始まりの朝
『本日は所により、雨が激しく降り注ぐ地域が___』
テレビから流れる、少し憂鬱になる天気予報を聞き流しながらコーヒーを飲み、ふぅ…と一息ついてから「ごちそうさまでした」と手を合わせて食事の挨拶を済ます。
手慣れた手付きで食器を纏めれば、台所へと持っていきそれらをちゃちゃっと片付けていく。
事前に仕事場へ向かう準備をしていたので、手早く手荷物を纏めて服を着込めば我が家を出る。
仕事、と言っても私のは一般的に想像されるサラリーマンや公務員などではない。
私の仕事は悪魔と呼ばれる生物を狩ることだ。
時は現代。生活水準も、人種も、機械も、技術も、何もかもが平成、ひいては令和まで全てが同じ日本。
ただ一つ、違う点があるとするならばこの日本には【悪魔】が蔓延っている事だろう。
この悪魔と呼ばれる生物は人の抱える負の感情、それがある一定値を超えると具現化される。
悪魔は人の恐怖、そして血肉を糧として強くなっていく。被害も多く、年間の死者・行方不明者は一万以上とされ、一種の災害と認知されていた。
悪魔を倒すにも並の兵器では歯が立たない。拳銃程度では弾かれるのが関の山だった。
そんな相手に対抗するには、人類は文字通り【神頼み】をするしかなかった。
日本の彼方此方に建てられた神社。そこに奉られる八百万の神々と契約を交わし、【神威】と呼ばれる力を授けられたその者達を人は【退魔師】と呼んだ。
退魔師に関して難しいことをつらつらと語ったが、要は不思議な力を持った、悪魔と呼ばれる生物専門の警察みたいなもの、と考えてもらえば良い。その方がきっと伝わりやすいだろう。多分。
因みに生物と例えたが、何も動物のみとは限らない。見たことはないが、人型や無機物まであるらしい。…生物なのに無機物はありなのだろうか…?
更に眉唾物でしかないが、そこらの山など優に超える国づくりの神級の巨人…化け物…?も居たのだとか。
少し脱線したので話を戻すが伊勢神宮、厳島神社、天満宮神社、伏見稲荷大社などの大きな神社は、知名度に比例して多くの退魔師が所属している。
その中でも、最も多くの退魔師が所属しているのが東京都江東区にある深川神宮である。
そして今日から私の所属する場所もまた、此処である。
現在住んでいる家から歩いて然程遠くない位置に、日の本一だとまるで豪語するかの如く広く敷地を有する深川神宮。
入り口に大きくそびえ立つ朱色の鳥居を潜り、中へと入ればまた一段と驚かされる。
退魔師の総本山とも言える場所ではあるが、この広さと敷地内の建物の多さは流石というべきか。
案内板が立ててあるとは言え、下手をすれば迷子になりそうだ。
あまりのスケールの大きさに圧倒されていたが、入り口付近というのもあり、人の往来も多い。
退魔師の総本山と言っても、一般客も出入りをしているので突っ立っていれば邪魔にもなる。
まぁ、私の周りには不思議と人は集まらない…いや、近付いてこないので、通行の妨げにはなっていないが…。
幸先から一抹の不安を抱える事になったが、気を持ち直して新人が集められている場所へと足を向けた。