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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第二十八章 迷いのないペン

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第125話 出来栄えを見ながら

 そして誠は自分が描いた下絵のイラストを見てみた。漫画チックとカウラやかなめには笑われるかもしれない。そんな絵だが、誠には満足できるものだった。描き直すことは誠は少ないほうだと思っていた。だが今回はプレゼントだ。満足ができるまで何度か書き直しが必要になるなと思ってはいた。


 しかし、誠は主な下絵の線入れが終わった今。出来上がりが自慢の種になるのではないかと思えるほどに満足していた。


 カウラのどこか脆そうなところが見える強気な視線。無駄の無い体のライン。どこか悲しげな面差し。どれも誠がカウラに感じている思いを形にしているようなところがあった。


『お母様!油の温度はこれくらいで良いんですか!』 


 今度はアメリアの声が響いてきた。明らかにかなめとアメリアは誠から自分の声が聞こえるようにと大声を出していた。そのことに気づいて誠は苦笑した。


 今度はペンを変えて細かいところに手を入れていった。


 その作業も不思議なほど順調だった。階下のどたばたに頬を緩めながら書き進めるが、間違いなく思ったところに決めていたタッチの線が描かれていった。そしてひと段落つき、インクが乾くのを待ったほうがいいと思い誠はペンを置いた。誠の部屋の下は先ほどみかんを食べていた居間。その隣がキッチンだった。なにやら楽しそうな談笑がそこで繰り広げられているのが気になった。


 それでも誠は作業に一区切りをつけると静かに立ち上がって本棚に向かった。


 漫画とフィギュア。そのフィギュアの半分は誠が自作したものだった。隣の押入れにはお気に入りのキャラの原型もある。


 だが一階で繰り広げられている料理教室の様子が気になって誠は仕方なくドアへと足を向けた。


 ドアを開くと階段にいるカウラと視線が合った。


 どちらも話し掛けるきっかけがつかめずに黙り込んでいた。先ほどまでペンを走らせていた緑の髪が揺れている。ただ二人は黙って見つめあうだけだった。


「早く呼んできてよ!」 


 アメリアの声に我に返ったカウラはぼんやりとしていた目つきに力をこめて誠を正面から見つめてきた。


「晩御飯だ」 


 それだけ言うとカウラは階段を降り始めた。誠はしばしの金縛りから解かれてそのまま階段を下りた。


「これ……うめー!」 


「かなめちゃん、誠君を待たなくてもいいの?」 


「いいわよ気にしなくても。さあ、いっぱいあるから食べてね」 


 かなめ、アメリア、薫の声が響いた。カウラに続いて食堂に入ると山とつまれたコロッケがテーブルに鎮座していた。見慣れないその量に誠は圧倒された。


「母さんずいぶん作ったんだね」 


 少し呆れた調子でそういった息子に薫は同調するように頷いた。


「だって皆さん食べるんでしょ?特にカウラさんはたくさん食べるって聞いてたから。昨日もご飯一杯食べてて……ごめんね、あの人が突然帰って来たものだから揚げ物の方が足りなかったみたいで」 


 薫の言葉にカウラは視線を落とした。その様子を複雑そうな表情でアメリアが見ていた。


「だからとっとと食おうぜ」 


 かなめはすでに三個目のコロッケに手をつけていた。あの宝飾品店で見せた甲武一の名家の姫君の面差しはそこには無かった。皿にはソースのかけられたキャベツが山とつまれていた。


「ああ、カウラちゃん、ビール。廊下に出してあるから取ってよ」 


 もうすでに自分の皿にコロッケとキャベツを乗せられるぎりぎりまで乗せたアメリアの声が響いた。苦笑いを浮かべながらカウラは冷蔵庫の扉を開いた。


「ああ、酒が無かったな。すいませんオバサン、ウィスキーかなにかありますか?」 


「オバサン?」 


 かなめのいつもアメリアをおばさん扱いしている同じ調子でつい出た言葉に薫は奇異しく反応した。


「オバサンじゃなくてお姉さんです!」 


 薫の眼光に負けてかなめは訂正した。誠は振り向いた母の目を見て父の取って置きの焼酎を戸棚から取り出した。



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