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Lunatic tears _REBELLION  作者: AYA
act1 Sunlight Girl Moonlight Boy
42/57

4-5 Will Of Mastermind

 河月湖畔のペンション、ユノディエールの宿泊リストを最後に埋めた、東京からの来客が着いたのは18時半頃だった。その数分後にポトフがメインのディナータイムが始まったが、弥陀ヶ原はあくまで出張のビジネスマンを装い、流雫も他の宿泊客と同等に接した。

 ディナータイムが終わると、弥陀ヶ原は先にバスルームへ向かい、それから他の宿泊客に見つからないように流雫の部屋に入った。後片付けを終えたばかりの部屋の主は、コーヒーを淹れて待っていた。

「……詳しいことは明日以降だが、君があのトンネルで見たものは……思ったより大事になるぞ」

と弥陀ヶ原は切り出した。流雫は思わず

「え……?」

と声を上げる。

 「弾倉だけじゃない、違法銃も有った。それも箱単位でだ。この前の強制捜査でも、その在処を探していたが見つからなかった。まさかトンネルに隠していたとは……」

「……山梨の警察の捜索が、甘かった……甘くした?」

流雫は、今思ったことをストレートに言う。

「何故そう言い切れる?」

「弥陀ヶ原さんや室堂さんなら……近くの封鎖されたトンネルは怪しむと思う。でも、そうしなかった……」

「……連中の、捜査への介入と言いたいのか?」

と問うた弥陀ヶ原が鋭い目を向けた相手は、それに臆すること無く頷いた。

 「……もしそうしてるなら、今日の捜索結果ですら問題無しか、無かったことにされる……」

「でも、そうはならない。君が入口で拾った弾倉が、証拠になる。念のため、全角度の写真は撮ってある」

と、流雫の言葉に被せた弥陀ヶ原は、スマートフォンに入っている写真を見せて続けた。

「……銃メーカーの正規の予備品ではなさそうだ。細かな部分で粗っぽさが見える。恐らくは国内で密造したか……」

 弾倉の本体は金属で、それは金型を製作した上で鋳造すれば済む。それなりの設備が有れば難しいことは無い。

「明日、室堂さんも河月入りすることになった。その時にまた、話をすることになるだろうが……」

と言った弥陀ヶ原は

「……心臓に悪いことだけはするな?俺たちが心配する」

とだけ言って部屋を出た。

 ……褒められないことをしている、それは自覚している。ただ、白状すればこうなるとは思っていなかった。まあ、今此処でああだこうだと思ったところで、どうしようもない。

 1人、今日見たことを記録しようとノートを開いた流雫のスマートフォンが鳴った。澪からだ。

「流雫!無茶し過ぎ!」

恋人の最初の一言は、しかし尤もだと思った。

「何事も無かったからよかったけど……!」

と言った少女は溜め息をつく。

 ……弥陀ヶ原経由で、父から流雫のことは聞いていた。無事だから安心はしたが、しかし好奇心だけで渦中の、それも自分も狙われかねない危険地帯に立ち入って、そして狙われて……。

 これでもし、流雫が怪我でもしていれば澪はキレていただろう。病院に行くほどでもないとしても、泣きながら怒鳴っているに違いない。

「……それは明日ね。明日、父に同行することになったから」

と澪は言った。遊びではないが、3週間ぶりに会えることへの期待を滲ませている。尤も、同行すると言ったのは澪の我が侭が発端だったのだが。

「……あたしを心配させた罪で、あたしと一緒の刑。なんてね」

と言って戯けた澪に

「覚悟してるよ」

と返した流雫も、しかし楽しみではあった。澪と一緒の刑なら、終身刑を望みたいと思えるほどに。


 翌朝、宿泊客にガレットを振る舞った流雫は、チェックアウトが終わった部屋の掃除をしながら、室堂父娘を待っていた。一旦河月署に寄って、それから来るらしい。

 弥陀ヶ原は鐘釣夫妻に頭を下げたが、それは共用リビングを取調室として使うからだった。夫妻も流雫が世話になっているからと好意的だった。

 そのうち、インターフォンが鳴った。中年の刑事と女子高生が入ってくる。

「流雫」

と呼んだ澪の表情は安堵に包まれていた。無事だとその目で確かめることができたからか。

 夫妻は4人にアイスコーヒーを出し、客室の掃除の残りを始めた。リビングには4人しかいない。

 常願が河月署に寄ったのは、昨日の家宅捜索に絡む資料を手に入れようとしたからだった。弥陀ヶ原は、流雫が’河月署から出るのを見送った後で家宅捜索に同行した。一悶着は有ったが、割とスムーズに捜索が進んだが、箱詰めの違法銃と弾倉と銃弾、それだけでなく劇物まで置かれてあった。そして、奥には1台のSUVも発見されている。

 「想像以上に大漁でしたよ、よく隠していたものだ」

と弥陀ヶ原が言うと、常願は

「問題は銃の出処だ。何処で密造されているのか」

と続く。

 日本に出回る銃には、メーカーや型式がスライドに刻まれている。流雫や澪が自分のものを示すステッカーを貼っているが、それはその表記を避けている。しかし、違法銃にはそれが無い。

「ただ、その件に関してはエムレイドの連中も動いている。山梨県警はいい顔をしないがな」

と常願は言った。

 昨日流雫も読んでいた、捜査への圧力。その懸念が有ったベテラン刑事は、河月署に同僚を送っていた。

 幸い、エムレイドと呼ばれるテロ捜査課は、トーキョーゲートの解明を機に士気が高く、捜査への圧力にも噛み付く連中ばかりだ。その士気も、元はと云えばその中心となる刑事の娘とその恋人に触発されたからだが。

「あの高校生に頼らざるを得ないのは、エムレイドのプライドに関わる。だから我々が必ず解明する」

と。今頃、河月署では不協和音が奏でられているだろう。

 澪は、恋人の隣で話を聞きながら、一つの疑問が浮かんだ。

「……SUV……」

澪の呟きに、父が真っ先に反応する。

「どうした?」

「確か、幹事長暗殺の時……」

と澪は言った。

 国会議事堂に乗り付けたのは、ライセンスプレートを外された外国製のSUVだった。黒いSUVなど無数に出回っているが、わざわざ隠す必要が有るのか。

「……おいおい、まさか……」

そう言った父に

「暗殺の時に使ったSUVだとすれば……」

と被せた澪に、弥陀ヶ原が問う。

「でもそれだけで隠すか?プレートを外していたなら、取り付ければいいだけだろ?盗難車なら別だが、あれは一度登録抹消された、シロの車だった」

それは尤もだが、流雫は其処に食い付いた。

 「……それ以外でも使う目的が有った……?昨日僕を追ってきたワンボックスもそう、単なる業務用としての役割、それ以外に大きな役目が有るとすれば……」

「武器を運ぶ、実行犯を乗せるためか?」

と問う弥陀ヶ原に、流雫は頷いた。

 「……違法銃を使って、実行犯を駒として送り込む。それが正しいとして、今度の目的は何だと思う?」

と、常願は問う。

「……もう太陽騎士団の仕業は通じない……」

と口を挟む澪に、流雫は被せた。

「そもそも、もう武力行使に出る必要は無いハズ」

「必要が無い?」

「サイレント・インベージョンは成功したから……」

「どう云う意味だ?」

と、常願はシルバーヘアの少年に更に問う。

 「警察に圧力を掛けられるだけの地位も得たし、太陽騎士団の地位も没落した」

「だからもう、何もしなくていいってこと?」

と問うた澪に、流雫は頷いて答えた。

「後は、何か大きな問題でメディアの関心を逸らして、全てを有耶無耶にすることで乗り切る……」

それは、恐らくレンヌの2人も思っているだろう。

 「それは尤もな話だが……」

と常願は言った。しかし、腑に落ちないことが有る。その問いをぶつけたのはその娘だった。

「じゃあ、どうしてフランスに手を出したの?」


 澪の言葉に、流雫は固まった。

 ……そうだ。国内を牛耳るだけでいいのなら、太陽騎士団と血の旅団、それぞれの本部を狙う理由が無い。

「日本での出来事に対して、干渉するなと云う牽制だったとしても、テロだなんて……」

と澪は言う。その声には、静かに……しかし確かに怒りが宿っている。

 その答えは、流雫には見つけられない。普通の高校生に見つけられるハズも無いのが普通なのだが。

 唇を噛みながら、コーヒーに手を付ける少年の隣で、

「ところで、教団の代表は誰なの?」

と澪は父に問う。

「唐津学。井上の元秘書だ」


 かつて収賄容疑で逮捕された、井上の元公設秘書で今年50歳。収賄そのものも、本人は否定しているが井上のために罪をったと言われている。

 釈放後、井上の指示で旭鷲教会の代表になり、同時に旭鷲会の代表にも就任した。その立場から、あの伊万里でさえも年下ながら頭が上がらなかった。

 「教会では炎鷲と名乗っているが、この唐津はOFAの代表も兼任している。そして幹部と云えど絶対服従だ」

「じゃあ、もし戦争を起こせ、テロを仕掛けろと言えばそれだけで……」

と父に続いた娘は、背筋が凍り付く感覚に襲われる。

 「ああ。そうなるな。しかし……」

「トンネルで発見した違法銃が多い」

と弥陀ヶ原が先輩に続く。流雫はふと、一つの言葉が浮かんだ。フランスでのことを一度忘れて、日本にだけ目を向ければ……。

「……私設軍隊……?」

「何?」

と反応した弥陀ヶ原は、シルバーヘアの少年に目を向ける。同時にその先輩刑事が目を見開き、言った。

「30年前のアレか……」


 30年前、日本を震撼させた宗教団体が有った。教組の指示の元、教団に逆らう者を魂の救済と称して殺害し、地下鉄の車内に毒ガスを散布した。

 そして、武力攻撃で日本を乗っ取り、やがて世界の王に君臨すると言って、軍用ヘリまで密輸していた。何処かの低俗SF映画のようだが、百科事典サイトにも事細かに載っている。

 室堂常願が警察官を、欅平千寿が宗教学者を志すようになった全ての始まりが、あのカルト教団だった。

「事実上、旭鷲教会の関係者が国を牛耳ってる。でも、国のトップは違う」

と流雫が言うと、ベテラン刑事は問う。

「まさか、日本転覆の末に自分が頂点に立つと思ってるんじゃないだろうな?」

「……自分の身を護るためなら、SPのような護衛だけで十分のハズ。違法銃も持つ必要が無い」

 「その領域を逸脱してる、それって……」

と、恋人に続いた澪の言葉を遮るように、常願のスマートフォンが鳴った。ベテラン刑事は数十秒だけ相手と話した後、リビングのテレビを点けるよう流雫に頼む。

 そのタイミングで始まったのは、東京での会見だった。黒いスーツを着た中年の男が真ん中に座り、眼鏡の位置を調整している。

「旭鷲教会の総司祭、炎鷲が今回の騒動について説明します」

その自己紹介から、炎鷲もとい唐津学の会見が始まった。


 AF通信社によって旭鷲教会の地位を貶められ、それについては政府同様同社を告訴している。その上で、出鱈目な記事を元に強制捜査を行った警察に対して、公正な捜査と信仰の自由を遵守するよう厳重抗議を行う。

 違法銃に関しては教会側では把握していない。

 フランスのテロには一切関与しない。あれは太陽騎士団と血の旅団が結託した偽旗作戦だ。先日の渋谷の件も同じだ。

 我々は日本を愛し、日本の国益を最優先する宗教として、国の安寧を脅かす邪教に断固として立ち向かう。


 「……教祖や代表って、喋りが上手なら、誰にでも務まるものなの?」

と澪は言い、コーヒーを啜った。時々、この少女は自然と毒を吐く。

「言葉で相手を洗脳できれば勝ち、みたいなものだからな」

と、その父は言って、流雫に顔を向ける。その少年は、眉間に皺を寄せたまま画面に釘付けになっていた。澪はその名を呼ぶ。

「……流雫?」

 「……アルスが見ると、キレるだろうな……」

とだけ言った流雫は、溜め息をついて漸く画面から目を逸らした。

 キレると云うか、呆れながら流雫に愚痴をぶつけるだろう。数時間後には、それが現実のものになる……。流雫はそう覚悟しながら言った。

「それでも、この会見を鵜呑みにする連中もいる。そして僕もターゲットにされる……あの渋谷の時のように」

その言葉に、澪は反射的に

「流雫が狙われるなんて……やだ」

「……あたしが絶対、護ってみせる」

と続けた。

 ……あたしが死なないこと、何より流雫を殺されないこと。それは、あたしと流雫のためだし、何より……あの日交わした約束のためだった。


 午後、刑事2人は河月署へ向かった。澪の迎えは夕方。それまで、高校生2人は流雫の部屋にいた。思った通り、アルスから連絡が来た。

「あの会見は何だ?」

と切り出された流雫は

「或る意味思った通りだったけど……」

と返すのが精一杯だった。

 「フランス当局は既に、今月頭のテロは旭鷲教会の仕業だと断定した。そろそろAF通信のサイトに出るだろう」

とアルスは言う。

 ……日本の主要ポータルサイトのニュース項目から、AF通信社の記事が軒並み削除されていた。表向きは報道におけるコンプライアンスの問題だが、一企業の契約にまで関係筋が圧力を掛けているとしか思えない。

「……ここまでやるってことは、全て真実か」

そう続けたアルスは、露骨に溜め息をついた。真実だからこそ、形振り構わず隠さなければならない。

 「政府にとって有害な情報を全て遮断して、デマだと言って保身に走る……バカ過ぎる。海外から外堀を埋められてるのに」

「内政干渉。そう言って乗り切りたいんだよ」

「それか、何らかの事件を起こして、社会の関心を逸らすか」

「……スケープゴートとして、何を起こす気だ?」

「それは判らないけど……」

とだけ言った流雫は、しかし何が起きても不思議ではないことを覚悟していた。澪が遭遇した、秋葉原駅前の青酸ガス散布事件のような……。

 「……お前に被害が無いといいけどな」

と眉間にしわを寄せて言った。顔は判らなくても声だけで、何を言いたいのか流雫には判る。

 「心配なのは、僕よりもアルスとアリシアだよ」

と云った流雫に、アルスは問うた。

「どう云う意味だ?」

「……一部の連中は、フランスそのものを目の敵にするだろうから」

 「バカか」

と、日本にいる少年を一蹴したアルスは

「日本にいるのはお前だ。狙われるとするなら俺たちじゃない」

と続ける。

「でも、アリシアは……記事の出処として……」

「当局が動いてる。心配しなくていい」

その言葉に、流雫は安堵の溜め息をつく。

 ……ルナはバカだ。この期に及んで、自分自身よりも俺やアリシアを気に掛けている。時々、優しさが変なベクトルを向くが、自分が標的にされる現実から逃避したいのだろうか。いや、ルナのことだ、それは無いだろう、しかし。

「今は自分のことだけを気に懸けろ。お前が死ねば何にもならないからな」

「判ってるよ」

とだけ、強い口調で諭したアルスに流雫は答えた。それに安堵したアルスは問うた。

「ところで、今日からツール・ド・フランスだ。誰が勝つと思う?」

「ツール、今日からだったか。当然フランス勢……と言いたいけど、あのUKのチームから出るんじゃない?」

と答える流雫の声は、普段通りに戻っていた。祖国フランスで行われる世界最大の自転車ロードレースは、2人揃って楽しみだったからだ。

 ……こうやって、どうでもいいことを言っているだけでよくなる日々は、未だ遠いらしい。それでも今の混乱の先に必ず訪れる。そう思うことで、流雫は恐怖さえ振り切れる。

 相変わらず本人は気付いていないが、それこそが流雫の強さの一つだ。


 自分には判らない言葉で通話する、最愛の少年の表情で、今彼が何を思っているか、澪には何となく判る。

 通話を終えた流雫に、澪は問う。

「アルス、何て言ってたの?」

「あの会見に相当呆れてる、とさ」

と答えて、流雫は少し薄くなったアイスコーヒーを口にする。

 「……スケープゴートとして何か事件が起きるんじゃないか……僕もアルスもそう思ってる」

その言葉に、澪はアイスティーを飲んでいた顔を流雫に向けた。

「事件って……」

その言葉の後で、思わず俯いた澪の脳に、あの秋葉原での騒ぎが蘇る。

「……今の日本なら、何が起きても不思議じゃない。ただ、僕は澪が無事なら……」

と言った。流雫も流雫で、トーキョーアタックを思い出していた。自分も空港で遭遇した、あの怒りと悲しみに支配された1日の出来事を。

 何度も願っては裏切られてきたから、二度と何も起きないままであってほしい、と云う願いは諦めた。今はせめて、澪と僕が遭遇しなければ、それだけでいい……そうハードルを下げるしか無い。それさえ叶うとは思っていないが。


 あと20分ほどで迎えが来る。2人が共用リビングに下りると、最初のチェックイン客がテレビを観ていた。ニュースの時間だったが、特集として組まれていたのは今月半ばに迫った選挙だった。

「……参議院選挙……?」

澪がテロップを読んだ瞬間、流雫は心臓の鼓動が一際大きく、早くなるのを感じた。

 「澪」

と呼び、その手を引っ張って部屋へと連れ戻した。

「流雫!?」

突然のことに慌てる澪を部屋に入れるとドアを閉める。

「……何なの一体……!?」

「人がいるから言えなかったけど、選挙で事件が起きたとしても……」

 フランス発の報道は、候補者にとってはあまりにも有害。そのインパクトを吹き飛ばすには、スケープゴートとしての役割を果たすだけの大きな事件しか無い。

「まさか、政治家の暗殺じゃないよね?」

と問うた澪は、しかし平静を装うのに必死だった。

 その言葉に流雫は、

「……全てに可能性が有るとしか言えなくて」

と返すのが精一杯だった。

「何も起きないよ」

と言いたいが、言えない。

 その暗い雰囲気を掻き消すように、澪のスマートフォンに通知が入った。送信元は父親だった。

「……行かなきゃ」

と言った澪の声が、寂しそうに聞こえた流雫は

「……気を付けなよ」

と言った。澪は耳に

「ありがと。また……」

と囁く。その近さ、不意打ちに顔を紅くする流雫。

 「何時もあたしを撃沈するから、仕返し!」

とだけ言って、意地悪な笑みを浮かべて先に部屋を出た澪。その背中を追いながら流雫は、悪戯の裏に抱える不安と恐怖を必死に押し殺しているのを見た。


 東京へと戻る車の後部座席、イヤフォンで刑事2人の声を遮断する澪。フォトアルバムのアプリを開き、画面に映したのは首都タワーでのセルフィーだった。

 写っているのは澪、詩応、アルス、そして流雫。出逢うこと無かったハズの4人が、禍々しい事件を機に知り合い、それぞれ仲よくなった

 この世界から、誰1人欠けてはいけない。あたしだけじゃない、他の誰かが悲しむのが、耐えられない……。

「……あたしは……死なない……何が有っても」

そう無意識に呟いた言葉は、前に座る2人の刑事には聞こえていた。

 弥陀ヶ原はアクセルを強く踏む。折角の休日を、恋人と会えるとは云え遊びでない用事で潰されたのだから、少しでも早く解放してやりたかった。

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