模擬訓練(1)
「あー…手合わせの前に申告させて頂きたいのですが…」
周りの空気や、教官の圧に促されるまま指定の位置に立った時、おずおずと手を小さく挙げ、頭のみ教官の方へ向けて見る。
「何だ、言ってみろ」
教官は少し煩わしそうな顔をしながら聞いてくる。
それ新人の前でしちゃいけない顔だと思います、私。
「えっと…私の神威はどちらかと言えば支援系でして、出来ればこういったのは少しご遠慮願いたいなーと思う次第で…」
あ、あはは…なんて乾いた笑いが出そうな程の声色で進言する。
きっと素顔が見えていればそんな表情も浮かべていた事だろう。というか実際浮かべてる。
「ふむ…どういったものか言ってみろ。その場合によっては考えてもやらん」
こちらの申告を聞いた教官はというと、顎に手を当て少し考える素振りを見せる。
そして直ぐにこちらへの答えを返してきた。
「防御型、と言えば良いでしょうか…。壁を作り、敵の射線や攻撃を防ぐのを得手としております」
「…ならば相手の連撃を防いでみろ。被弾した数によって減点していく」
成る程、減点方式ですか……。
壁を作り、攻撃を防ぐ。もし攻撃を漏らしても避ければ良い、と言ったところなのだろう。
理に適った判断基準だが…自身は漠然とした不安を感じていた。
何故そう感じているか、それは『果たしてこちらが防御しきれるほど、相手の連撃は少ないのか』が理由だった。
明らかに柔な攻撃をすることがないのは、こちらも強く感じている。
特に、こちらが教官とやり取りをしている間は準備運動をしていたが、それも終えたのか相手は不穏な笑みを浮かべていた。
「嫌な予感しかしないのですが…仕方ないですね…」
「お、やっと終わったかあ。んじゃ始めようか?」
待ちくたびれたと言うように腕を軽く回し、彼女は得物を構える。
刃先はカバーが付けられており、殺傷性は無いがあれで突かれたらひとたまりもないのは語るに難くない。
「お手柔らかにお願いしますよ…」
ホントに…と小さく呟くように言葉を付け足しつつ、切に願いながら少しだけ腰を落として構えを取った。
それを合図とし、彼女との手合わせは始まりを告げた__。