今度こそ受け取って欲しい
「あの……。これ一生懸命僕が作ったんだ! だから受け取って欲しい!」
頭を下げながら赤いリボンテープで封した透明な袋を前に差し出す。
二月十四日。
それは家庭と結婚を司る女神ユーノーの祝日。
また、それはカップルが愛を祝う日。
そして愛する人にチョコレートを贈る日。
そう、今日はバレンタインデーなのだ。
何度も渡す練習を繰り返した事もあって今回こそ割とうまく伝えられたのではないだろうかと自分の中で高く採点する。
愛しの君へと初めて送るこの気持ちとチョコレート。
世の中には義理チョコ友チョコなるものもあるが、僕が作るのは彼へと送るこの一つだけだ。
ほかなんて必要がない。
そうだ。彼には他のチョコなんて必要ないんだ。僕のがあればいい。僕のだけがあればいい。
そんな事を考えていると彼へチョコを渡したときのイメージが浮かんできた。
彼が明らかに困惑した表情をしているのがよく伝わってきた。
「この思いを今日まで隠し通すのはとてもつらかったんだ。……えっ、確かに僕は男だけれど、それって問題があるのかな? 愛の前にはそんなのどうでもいいじゃないか」
そうだ、僕は彼を愛している。
もう彼しかいらないぐらいに僕は彼を愛している。
なのに、彼は頬をかき僕にこう告げた。
「悪い……俺、そっちの趣味ないし……」
僕の妄想はここで終わりを告げる。
こんな結末なんて僕は望んでいない。
彼に嫌われる結末なんていらないのだ。
「あー、やっぱり、伝え方が悪いのかなぁ……。もっとハキハキした感じでいくのがいいのかな? それとももっと女の子っぽく渡すほうがいいのかな……?」
僕は渡し方を再考する。
絶対に彼に受け取ってもらえる方法を考えなくてはならないのだから。
そう思いながらふと部屋の時計を見るとどうやら時間が狂っているらしく変な時間を表示していた。
僕は二月十四日に時計の表示を戻し、彼へのチョコを渡す計画を練り直し始める。
何度も告白の計画を考えてはやりなおしていたのだけれど、どうにもいいアイデアが浮かばなくて窓を見るといつの間にやら夜は明けていて外ではきれいな桜が花を散らしていた。
「うわぁ……バレンタインに桜とか。こんなのありえないよ。きっと神様が僕の告白は成功すると祝福してくれているんだね!」
僕は満面の笑みを浮かべながらカーテンを閉める。
こんな日ならきっと今度こそ成功する。
あれ? 今度ってなんだっけ?
彼に渡すのは今日が初めてだったはずだ。だから今度なんて言葉おかしいのに。
僕は少し首を傾げるが、そんなことどうでもいいと浮かんだ疑問をゴミ箱へ捨てる。だってそれは必要ないものだから。
「もう少しだけ待っててね。うん。失敗しないためにも完璧な渡し方にしなくちゃね。だって君にぼくのを断るなんて迷惑をかけるわけには行かないんだから」
そう思いながら僕は僕の願いを叶えるために妄想の世界へとふたたび戻るのであった。