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Episode.05 初めての戦い

 「た、大変だぁ!」

俺は犬モドキを目撃した事で大急ぎで屋敷に飛び込んだ。


騒々(そうぞう)しい、一体何よ?」

妖精の子はそんな俺を見て面倒臭そうに声をかけてくる。


「い、犬モドキが出たっ!」


「……犬モドキ?」

俺は以前遭遇したトラウマから彼女が理解できる様に説明するのを忘れ、慌てふためきながら叫び続けた。


「わっぷ」

そんな俺を見かねたのか、彼女は手から少量の水を噴射(ふんしゃ)して俺の顔面に浴びせた。


「落ち着いた?」


「……はい」

その結果、俺は冷静さを取り戻して彼女に外で起こった出来事を話した。


Episode.05 初めての戦い


「ふーん、瘴魔(しょうま)が現れたのね」

妖精の子は事態を把握した後も至って冷静に話を聞いている。


「ふーんって……そんな悠長(ゆうちょう)に話してる場合かっ! 早く逃げないと食い殺されるぞ!」

奴らの恐ろしさは俺が一番よく知っているので彼女に逃げようと提案する。


「大丈夫よ、安心なさい」

しかし、彼女は余裕な表情を浮かべて次の言葉を言い放った。


「この屋敷には強力な結界が張ってあるから、その辺の雑魚な瘴魔なら近づく事すら出来ないわ」

それは俺が安心するのに充分すぎる程の言葉だった。


「おぉ、ならあんs」

安心だ、そう言い終わる前に屋敷の扉が轟音と共に吹き飛んで室内に四頭の瘴魔が入り込んできた。


「駄目じゃねぇかっ!」


「嘘、何で……?」

その状況に困惑してる間に瘴魔は瞬く間に俺達を取り囲んだ。


「それにこいつらは……」

彼女は何かを悟った様にその言葉を口にする。


「おい、どうするんだ?」

次にどう行動するべきか訪ねるが、彼女は何も答えない。


「……あんたは逃げなさい」

ようやく口を開き、彼女が出した答えは俺だけ逃がすというものだった。


「え?」 

俺には自分だけ逃げるという発想がなかったので思わず彼女に聞き返す。


「だから、あんたは逃げろって言ってるのよ」


「い、いやいや、お前は?」

彼女のその返答に俺は当然の疑問を投げかける。


「あたしにはルドルフにこの屋敷を任された責任がある」


「ルドルフさんは死んでまで屋敷を守れなんて言わねぇよ!」

しかし、俺のその返答に耳を貸す事はなく彼女は目の前の瘴魔と対峙する。


「いいから行きなさいっ!」

その言葉を皮切りに室内に入り込んだ内の一頭が彼女に襲いかかった。


正直、彼女に言われた通り俺が一人で森に逃げても同じ様な化け物に襲われて死ぬだけと考えてしまう。


「っ!」

ただ目の前で苦戦を強いられている彼女を見ているとここに残っても殺されるのは明白だ。


だから、彼女は俺に少しでも生き延びる可能性がある一人で逃げるという選択を選ばせようとしている。


悩んだ末、俺は結論を出した。


「……ごめん」

俺が出した答え、それは彼女に言われた通り一人で逃げるというものだ。


「謝ってる暇があったら早く逃げなさいっ!」

これが彼女との最後の会話になるかもしれない、そう感じながら俺は裏口から屋敷を飛び出した。


「ちきしょーっ!」

自分の非力さを呪いながら俺は全速力で森の中を駆け抜ける。


俺にもっと力があれば彼女の役に立てたかもしれない。


でも、現実は残酷で俺があの場に残っても足手まといになるだけだろう。


だから、この選択は仕方ないのだ。


彼女を見捨てる事は仕方ない事なんだ、そう言い聞かせて俺は(なお)も走り続ける。


――お前はそういう奴だよな


不意にその言葉が心の中で(ささや)かれる。


記憶を失っている俺にとってその言葉は意味があるとは思えない。


でも、その言葉は全力で走る俺の足を止めさせた。


失われた記憶の中でも(かす)かに残る断片(だんぺん)、思い出したくない嫌な記憶だと感覚が訴えかけてくる。


そして、俺はその言葉を言われない為に努力をしていた事を思い出した。


いいのか?


その言葉を言われる様な人間のままで本当に?


「…………」

足を止め、俺は再び考え始める。


「何であの瘴魔は屋敷を襲撃した?」

そう、そこが気になっていた。


ルドルフさんの話ではあの屋敷は随分(ずいぶん)前に建てられている。


そこから俺が居候(いそうろう)するまでの間、妖精の子は問題なく留守番をこなしてきたはずだ。


なのに、今になって屋敷は襲撃された。


過去と現在の違い、それは……


「……俺だ」

ルドルフさんがあの時に俺を助ける為に瘴魔を殺し、奴らの恨みを買ったのだ。


本来その恨みをぶつける相手は俺だ、決して彼女ではない。


このまま彼女を見殺しにするという事は、自分のせいで彼女が死ぬという事だ。


「くそっ!」

正直に言うと俺は死にたくない、逃げれば助かるのだからそうすればいい。


でも、同時に自分のせいで人が死んだという事実を抱えて生きていけるほど俺の心は強くないと自覚している。


「……戻ろう」

それが分かってしまった今、俺に逃げるという選択はなくなった。


俺は来た道をゆっくりと引き返し、屋敷に戻った時にどうすれば自分が役に立てるのかを考える。


まずは武器を手に入れないと始まらない、俺は薪割(まきわ)りで使用している斧の事を思い出した。


そして、少しでも生き延びる為に考えた作戦、それは屋敷の奥の部屋に立て()もるというものだ。


それに(てき)しているのは本棚が沢山並んでいる書斎(しょさい)の様な部屋だろう。


屋敷の前まで戻り、斧を手にしながら何度もさっき考えた作戦をシュミレートする。


失敗すれば死に成功すれば少しの間は生き延びられるかもしれない。


少なくとも彼女が俺より先に死ぬ事は防げるはずだ。


俺は覚悟を決めて屋敷に乗り込んだ。


屋敷の中は激しい戦闘があったのか、荒れ果てている。


俺はその中を一歩ずつ進み、音のする居間へと向かう。


辿り着くとそこには妖精の子と二頭の瘴魔が戦っていた。


既に四頭いた瘴魔は彼女によって二頭まで減らされている。


これなら助かるかもしれない、そんな希望が自分の中で生まれた。


俺は気配を消して近づき、奇襲(きしゅう)をしかける事で一頭を始末しようと考えた。


「はぁ……はぁ……」

しかし、彼女は既に疲労困憊(ひろうこんぱい)で戦闘を続けられる状態ではなかった。


そんな彼女に止めを刺す為、一頭の瘴魔が飛び掛かる。


「しまっ――」

それを言い終える前に瘴魔の牙が彼女に迫る。


俺は行動するなら今しかないと判断し、全力で駆けて斧を振り下ろした。


「!?」

俺の介入により、彼女と瘴魔が同時に驚きの表情を見せる。


でも、もう遅く俺の一撃は瘴魔に直撃した。


これで一頭処理できた、そう確信したがそれは間違いだった。


確かに俺の一撃は瘴魔に命中した。


だが、それは口で受け止められ白刃取りの要領(ようりょう)で防がれてしまったのだ。


「う、嘘だろ」

その結果に俺は絶望し、動きを止める。


その瞬間、斧を(くわ)えた瘴魔は頭を激しく動かして俺の手から斧を奪い取った。


そして、それをぺっと吐き出して(はる)か後方へと放ってしまった。


一瞬にして俺は武器を失ってしまったのである。


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