初日(2)
「さて、唐突だが貴様らには今から軽く組み合ってもらう」
__なんだって…?
集合をかけられ、退魔師に関する心得だとか悪魔に対する手段だとか云々を、うんたらかんたらクドクドと散々聞かされ、少し飽きが差していた頃合いに告げられる言葉。
あまりの突飛とも取れる発言に、まるで鈍器で頭を殴られたかのような衝撃が走る。
組み合う?つまり試合をするってことだろうか。いや、まぁ普通に考えればそれしかないのだが…。
流石に純粋な力比べ程度で神威は使用しな__
「因みに神威の使用は可とする。だが、使用する場合は加減をするように」
__いことも無いようだ…。
再び鈍器で頭を強く殴られたかのような衝撃が走る。
何を言っているんだ、教官殿は。
何処かの外人が机に腕を置いて言葉を放つ画像が浮かんだ。
それはそうと、神威を人に対して使う?正気なのだろうか。
いくら使う者に合わせて調整されているとは言え、元は神の技。人智及ばぬ力だ。
そんなとんでもな力を人に向けて使えばどうなるかなんて容易に想像できるだろう…。
何故こんな事に……なんて一人勝手に頭を抱えていれば、話はあれよあれよという間に進んでおり、教官が新人一人ひとりを指名しては誰と当てるかを決めていた。
せめて自身と同じように疑問やらを少しでも抱いてくれた、手加減してくれそうな相手が良いのだが……。
「へぇ?うちの相手はあんたか」
自身の前に立つのは槍を己の得物とした、赤い髪が印象的な少し勝ち気な女性だった。
身長はそれほど高くなく、年も18辺りと言ったところだろうか…。
「ふーーん…?随分と悪魔みたいな成りだねぇ…」
こちらの姿格好を奇妙そうにあちこちの視点から覗き込むように眺め始めてきた。
なんだろう…凄くこそばゆい感覚が見られた何処から広がってく感じがする。
特異な体をしているので、見られるのは多少の慣れはあったのだが……。
ある種の辱めではないのだろうか、これって…?
「ま、本物の悪魔とか見たことないんだけどね、アタシは!特に人型なんてねぇ!アッハハ!」
見るのに飽きたのか、それとも視覚から得られる情報には興味がなくなったのか、快活に笑いながらバシバシと右肩を叩かれる。
身体能力向上型の神威なのだろうか?見た目とは相反した力強さをしている。常人が食らったら肩外れるのではないだろうか……。
いや、にしてもホントに痛いな、さっきから?!
相手がようやく背を向け、スッと離れた隙に叩かれた部分をさする。絶対に赤くなっているだろう…見なくても分かる。
はぁ…なんて小さくため息をつきたいところだったが、目敏く見られて突っ掛かられても嫌なので心に留めておくまでにしておこう。
「まぁ、なんだって良いさ。あんたが悪魔だろうと人間だろうと。実力が見れればそれで。フフッ……よろしくさん…?」
言動から読み取るに、明らか手加減とかから程遠そうな人だと伺える。
それどころか戦闘マニアとかそっちの類を疑う言葉がチラホラと耳に届く。
__…あぁ、終わったかもしれない……。
何故初日に、仕事に就く前から死の覚悟をしなくてはならないのだろうか…。
自身の悲痛な思いとは裏腹に、女性はニィ…と不敵な笑みを浮かべ、槍をくるくると回しながら立ち位置へ向かっていった。
教官からの早くしないかと言う圧と視線に押し負け、他からの好奇の目に背中で痛く感じながら、私も後に続くように重い足取りで遠い目をしながら立ち位置へと向かうのだった。