お別れしました
嘘つきで卑怯な幽霊と。マジメ看護師の、恋にならずに終わったお話。
「俺さ。生前は完全夜型庶民だったって話。前にしたよね」
彼の話はそうして始まった。
「何でこんな覚えてんだか不思議だけど。例えるなら…醒めない明晰夢ん中ずっといる感じで。永眠前のこと感じんの。…俺は人嫌いで。昼間は死んだ魚みたいな眼ぇして働いて。まぁ今ほどじゃないけど、昼間は幽霊。衣食住も帰宅後の僅かな時間に全振りで。食事は、片手で摂れるもん中心で他は度外視。服も、動き易けりゃ毛玉だらけでも別に。ネット環境充実できたらどんな箱にだって住んだ」
荒んでるなぁ。でも、自分でした取捨選択の結果でしょ。なんで話してる佐々君の顔がずっと仄暗いのが気になるんだろ私。
「転職とか。考えなかったわけじゃないけど、どうでもよかったのと。『なんで俺が辞めなきゃいかんの』的な気持ちもあってさ。学校で言うと、いじめられた側が不登校になっても何の救済措置もないのと同じで、あんま職歴が点々としてても、採用側に敬遠されるだけって分かり切ってて。俺が辞めたらあいつ清々すんだろな。俺の代わりもアッサリ見つかるんだろ?とか思うと謎の意地が…」
続いて、佐々君は「ナナの裏も見たからさ、もう言うわ」と囁いた。
「俺さ。なんでここかは謎だけど。なんでまだあの世に往ってないかは解んのょ」
「…えっ?」
声に出ていた。そんな私に佐々君は力なく笑う。
「うん。往きがけに、変な奴に賭けを持ち掛けられたんだ。1種のゲームだな」
変な感じだ。夢の中みたいにふわふわしてる。嫌だ。こんなタイミングで酔いが回るなんて。
「多分そのステージが、ココだったんだろ。…ごめん。ナナ」
「じょうけん…」
ろれつが変だ。子どもみたいな喋り方。でもこれでしか今は喋れない。
「しょうり じょうけん…ルート…ENDは?」
もう目が開けてられない。クスクスと笑う声が聞こえる。
「ぁ。ナナ実況観る人だっけ。…条件は教えない。多分マルチENDかな。俺が進んでるのは、たぶん裏道」
「かて そ?」
「それも秘密。…あぁでも、ナナにそう言われると、困るなぁ。だってコレを感知されたら終わりだし」
「ぅ?」
「こっちの話。もう寝な…ぃよいっしょぅ!」
ふわりと何かが身体にかかる。あったかい。
「おやすみ。ナナ」
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目を覚ましたら、夜だった。久々の連休で良かった。Bossの「明日は大丈夫だから来なくていいよ」がありがたく感じたのは、珍しい。
机の上のスマホで時刻を確認しようとすると、ポップが変だ。慌ててロックを外したら、見覚えのないアカウントのつぶやきサイトの通知画面が前面に出ていた。
一番上は、『ご利用のアカウントに新しい端末からログインがありました。ご確認下さい』というシステムアラート。詳細を開いてみると、私の仕事用PCからのもののようだった。
何となく通知の1番上のDM画面へ飛ぶ。
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うつの めっちゃ きりょく いるから。かなでごめん。
ほけん。おれ あした いないかもだから。
ななの うらを ききだした おわびに せめて おれのも みせる
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途中で、《てか念写できるわ俺。ポチポチ意味なかったぁ。…ならこっからちょぃペースアップ》と書いてあって、以下が怒涛の書き込みになった。
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無味乾燥に生きて、たまたま死んだ俺に、出された条件。
それは、『何でも良いから現世に未練を』てので。
それを充たさなきゃ、即 転生だって。
俺はもう生きたくなくて。
俺にとっての勝ち筋は2つ。
賭けに勝ち、天国とやらの永存権を得る代償に自我を消去されること。
もしくは、地縛霊になって自我を消失すること。
俺、せっせと地縛霊ルートを頑張ってたのに。
この部屋に入居者が来なければ。そいつが嫌な奴なら。俺をウザがって避けてくれれば。どうにかなると思ったのになぁ。女だったから余計、チャンスって思ったのに。嫌がらせる自信、有ったのになぁ。
キャラメイクうまいんだよ俺。外見も内面も作り込んでさ。口調とか?なのに。
なんでダメだったんかなぁ。
さて。最後に。俺の一番好きな数字は何でしょう。ヒントは原罪の数と福を齎す神様の数に共通するもの。俺、裏垢も持ってて。そこのパスはこの垢の数字を変えればOK。
無断でごめんだけど、ブラウザにPassは登録してある。犯罪だけど。被疑者死亡だから諦めて。
俺の実存が知りたい場合は、そっちをどうぞ。興味なければ忘れて。
ごめんな。ありがとな。ナナ。
押し付けるよで悪いけど、この後でスマホもちょっと触る。
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「知るか。ばか。明日の朝、居たら、とっちめるから」
翌朝の私がどうなったのか。そして、私は佐々君の裏を覗いたのかどうか?
それはまた、別の、話。そのために
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