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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス  作者: 橋本 直
第二十六章 身分違いの宝飾品

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第118話 貧乏貴族の哀しみと誠の決意

「でも実にお美しい方ばかりですな、神前曹長。非常にうらやましい職場ですね」 


「ええ、まあ」 


 誠は照れて頭を掻いた。確かに自分がパシリ扱いされて入るものの、神田の言うことが事実であると改めて思っていた。


「それではクラウゼ様のものは候補が出品された段階でお知らせいたしますので」 


 その言葉にかなめが立ち上がった。呆けていたアメリアもそれを見ていた誠も立ち上がった。


「ありがとうございます」 


 次々と店員達が頭を下げてくるのにあわせながら誠も頭を下げた。彼をにらみつけながらかなめは先頭に立つようにして歩いた。誠達は居づらい雰囲気に耐えながら客の多い広間のような店内に出た。


「まもなくカウラ様とお品物の方も揃います」 


 神田という支配人の言葉にかなめは笑顔で頷いた。


 だが、外を見ていたかなめのタレ目が何かを捕らえたように動かないのを見て誠も外の回転扉を見た。


 そこには見覚えのある黒のコート、紫のスーツ、赤いワイシャツと言う極道風のサングラスの大男が右往左往しているのが見えた。頭はつるつるに剃りあげられ、冬だと言うのになぜかハンカチで頭を拭きながら何度も店内に入るかどうかを迷っていた。


「明石中佐……」 


 誠の言葉に店内をきょろきょろと見回していたアメリアも回転扉の外の司法局渉外担当武官を見つけた。


「なにやってんだか」 


 アメリアは呆れてため息をついた。


「遅れてすまない。ではこのバッグは……」 


 着替えを済ませてアタッシュケースに入れた先ほどのティアラなどを手に持っているカウラも三人の視線が外に向かっているのを見て目を向けた。


「あれは……」 


「それでは、また時間を作って寄らせていただきますわね」 


 そう言って微笑みながら出て行こうとするかなめを老執事は見送ろうとした。誠もただ外でうろうろしている明石が気になって仕方がなかった。


 かなめの落ち着いた物腰は回転ドアを出るところまでだった。


 そのまま彼女は目の前に立つ巨漢の首根っこをつかんでヘッドロックをかました。重量130kgの軍用義体の怪力の前に明石はそのまま歩道に引き倒された。


「何のつもりだ?タコ」


 周りの上品な客達はやくざ者を楽に締め上げている女性の怪力に息を呑んで立ち止まった。そしてお互いにささやきあいながらこの騒動に関わるまいと距離を取って取り巻いた。


「なんや?西園寺か!やめや!やめてんか!離したら話すよって!」 


 叫ぶ明石にようやくかなめは手を放した。開放されて中腰になってむせている明石をニヤニヤと笑いながら近づいてきたアメリアが見下ろした。


「婚約者にプレゼントですか?なかなかいい話ですねえ」 


 ようやく顔を上げた明石はそう言うアメリアを見てさらに絶望的な表情を浮かべた。


「私的なことに首を突っ込むのは感心しないな」 


 カウラは手に大事そうに先ほどのアタッシュケースを持っていた。その見慣れない頑丈そうでいて品のある革張りのかばんを見て、明石は大きくため息をついた。


「ワシは所詮、寺社貴族の次男坊や。こんな高そうな店のもんに手えだすだなんて……」 


「無理だな。扱える金の桁が二けたほど違う」 


 断言するかなめに明石はうつむくとようやく背筋を伸ばして立ち上がった。周りにいつの間にか集まっていた野次馬も、それが知り合いの挨拶だったとわかると興味を失って散っていった。


「ああ、いい店紹介してやろうか?よくかえでが行っているとこ。何でも落とした子にプレゼントする店だ。リーズナブルでタコでも給料で何とかなる値段だぞ」 


「もうええわ。ワシが自分で探すよって」 


 肩を落として明石は立ち去ろうとした。だがかなめもアメリアもこんな面白い人物を放っておくわけが無い。


「紹介してやるっての!値段の交渉もアタシは得意だぜ」 


「西園寺……足元見てからに」 


 どこまで言っても同盟司法局の給料だけでそれほどいいものが買えるとは誠にも思えない。そんなところに笑顔でつけ込むかなめに少しばかり呆れていた。


「ああ、カウラちゃんはその荷物大切だものね。先に帰っていていいわよ」 


 かなめはそのまま急いで雑踏に消えようとする明石を追っていく。彼女について行こうとアメリアは誠とカウラにそう言って小走りで去っていった。


「じゃあ、帰りましょうか」 


 そう言った誠だが、どこかカウラは気が抜けたように頷いて誠の後に続いてくるだけだった。


 誠は仕方なく空いているカウラの左手を握る。はっとした表情でカウラは誠の顔を見て我に返った。


「帰りましょう」 


 その一言にカウラは笑顔で答えた。


『あの姿を、カウラさんのドレスの姿を描こう』 


 誠はそう決心してカウラの左手を握りながら歩き始めた。


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