兵どもが夢の跡
待たせたな(精一杯の格好付け)
次投稿するのは無力だと思いました?残念、こっちが難産過ぎるので、さっさと終わらせちまおうと思って仕上げました。
では、第一ターミナル、ラストです。
瞬く間に、という言葉が相応しい程、目まぐるしく変わる戦況。
あっちが立てばこちらも立つ。
そんな中で燈浬は、自らが助けた雨月の状況をチラリと一瞬だけ確認すれば、最後まで成り行きを見ずに視線を逸らす。
心配なのは間違いない、あの貞子だってそんじょそこらに居るような雑魚じゃない。
貞子の戦法もそうなのだが、今置かれているこの状況だって、雨月にとってはキツいものがあるだろう。
だがそれでも彼を信じる、信じるしかない。
それに、こっちもまた油断ならない状況だ。
今はバーケライヒの意識が別に向いているからこそ、この行動が出来ているが、本来であればこんなことをすれば即座に死んでいることだろう。
いつまでも敵に背を向けたままというのはよろしくない。
どれだけ奴を堰き止められるかはわからないが、少なくとも相手取ることで向こうへと行かせるのは防げるだろう。
氷柱を投げつけ、振り抜いた姿勢と勢いを殺さず、左足を軸に回れ右をすれば、バーケライヒの方を向き、一息に駆けていく。
三体がかりでの同時攻撃を行っていた落ち武者の対応で、反応に遅れて一太刀浴びせることが出来れば儲けものだ。
「そぉれ、一本頂きっすよ!」
__落ち武者共とは格が違うのぅ…大きな振り被りだが、隙と言えそうなものが見えない……ならば白刃流しではなく、もう一つの技を使うとしよう。
ふむ、と小さく唸るように息を漏らせば、当たれば只では済まぬと分かるその一太刀を、敢えて男は避けようとしなかった。
今まさに、凶刃が肉薄する…ところで、刀は止まった。
無論、燈浬がその攻撃の手を止めた訳では無い。
寧ろその逆であり、意地でも通そうとした。
しかし止まった、止められた。
切っ先は、彼の体に届こうかという所で、彼の人差し指と中指と親指で、まるでちょこっとだけ物を摘むかの如く、挟み込まれて止まっていた。
「カカカ、こちらの方が有名じゃからのう。貴様とて聞いたことあるじゃろう…? 真剣・白刃取り」
武芸を極めた者が会得するであろう技を、まるで簡単な事であると言うように、ニヤリと口角を上げながら披露せしめて見せるバーケライヒ。
そんな彼に「うわぁ…」と言わんばかりの表情を隠すこともなく燈浬が浮かべていれば、笑みを浮かべていたバーケライヒは突如としてその表情に陰りを見せた。
「しかしこの技には難点が一つあってのう…儂の場合は白刃『取り』ではなく、白刃『折り』になってしまう。折角良い得物を見つけても手にすることが叶わんかったりするのが考えものじゃな」
わざとらしさを含んだ、至極残念そうな表情と言葉を吐きながら、もう片方の腕で手刀の準備をする。
どうやらただでさえ指先の圧でへし折れそうな大刀を、更に手刀でへし折るつもりのようだ。
「あはッ、確かに白刃取りは有名っすねぇ、白刃折りは一切聞いた事ないっすけど。というか、折られるのはちょーっと、困っちゃうんすよ、ねッ?」
バーケライヒに刃先を指先で簡単に止められたのは、燈浬にとって想定外であるのは言うに難くない。
挙げ句に自身が愛用する大刀をこのまま折ると宣言されれば、残念そうなわざとらしい相手の顔に応えるように、眉毛を八の時にして困り顔を見せてやる。
勿論ながら素直に折らせる気もさらさらないので、大刀の形を神威で上書きして短刀程度の大きさへと変える。
そうすれば、ふわ、と彼が持っていた大刀の刃はなくなり、振り下ろされた手刀は空を掻く事となった。
どうでも良いが、この手刀だけでも人の首は簡単に跳ねれそうである…やっぱ恐ろしい奴っすね、こいつ…何で自分が相手してるのかさっぱりなんすけど…。
抱いても仕方ない感想を胸の内に浮かべながら、燈浬は彼の頭の上を高飛びをするような体勢で飛び越す。
立っている人一人を飛び越すという人間離れした跳躍を見せれば、相手の背を取るような位置に着地をし、短刀に変えていた愛用の武器の上書きを解いて後ろから刺しにかかろうとする。
「背後からの奇襲か! その体捌きと意気や良き哉!」
しかしこちらもまた黙ってやられる程度の者ではない。
後ろに回られた事を瞬時に理解すれば、体勢を変え、背面と両腕を使って刺そうとしてくる刃を、己が肉体と筋肉を使って挟み込み、へし折ろうと試みた。
しかしそこで二人の動きは止まる。
どちらも行っていた行動をそのまま一時停止したかの様に止め、同じようにして周囲を睨んでいた。
かの二人の行動を止めた原因、果たしてそれは先程バーケライヒが弾として飛ばした落ち武者達が復帰してきたことあった。
数は10を下回るものの、一人と一体に比べれば断然に多いと言えるだろう。
勿論ながらこの二人にとっては、その行動を止めるに値はしない存在の認識だ。
だが阻害はされる。
この行動をしようと思い、それを行っても横槍が飛んできては思うように実行はできない。
そしてそんな不意を、今こいつに突かれたら確実にタダでは済まない。
それ故に止まらざるを得なかったのだ。
どちらか片方に寄っているならばまだしも、周囲に吹き飛ばされた後に復帰してきたからか、両者を取り囲むような形となっており、偏りが見られない。
「……全くもう、茶々入れが許されるのは可愛い女の子だけだって知らないんすか? あ、僕の妹は勿論ながら入ってるっすよ、手を出したら許さないっすけど、ね!」
思うように動けない事を悟れば、どう動くのがベストか散々思考した燈浬は、やれやれと言うように嘆息を漏らしながらスッ、とバーケライヒに突き立てようとした大刀を引く。
そして代わりに自身を取り囲む落ち武者共に向けて、大きく横一文字に薙いだ。
これでバーケライヒも巻き込めればなー、なんて甘く考えながらチラリと一瞥をしてみれば__
「折角いいとこであったのに……またもや邪魔をしてくれたわいのう、落ち武者共…」
どうやら度々の落ち武者達による妨害に、怒髪天を衝いたのだろう。
顔に着けていた仮面の奥で、眼光が赤く光る。
彼が小さく跳躍すれば、その光は細く尾を引くように上へと流れた。
MH経験者ニキはナル○クルガを想像すれば、どんな感じであるかイメージするのは難しくないだろう。
「たかがあそこの陰気臭いのに使われるだけの雑兵風情が! 寄せ集めの分際でちと図に乗り過ぎだわいのう!」
小さく跳んだ彼はそのまま空中でぐるぐると回り始めた。
どういう原理か、取り敢えず回っているというのが分かる。
回りながら四方八方へと蹴りやら殴りを無差別に放ち、そのまま重力にならって床に落ちて、そして球体の如く転がってこちらへ……___こちらへ…?
「って、ちょちょちょ、タンマ! タンマっす!! おわぁーーー!?」
__時は少し遡り、場所は氷牢の中。
逃げ場や隠れ場など何一つ無いこの中で、一つの戦いが、今まさに決着を迎えようとしていた。
「ッ__!」
逃げられたと感じた。
しかしそうではなかった。
反撃は愚直な直線上へと伸ばす髪だと思った、そう認識してしまった。
だがそれは過ちだと瞬時に気付かされた。
何度同じ轍を踏めば気が済むのだろうか?
足元に突き刺さる髪がわなわなと動き、そしてそれに合わせて突撃してくる、迫り来る黒。
その刹那とも言える間、雨月の思考は急速に動いていた。
__周囲にある髪を払えるか?
答えは否だ。
全てを刈る間に胴が、もしくは頭が泣き別れさせていることだろう。
__ならば防御か?
これも否だ。
相手の今までの動向から察するに、全てを防げば瞬く間に離れられるだろう。
相手が接近してきているということは、ピンチである。
しかし、それと同時に、離れて戦い続ける相手が懐に飛び込んで来てくれる、千載一遇のチャンスでもある。
トライ・アンド・エラーを繰り返せるならば、きっとそれが良いだろう。
だが貞子の場合、今逃がした場合、近付いてくる可能性が限りなく"無い"に等しくなる。
__だからこそ。
これを最初で最後のチャンスと捉え、腹を据える。
手足の負傷などを一切顧みず、せめて急所になり得る体の中心部は氷の盾を張り、最低限の守りだけを持って貞子を迎え入れてやるとしよう。
狙うは勿論、相手と同じく一撃必殺。
その首へと狙いを澄ませ、突っ込んでくる勢いをも利用し、断頭台の刃の如く、斬り捨てる為に両手を伸ばす。
その様はまるで、じゃれついてくる彼女を受け止めるかのようで。
そして二つは交差をし__一つの首が床へ転がり落ちた。
「____はぁ、はぁ……」
どさり、と音を立てて膝から崩れ落ち、肩で呼吸をする。
自身の首が繋がっていることを再確認すれば、大きく息を吐き出す。
流石に神威を使いすぎた…。そうでなくとも、脆いこの体を酷使し過ぎた…。
雨月は朦朧とする頭で、今の状況を少しでも知ろうと辺りへ視線を滑らせた。
どうやら維持出来るほどの霊力も今や残っていないのか、辺りにあった氷の檻は霧となって消え去っており、周囲の景色は閉じ込められる前に立っていたターミナル内に戻っていた。
霞みつつある視界は少し先すら見通せず、あまりの疲労感に、戦場であることを忘れてこのまま倒れ込み、休みたいと感じてしまう。
その抗いがたい誘惑に負けそうになっていた時、ふと視界の端に一つの影が飛び込んでくるのが写った。
「冗談も休み休みにしてほしいっすよね…デタラメさ加減が凄いっすよ…。ホント、恐ろしいっすねぇ」
その言葉の通り、全てを破壊し、薙ぎ倒し、押し潰し、殴り倒し、蹴り抜き、先へ先へと転がりながら進むバーケライヒを、鷹へと姿を変えた燈浬は空中で見下ろしながら感想を溢した。
あれが当たるか当たらないかと言う瞬間、何とか鷹へと姿を変えるのに間に合ったので、こうして空中から高みの見物が出来ているが、間に合ってなかったらと思うと、気楽さが売りの自身でも冷たいものが背筋を走る。
流石にあんなのを真正面から受け止めれるほど、こちらは頑丈さを持ち合わせてなく、度胸も残念ながら無い。
だって自分、お姫様っすから。
のらりくらりと躱しながら、隙があれば刺すのが一番性に合っているんすよ。
故にあの全てを潰す球体を相手するのは無理っす、色々と。
あ、抵抗してた落ち武者くんが潰された。
「っ___!」
そんな様子を悠々と眺めつつ、隙あらば首でも狙ってやろうと猛禽類らしい、獰猛な瞳を爛々と輝かせていれば、バーケライヒの進路上には、いつの間にか消え去っている氷牢。
今や無き檻があった場所に、一切動く様子が見られない転がる一つの影と、膝をついて座り込んでいるもう一つの影。
座り込んでいるのが雨月だと認知するよりも先に、危険を悟った本能が体を突き動かし、出し得る最高速度でその場へと飛んでいく。
球体が速いか、こっちが速いか。
あれは見た目の割に、存外とかなり速い、間に合うか?
いや、違う。
間に合うかどうかじゃない、間に合わせる…!!
「___ふーーー……大丈夫っすか、雨月くん? 痛むとことかあるっすか? あ、自分がやったのはノーカンで頼むっす。力み過ぎた自覚はちゃんとあるんで」
貞子諸共、雨月を踏み潰して行こうとしたところを本当に間一髪で間に合い、肩を掴んで直ぐ様に空中へと逃げ去った燈浬。
その後、何もかもを踏み潰し、離れた壁へと向かって転がり去ったバーケライヒを見送ってから地上へと雨月を降ろし、その横で変身を解いて座り込みながら彼に語りかける。
「あはは…ちょっと無理をし過ぎたかもしれないです…少しだけ、休み、た…く……」
力なく笑った雨月は、全ての緊張の糸が解けたのか、それともあまりの疲労からか、燈浬の顔を見て安心しきった表情のまま、ぽすりと隣に座る彼の肩に頭を預け、眠りこけてしまった。
「ありゃ、雨月くーん? …こりゃダメっすね、僕も結構疲れてるんすけど。…はぁ、もうひと頑張りするっすかねー…」
完全に寝てしまった相手を見れば、やれやれと言いたげに頭を横に振ってから、「可愛い寝顔してるっすねー」なんて役得と言わんばかりに、頬に人差し指をうりうりと押し付ける。
それから疲労等で重い腰と気怠い体を起こし、周囲を見やって警戒をしつつ、雨月を背におぶってその場を後にするのだった。
__バーケライヒが転がっていった先の壁。
そこはものの見事に大破しており、役目を果たすはずの壁は今は無く、瓦礫の山が代わりとしてうず高く積み上がっていた。
「ぬぅん!!」
その瓦礫の山の中で、一際大きく、盛り上がった部分が、気合のこもった声が聞こえたかと思えば、ガラガラと揺れ、次の瞬間には大きな爆発音と共に周囲へと飛び散っていく。
「ぶはぁ! いやはや参った、急には止まれんことを失念しておったわ」
モクモクと粉塵舞う中心地から出てきたのは、先程まで肉体を球体状にし、ゴロゴロと転がり回っていた彼であった。
大きく息を吐き出し、邪魔な瓦礫を乗り越え掻き分け、よっこいせと地面へ降り立てば、周囲を見渡す。
当然ながら辺りは彼の行為により、酷い有様と化していた。
そして当然ながら、自身が轢き殺した落ち武者や、押し潰した貞子の亡骸を見れば、随分と苦い表情を浮かべた。
「うぬぅ…よりによって白髪の童に先を越されたか。幾度か邪魔されたから、儂が仕留めたかったが」
死体を潰したところで、それが己の戦果になるとは到底言えやしない。
武人でもあるバーケライヒは、当然それを自身の戦果に加えることはなく、惜しそうにしながらも顎に指を添えて思考を切り替えた。
「……まぁ良い。あの女悪魔が死に晒そうと、まだ退魔師の童二人が残って___」
まだ気配は遠くまで行き過ぎてない、己の足ならば一分と掛からずに追い付けるだろう。
再度戦闘態勢に入り、仕切り直しをしようとした__その瞬間、彼の背後に黒い霧とも靄ともとれる物が唐突に立ち込めた。
それは徐々に拡がりを見せ、中から執事服に身を包んだ、青肌の悪魔が姿を現した。
「何の用じゃ、「ケパラト」。儂はぁまだ奴等で楽しみたいんだわい。邪魔をするでないわ」
背後に現れた悪魔の正体を知っているバーケライヒは、そちらを向くこともなく青肌の悪魔へと語り掛けた。
ケパラトと呼ばれた青肌の悪魔は、小さく肩を竦めてから口を開いた。
「そうはまいりません、マスタープラング。そろそろお時間です」
「時間じゃとお? 何の時間じゃ、申し開いてみぃ。そもそもに弟子であるお主が、師匠である儂の楽しみを邪魔立てするような真似事、許されると思うておるんかいのう…?」
バーケライヒは武人であり、戦いをこよなく愛し、楽しむ悪魔でもある。
そんな彼が楽しみを邪魔されようものなら、例えそれが己に教えを乞う弟子であっても許されることではない。
それ故に彼は、ケパラトと呼んだ悪魔に対して壮絶な威圧感を放ち、威嚇を行った。
これ以上踏み込むならば殺すぞ、と。
その威圧感は天降りらしく、並大抵の敵ならば足が竦み、簡単に失禁してしまう程のものである。
それを受ければ、いくら彼の弟子と言えど大体は口を噤む__のだが、ケパラトは特に動じた様子を見せることもなく、逆にケロリとした雰囲気で、それを受けていた。
「ふむ、では言い方を変えると致しましょう。夕餉のお時間です、マスター。帰りますよ」
ケパラトの言葉を聞いたバーケライヒは、そこで圧を放つのを止め、逆に成りが一回り小さくなった様子でケパラトを見やった。
「……帰らんと駄目かいのぅ…?」
「えぇ、駄目です。以降、食事抜きとなっても宜しいのであれば、止めは致しませんが。そも、今日の戦いも夕餉が出来上がるまで、という約束下でのものでしょう。まさか、事もあろうか、師匠であるあなたが約束事を反故する、だなんて…有り得ませんよね?」
「…………」
流石に旗色が悪い事を理解したバーケライヒは、ケパラトの言葉を小さくなりながら聞くのみとなっており、反論することもなく黙っていた。
燈浬と雨月との戦いは、退屈していた今日の中で、一番楽しかったのは勿論ながら言うまでもなく、心底名残惜しそうに気配のする方向をチラリと一瞥した。
だが、ずっとそちらを見ることもなく、踵を返せば、はふぅ…と一息吐いた。
「まぁ、良いわい。骨がありそうな、活きの良い退魔師を見付けれただけで、今回は収穫があったとするかいのう」
そう言葉を溢せば、見るものが見れば恐れ慄きそうな、歪みきった笑みを仮面の奥で浮かべ、ケパラトの生み出した黒い霧に包まれ、彼は戦線を静かに離脱した。
後に残ったのは、先の喧騒など何処かへと置き忘れたのではと錯覚するほどの静寂と、物言わぬ敗者達の躯であった……。
ここらで一端区切りとします。
多分次出すのは閑話になるかな…?いつに出すかは分かったもんじゃありませんが、それまでは暫しこっちはお休みということで、一つ。




