おふだで封印された魔王は、今日も元気に聖女を口説く。
「第4回小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
おふだが貼られた壺から、今日も聞き慣れた男の声が話しかけてくる。
「なぁなぁ。今日こそはおふだを剥がして俺を解放してくれよ」
「駄目です」
「お礼にアンタの願い事、何でも一つ叶えちゃう! あ、でも王子様と結婚したいとかは無しな。人の心を操る魔法は使えないんだ」
「別に王子様とか興味ないので。ああそうだ、こういう願い事はどうです? 『永遠に滅せよ』」
「酷っ! それマジで言ってる? 俺とアンタの仲じゃん!」
「ええ、かつて世界を征服しようとした魔王と、それを封印する聖女の仲ですから」
「厳しい! でも元気になったみたいで安心したよ。この前は風邪で辛そうだったからさ」
「……ご心配どうも」
「何度も言うけどさ、俺もう世界征服とか興味ないんだよね。もっと欲しいものができたから」
「へー」
「つれないなぁ。でもそんなところも好きだよ。俺はアンタが好きだ。この世で唯一、アンタが欲しい」
「……その台詞、先代の聖女にも、先々代の聖女にも言いましたよね? 浮気者は嫌いです」
「いや浮気じゃないし! だって中身は同じアンタなんだから……え、待って、今のって焼き餅? 脈アリってこと!?」
「なっ! はぁ……何百年も壺に囚われてるくせに、どうしてそう元気なんですか……」
「囚われてるのはアンタも同じだろ。何度転生しても、俺を封印した初代聖女の記憶に縛られ、俺の封印に一生を捧げさせられる」
「……別に強制されているわけでは」
「次で百回目だな、アンタの転生。初代のときに交わした約束、覚えてるか?」
「……何のことだか」
「え〜約束したじゃん〜。百回生まれ変わったら俺のこと好きになってくれるって」
「はぁ!? 違います! 『貴方を好きになるなんて、百回生まれ変わりでもしなきゃありえない』って言ったんです!」
「なんだ、ちゃんと覚えてるじゃん。楽しみだなぁ、百回目。もし好きになってくれたら、俺を壺から出してくれる? このままここでアンタと永遠の時を過ごすってのも悪くないけど、やっぱりその、手繋いだりとか、キ、キスとかしたいし……いやもちろんアンタが嫌じゃなかったら――」
「ありえません」
「え」
「百回目で貴方を好きになるなんて絶対にありえないと言ったんです」
「……そっか。そうだよな。聖女が魔王を、なんて」
無言でおふだを掴み、引っ剥がす。
壺から湧き出た煙が晴れた時、数百年ぶりの魔王がポカンとこちらを見つめていた。
「だって、私はもうとっくに貴方のことが好きだから」
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