれぞれ土鍋とその隣に山とつまれた蟹。かなめの占拠したテーブルの鍋から湯気が上がり、その中にかなめが蟹を放り込んでいいた。


「まあすぐに茹で上がるわけじゃないからいいですよ」 


 薫の声にこたえてカウラは微笑んだ。


「そうそう!ちゃんと火が通らねえとな」 


 そう言って上機嫌なかなめの手にはすでに芋焼酎が握られていた。そのラベルを見て誠は母に近づいて小声でささやいた。


「母さん、それ親父の秘蔵の焼酎なんじゃないの?」 


 おどおどとした誠に薫は笑顔を浮かべていた。


「あら、大丈夫よ。代わりに麦焼酎のおいしいのを頂いたから。惟基君にはちゃんと感謝しておいてね」 


 そんな薫を見て頷きながらかなめは次々と蟹を鍋に入れた。


「そんなに入れても仕方ないだろ?それより野菜を入れろ」 


 自然とかなめの座っているテーブルに着いたカウラは対抗するように白菜を鍋に投入した。


「だってアタシは野菜食べないし……」 


 かなめはそう言うと蟹を鍋に放り込んでいた手を休めてグラスに焼酎を注ぎ始めた。


「あ!待っててくれなかったの?」 


 母屋から入ってきたサラの一言が道場に響いた。にんまりと笑ってかなめがサラを見上げた。


「オメエは飛び入りだろ?遠慮しろよ」 


 そう言いながらかなめは乾杯を待っていた。それを見てパーラは自分のテーブルにサラを招くと周りを見回した。


「カウラさん……」 


 そう言いながら後ろのケースから冷えたビールの瓶を手にして誠はカウラに向けた。


「今日ぐらいはいいか……」 


「明日も飲むくせに何言ってんだか」 


 カウラをいつものようにかなめが茶化した。それを無視するようにグラスを手にしたカウラは誠の注ぐビールをうれしそうな顔で見つめていた。


「えーとそれじゃあ失礼するわね」 


 それぞれのテーブルにはお互い女同士でグラスにビールを注ぎあっていた運行部の女性士官達が手にグラスを掲げていた。


「まあいろいろと忙しいみたいで今年は部隊での忘年会は出来そうにないから」 


「あのーアメリア?趣旨が違うんだけど」 


 思わず突っ込むかなめに思い出したようにサラはどてらの袖を打った。


「えーとじゃあカウラちゃんの誕生日が明日と言うことで!おめでとう!」 


『おめでとうございます!』 


 黄色い歓声が沸きあがる。誠は少し肩身が狭いと言うようにグラスを合わせて乾杯した。



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