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闇系退魔師の受難  作者: 名無しの劣等者
Re:Remember
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決戦の第二ターミナル

これを読んで下さってる神様方、お久しゅうございます。

えー…何と言うかですね、えぇ…筆を取る指と、書くかーと行動に移す腰が思った以上に重く、あれよあれよと言う間に気が付けば2ヶ月も過ぎましたね…。

自分の書きたいものを書きたいペースで、を主としてましたが、これは流石に間を開けすぎたな…と反省しております、はい。誠に申し訳無い。


つらつらと書いてたら凄く長くなりそうなので、ちゃっちゃと行きましょう。

羽田空港後編、スタートです。

 退魔師達の働き、そして上げた成果により、羽田空港全体を覆っていた結界は消え去った。


 それにより、中へと立ち入る事が出来なかった警官達が(こぞ)って入り込み、我先にと民間人の保護を開始していた。


 退魔師に活躍を奪われたという妬み、野次馬として集まってきた住人らの得も言われぬ視線に耐えかねたが故の行動なのだろう。間に挟まれる立場は何とも大変なものだ。


 はて、このワンシーンだけを見れば全ての事は片が付いたように思われるだろう。


 現に結界は消え去ったし、その元凶も今や其処らに転がる物言わぬ躯の一つと成り果てた。人質も開放され、めでたしめでたし…のはずだった、が。


 人の定める枠から外れた階級に就いている退魔師、「特級退魔師」の不知火は空を飛ぶカラスを眺めながら、口を開いた。


「さて……疲れてるところ悪いけど、まだ終わってないんだよね。君達がまだ行っていないところ、第二ターミナル。そこに一匹、強い悪魔がいるんだ。これから君達には其処に行って、そいつを倒してほしい。俺は警察の手伝いと残りの雑魚共を片付けるから、よろしくね!」


 遅れてきたというのに悪びれの一つも見せず、屈託無い笑顔でそんな事を言ってきた。


 ___それが、つい数分前の事だ。


 頭を抱えたくなった華懍は、それを何とか表に出さずにまだ動けそうな何人かを見繕えば、指定された第二ターミナルへと足を向けていた。


「ったく、人使いが荒いなんてもんじゃないよ…」


「ま、まあまあ…そう言わず、ね?」


 誰に向けた訳でもない、ため息混じりの愚痴をポツリと溢せば、斜め後ろを歩いていた和服姿の女性が隣まで歩を進め、苦笑いを浮かべながら宥めてきた。


 宥められるほど怖い雰囲気を出していただろうか…?


「…はぁ、悪いね。どうも余裕が無くなってきてるみたいで、愚痴っちまった」


「仕方無いよ、あれだけの事があった後に立て続けだもの」


「それもあるけど、ねぇ…」


 確かにボス格だと思っていた奴が実は中ボスであり、本当のラスボスは後ろに控えていました、なんてオチは気疲れ等が一気に押し寄せても来る。


 だが、それとは別に気掛かりが一つ…いや、二つほど、彼女の中で巣食っており、荒れさせる原因になっていた。


 ……あの馬鹿(闇瀬)、大丈夫なんだろうね…最後にバカデカい事をしてたけど、相当の無茶をしたのか起こしても起きなかったし…。それに、一緒に戦ったあの子(墨綴)の姿もなかった。保護された…?…分からない事が多すぎるね…。


 顎に手を当て、思考する真似事をしてみるが浮かぶものなんて現状確認が精一杯で終わる。


 小さな舌打ちをすれば、?を浮かべながら見ていた彼女が少しわたわたとした表情でまた宥めようとしてくる姿が視界の端に写った。


「あぁ、すまないね。……そういや、あんたの名前を聞いてなかった。何て名前なんだい? 亭号でも構いやしないよ」


「そう言えばまだ名乗ってなかったね、私の名前は__」


 着物の彼女が名乗っていない事に気付き、少し申し訳無さそうな顔をした後に名乗ろうと口を開いたのと、第二ターミナルの一区画から銃声とも、砲撃とも取れる音が響いたのは同時であった。


 それを耳にするや否や二人は雑談を止め、顔を頷き合わせれば、他数名を引き連れて弾かれたように走り出した。




 時は正しく数分前。

 華懍達が第二ターミナルへと足を向ける前当たりである。


 数多くの人が行き交うことを想定され、造られた事が伺い知れる広々とした第二ターミナル。


 だが、その想定とは真逆に、余りにも静けさが支配するその場には一人の男が立っていた。


「そろそろか…」


 男は懐から時計を取り出し、指し示す時刻に視線を落としてからポツリと言葉を零す。


 …生み出した悪魔はその大半が削られ、戦力は大幅に低下。

 想定外の結果か…いや、規格外の退魔師も居たであろう状況下で、善くここまで持ったと言えるだろう。

 想定よりも二倍近くは保ってくれたと言えるな…。


 男は時計に視線を落としながらそんな事をぼんやりと考えていれば、この広間へと続く入口の一つから悲痛な声が聞こえてきた。


「…っ、もう、やめてよ…止めてよ!」


 声の主はいつかに見た少女。名は墨綴 栄。


 その時の気まぐれか、それとも何か不思議な力でも働いたか。彼女が幼い頃、迷子になっていた所を助けた子だった。


 今となってはすっかりと成長しており、あの頃の面影は果たして見られるかどうか。

 そんな彼女が叫びをあげているのだ、「止めてくれ」と。


「もう、充分でしょう!? 人を傷付けるのも、悲しませるのも…! もう、やめてよ…! 零さん…」


 悲痛とも取れる訴えを掛けながら、しかして彼女は退魔師であり、今回の事件を引き起こした全ての元凶と言える相手に対し、神威を行使していた。


 書き殴るように連ねていくのは「大砲」や「銃」と言った飛び道具類。


 次から次へと書き足しては一斉掃射を続けていた。


 そんな彼女に、【零】と呼ばれた男_悪魔は、まるで今思い出した様にチラリと一瞥する。


 眼前に並ぶは無数の銃口、飛んでくるはこれまた無数の弾丸。


 そんな様を、場違いな程にのんびりと眺めては、当たる寸前で縮地をして避けてみせた。


 悠々と避けて見せ、圧倒的な実力を見せつけながら、なお男が見せた表情は少し困ったような表情であった。


「やめたら、僕は普通の暮らしができるかな。好きな人を嫁にして、学校に普通に通って、放課後ゲームをして。…出来ないだろう…? __生憎と僕に対し、人間は生存権を適用しない」


 だからそろそろ静かにしたらどうだい、疲れるだろう?だなんて、彼女の訴えすら無情にも言葉で斬り捨てる。


 悪魔らしい冷たさを見せながら、もうそろそろかな…だなんて、彼は彼女の仲間すら待つ余裕を見せていた。


 そんな、傍から見れば一種の痴情(ちじょう)(もつ)れと取れそうな様子を上階の影から伺うようにして眺める一つの視線があった。


「………」


 影に潜むにはあまりにも不似合いな白さを持つ着物と肌、そして白髪をゆらりと(なび)かせる少女は、赤い瞳を揺らして静観を貫いていた。


 今出ていった所で何もする事はなく、どうすると言った事も無いのは明白。何よりも出ていく理由が何一つとして無い。


 早々にその場を離れても良かったのだが、何故か彼女の足は動こうとはせず、そこに固定されており、視線も背けることは出来ずにいた。


 __あやつ()の言葉…やはり……。


 一人勝手に、自身に向けられた訳でもない零と呼ばれる悪魔の言葉を脳内で反芻させ、少女は何やら思うことがあるのか、考え事に耽けようとした。


 だが、それをするには場所があまり適してはいない。


 現にそうこうしている内に、ゾロゾロと退魔師と思わしき者達が集合を始めており、時が経つに連れて騒がしさが増していた。


 上から確認するだけでも相当数だ。


 動物から人の姿へ、人の姿から動物の姿へ変わるだけでなく、何やら言の葉を発して放たれた弾を無効化する厄介そうな男。雑兵を蹴散らした、雷を纏う男とそれに準じて歩く男の二人組。錫杖を抱えるようにして持ち、ピーチクと烏に向けて吠えながら体を震わせる男。少し遅れてやって来た槍を得物とする気の強そうな女と着物姿の平凡そうな女、そしてそれに合わせてゾロゾロとやって来た雑兵と取れそうな部隊。


 少しの間を置いただけでこの集まり様である。上からの眺めとしては悪くはない、空港全体で見れば圧巻を受ける光景だろう。


 それにこの団体以外にも、姿は見えず、上手く隠れてはいるが、遠距離に長けた攻撃手段を持つ者も付近に控えている気配がする。


 たかが悪魔一体に容赦が無いと、その場の光景や頭数だけで見れば、そう判断できるだろう。


「…これでは()()()一方的に蹂躙されるだけに終わる__む…?」


 戦況を眺め、この後に起こりうる事態を想定しつつ、場に集まった顔触れを見ていたが、ふと、ある女性が目に留まった。


 どうやら飛び掛かってきた火の粉を払った後らしく、まだ新しい鮮血を幾つか付けた状態でやって来た様だ。


 別段、そこのみを挙げるならば他の者と遜色は一切無いと言える。


 目を引いた理由、その最たるものは人間には絶対と言い切れるくらいには有り得ないものが生えていたからだ。

 彼女には人間には無い部位、()()()があったのだ。


「……近頃耳にする、退魔師側に立った【魔人】か…」


 ポツリと呟きながら、少女はジッと目を離さずに観察する。

 …いや、離さないのではなく、離せなかった。


 本来、人間の負の感情から生み出された悪魔はどうあったとしても人間と敵対する運命下にある。

 そして、それは人間の死体の中へ入り込んだ魔人にも例外なく適用される。


 決して相容れぬ存在、同族嫌悪にも似た感情が、その認識が両者共に潜在下にあり、それが世で言う普通として蔓延っているのだ。


 だが、その(ことわり)に収まらず、挙げ句に反する者達も居た。

 認識に対して真っ向から歯向かい、倫理と理性で捻じ伏せる者達。


 きっと彼女もその一人に違いないのだろう。そうで無ければ別の要因か。

 どちらにせよ、人側に付き、あまつさえ肩を並べ、背を預け、同種を狩って屠るというのはこちら側(我々)から見ても稀有な存在と言える。


 ただ、どれだけ理性や倫理で捻じ伏せようとも、本能を完全に屈させる事は出来やしない。

 今でも乱雑に転がる死体の匂いに反応を示し、顔を(しか)めているのが見て取れた。


 それでも向こう側に立っているのは感服物ではあるが…。



 さて、零と真っ先に対峙し、痴話喧嘩とも取れよう言葉の応戦をしながら、戦いたくはない…それでも戦わねばならなかった墨綴は肩に止まった鷹を見て目を見開いた。


 そして瞬きをした次の瞬間には男の姿へと変貌したのを見、更にゾロゾロとやって来た退魔師達を見て焦りを覚えていた。


 退魔師…って事は、まさか、援軍…? 速い…想定していたよりも、ずっと…!


 言葉を口にせずとも、確認するように事態を飲み込み、自覚をすれば焦燥はより早まりを見せた。


 そして焦燥が早まれば早まるほどに、並行して手の震えが増していくのを覚える。


 相手は悪魔だ、人類の敵だ、倒さねばならない、殺さねばならない、相容れぬ存在なのだ。


 ……だけど…頭で分かっている筈なのに…でも、殺したくない…そう、殺したくはない。だって、あの人は、私にとってどうしようも無いくらいに___


「……大切な、()…なのに……」


 敵としては見れない、悪魔としては見れない。


 人として見た、見てしまった。


 だからどうしようもなく、行き場を残した言葉と感情が、聞くに堪えない程に悲痛な声を上げながら心を強く締め付けていた。


 お願いだから、誰か…誰か早く、この人を何とかしてよ…。どうにかしてよ…。私にこの人を傷付けさせないでよ…。手に掛けさせないでよ…。誰か…誰か……彼を殺して(助けて)よ…。


 子供の様な我が儘を胸の内で喚き散らし、ギリギリと締め付けて苦しみを受け続ける心を持ちながら、しかして体は無情にも感情や考えとは裏腹に、彼を攻撃し続けた。


「大砲」「銃」「弓」、遠距離攻撃での代名詞とも言えよう武器の名を書き連ねては、絶え間なく弾を放ち続けた。


 ガリガリと削られ、今にも底を突いて悲鳴を上げそうな霊力を覚えながらも、涙は流さない様に我慢をし、まるで自身の感情の吐露を、弾に乗せて代弁させるようにして。


 だがそんな悲痛な彼女の声も、言葉も、行動も、零は一つも体に受けることなく避けて、或いは作り上げた魔槍で防いで終わらせた。


 そしてご丁寧に頭数を揃えれば勝てるとでも見込んでいるのか、集まってその言葉を体現している退魔師達を一瞥する。


 予測をしていなかった訳ではなかった。

 いや、それどころか勘で(おおよ)その数は浮かべていた。


 削れたであろう戦力、そして数…ふむ、思ったよりも多い。


 __だが。


 それでも勝てなくはない、…いや、この程度なら余裕だろう。とはいえ、わざわざ相手をしてやる必要性すら感じられない。


 戦い合って勝てると分かっている戦力ならば戦う理由が何処にあるのだろうか?せめてもの慈悲として、忠告くらいは送ってやろうか。


 そんな考えが頭を過ぎれば、溜め息を一つ吐き出して間を置き、やれやれ、と溢してからゆっくりと口を開いた。


「お前らが、僕の相手になると思うか? 揃いも揃ってよってたかって、僕を虐めに来たか。…残念ながら、虐められるのはお前たちだ。何故退かない。退かねば死ぬぞ。」


 この力量差を、圧倒的なまでの戦力差を感じられない程にお前らは弱いのか、歴が足りていないのか。

 お前もそうだ、遠くから見ている狙撃手。場所は割れていないが…雰囲気で、殺気で分かる。この声が果たして届いているか定かではないが。


 全く、何故ここまで丁寧に説明してやらねばならないのか…ただの気紛れながら自身の優しさに、表には出さず自身に対して自嘲をする。


 最早墨綴の方すら見向きもせず、碌なダメージソースにすらならなくなった、磨り減った霊力で作られた未だ止まぬ攻撃を、これまた先と同じ様に魔槍で弾き飛ばして防いだ。


 だが片手間にし過ぎたのか、偶然にも跳弾した弾が頬を掠めて一筋の血を流せば、そこで初めてまともに墨綴の方を見やり、優しい笑みを浮かべ、一言。


「思ってたよりやるね」


 誰から見ても激甘な評価、受け取る者に()っては(あお)られていると感じても可笑しくない言葉を彼女へと投げ掛けた。


 さて、墨綴とそんなやり取りをしても、黙って棒立ちで殺られてやる程、零は優しくはなかった。


 戦う理由も必要性も無いなら、奴らの思い通りになるつもりもまた無いのだ。


 周囲を再びチラリと一瞥して戦況を把握をしようか。


 死にに行こうとする奴の首根っこを引っ掴み、扇をパタパタと振って(あお)いでサポートに徹しようとする者。彼女(墨綴)の肩を借りていた鷹が男へと姿を変え、短刀を投げ付けながら大刀を振るって来る者。


 当然、こんなのに当たってやる気なんて更々ある訳が無いので、短刀は魔槍で弾き、大刀の方は呪力を腕に張り巡らせて強化した腕で撫でるように弾こうか。


 こいつはこのまま片手間処理で良いだろう…他はどうだ、動きを見せる奴は居るか。


「ん…?」


 端から端へと視線を滑らせれば、ふと捉えたのは先程まで一切見なかった白い影。


 だけど、その影に見覚えが零には確かにあった。

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