世界滅亡5分前
世界滅亡5分前。
カップ麺に湯を注ぐ。
手に跳ねたお湯。その熱でさえ、今は心地よかった。
深くは知らない。ただテレビ曰く巨大隕石が落ちてくるらしい。
世間の騒動から、それはどうやら事実らしいということだけは分かった。
最初は両親に電話した。神がお迎えにくるとかなんとか言っていた。
次に友人に電話した。隕石をバットで打ち返すと言われ電話を切られた。
世界全体がおかしくなった。いや、現実を直視できないのだろう。
私だってそうだ。世界が終わる間際、カップラーメンを作っているのだから。
チャーシュー十枚。ネギは多め。ちょっと豪華に卵は二つ。
タイマーは残り4分と少しを示していた。麺は柔らかいほうが好みだ。
欠伸をしながら窓を見る。空を覆う巨大な岩。
あんなものを見て何かしようと考える者の気が知れない。
どうしようもない。だから、普段通りに過ごす。そう決めていた。
そう決めていたはずなのに。
いつもより豪華なカップラーメン。
目尻に溜まった二つの雫。
負った火傷の心地よさ。
やはり心は誤魔化せない。狂わずにはいられない。
私は、もっと幸せになりたかった!
両親に大好きって言いたいし、友達とも遊びたかった!
だけど、どうしようもない。どうしようもないんだ。
無機質に進むタイマーを止められるはずがない。
この湯気を立てる小さな幸せを、私が味わうことは決してないのだ。
ぽつりぽつりと雫が落ちて。タイマーは0を指す。
次の瞬間視界は弾け、音が消える。凄まじい轟音が身を打つのが分かった。
その刹那思う。ああ、あのラーメンはどんな味がしたのだろう、と。
その次の日、友人は神になった。
そしてラーメンは私の胃には重すぎた。
流石にチャーシュー10枚は欲張りすぎたみたい。