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Lunatic tears _REBELLION  作者: AYA
act1 Sunlight Girl Moonlight Boy
20/57

2-5 Redemptive Unity

 今日から4月。明後日の朝にレンヌを発つ。明日は家族と過ごす日だから、自由な時間は今日が最後だ。

 両親が出勤して数分後、流雫は家を出た。白いロードバイクに跨がると、数日前の事件現場に向かった。少し雲は有るが、晴れている。

 ……アルスが、流雫に会いたいとメッセージを送ったのは4日前のこと。全壊した教会の前が指定された待ち合わせ場所だったのは、今回の話題がそう云うことだからだ。

 その近くまで着くと

「ルナ!」

とブロンドヘアの少年が呼んだ。シルバーヘアとオッドアイの瞳で判るのか。

 流雫が彼の隣で自転車を止めると、アルスは親指で教会を指した。

 2階建ての建物の周囲にはビニールシートが張られ、中を見ることはできない。しかし、何故こう云う事態に……。

「……この前別れた後に有った血の旅団の集会でも、実行犯の炙り出しが有った。誰もが無実を貫き、誰が犯人かは判らないままだったが」

と言ったアルスに、流雫は

「……そもそも、血の旅団の仕業なのか……」

と返す。その言葉に、アルスは

「……何?」

と、オッドアイを見据える。……何を言い出すかと思えば。

 太陽騎士団をフランスで敵視しているのは、血の旅団だけだ。中東の宗教団体も時々テロを起こすが、あの連中が今まで太陽騎士団を狙ったことは無い。だからと未来永劫狙われない、と云う保証は何処にも無いのだが。

「……例えば、旭鷲教会。日本からやってきて……」

流雫の声に、アルスは

「妄想だ」

と一蹴を被せた。

「わざわざフランスでやる理由が無いだろう?」

「……それもそうか」

と言った流雫。……太陽騎士団を狙った事件は、全て旭鷲教会の仕業だと思っているのか。

 血の旅団が活動できないから、旭鷲教会が活動しているようなものだ。わざわざフランスまでやって来る理由が無い。ただ、それほどあの教団が憎いのか。

 軽く溜め息をついたブロンドヘアの少年は、昨夜の集会で耳にしたばかりの情報をシルバーヘアの少年に打ち明ける。

 「……教団の方針として、旭鷲教会とは……絶縁する方向らしい」

 「……え?」

その言葉に、シルバーヘアの少年は頭を殴られた気がした。

 蜜月とは云わなくても、血の旅団をベースに旭鷲教会が設立された経緯から、割と関係はよかったハズでは……?

「……連中は今年に入って、既に何回も太陽騎士団を狙っている。これ以上目立たれると、血の旅団との関係も知られることになる。そうなると、昔なら別として今の教団には不都合だからな」

とアルスは言った。それに流雫は

「昔はよかった、今は不都合。……悪い言い方をすれば身勝手……」

と返すが、フランス人の少年はすぐさま

「時代が変わった」

と被せる。

 「宗教の根幹が変わっては、宗教でなくなる。しかし、何時だって宗教を生み出すのは人間や社会だ。枝葉の部分は、時代に合わせて変えるしかない」

「ノエル・ド・アンフェルを引き起こした連中に属する身で言うのも何だが、今はあの頃とは違う。その方針転換も、時代の流れだ。あのパンデミックが全てを変えたのは、この前話した通りだ」

と続けたアルスは、

「今日が、俺とフランスで会える最後なんだろ?……何か気になる事が有るなら、気が済むまで答えてやるよ」

と言った。日本で入らない情報が手に入る……その期待から、流雫は頷いた。


 大きめの紙コップに注がれた熱いラテを片手に、2人はこの前と同じブルターニュ橋の上に立つ。

「……旭鷲教会が血の旅団から見ても厄介なのは、政治団体が母体だからだ。そして、旭鷲会と云うのは所謂極右。トーキョーアタック……だっけか、東京で起きたテロ」

「うん。トーキョーアタックだね」

と流雫が答えると

「あれも、極右の政治家が仕組んだことだったんだろ?」

とフランス人は問う。頭にかつての恋人とその父が浮かんだ流雫は

「……うん」

と答える。今でも、トーキョーアタックで死んだ恋人の父親が、旭鷲教会に一枚噛んでいた事実を、何処かで否定したがっていた。

「……トーキョーアタックだけじゃない。トーキョーゲートだって……」

そう続けたシルバーヘアの少年は、この1年自分が遭遇してきた事件を思い出した。

 ……美桜や大町だけじゃない。不法入国だと判っていながら今よりマシな生活を夢見て流れ着いた挙げ句、捨て駒として実行犯に仕立て上げられた難民も被害者だった。

 結局、誰も幸せにならなかった。今でも後味は最悪でしかない。

「OFAと言ったっけか、あの政治家が関与していたNPOは。旭鷲会と同じ臭いがする」

と、アルスは言って空を見上げた。何時しか薄い雲が空を覆っている。ただ、幸い雨は降りそうにない。

 「……過激派で、武力行為も辞さないから?」

そう問うた流雫に、彼は

「ああ」

と頷いた。

「その臭いが薄ければいいが……」

その言葉に、流雫はその通りだと思いたかった。そう云う願いは、得てして叶わないものだが。

 「……だが、気になることがもう一つ」

そう言ったアルスを見る、アンバーとライトブルーのオッドアイ。

「……何?」

「……旭鷲教会の情報、日本で入手できなかったのか?日本の宗教なのに?」

不可解だ、と言わんばかりのトーンでアルスは問うた。頷いた流雫は

「サーチエンジンでも教会のサイトぐらいしか引っ掛からなかったし、関連する本だって日本じゃ……」

と答える。

 ……だから、レンヌの図書館で初めて知った情報も少なくない。尤も、教会のサイトにアクセスしたことは無く、検索結果の一覧でその存在を知っただけだが。

 「……VPN、通してみるか?」

とアルスは言った。

 特定の国からのアクセスが遮断される場合、プロキシを設定して簡単に言えば別の国のサーバーを介する方法が有る。ただ、もっと安全で手っ取り早い方法として、VPNと云うものを設定する。フリーWi-Fiを使う際にセキュリティ面で重宝するのだが、接続する時に任意の国のサーバを経由する設定ができる。

 ……その手が有った。何故もっと早く気付かなかったのか、そう思った流雫はセキュリティアプリのVPN設定を開き、地域をフランスに設定する。これで、フランス国内からのアクセスを装うことができる。

 そして、ブラウザを開いて旭鷲教会に関連した項目を検索して……開けなかった。

「ダメだ……」

と流雫は呟いた。アルスがその画面を覗くが、確かに表示されていない。

「……検閲、か?」

そうフランス人の少年は言った。流雫は無意識に、そのフレーズをリピートする。

「検閲……?」

「日本人が持っているだろう端末や、使っているだろうネットワークからアクセスできないようになってやがる」

 「日本の端末だから引っ掛かった……?そこまでして、日本国内に隠したい情報が有る……」

そう言った流雫に、アルスは

「恐らくな」

と答えた。

 「……もしかすると、隠したい情報は……トーキョーゲートの黒幕の真相よりも大きいだろうな。そうでもないと、ここまではしない」

その言葉に、

「……詰んだ……」

と、流雫は珍しく弱音を吐いた。

 日本にいる限り、追っている情報や真実には辿り着けない。トーキョーゲートだって、知りたいことを知ることができたから、真相に触れることができただけの話だ。

 探偵や捜査官ではないが、幾度となくテロに遭遇してきたから、何が起きているのか気になるのは、当然のことだと、ハーフの少年は思っていた。しかし、もう打つ手が無い。

 「詰んでないぞ」

とアルスは言葉を被せる。

「……え?だって……」

「俺がいるだろ」

そう言って、ブロンドヘアの少年は口角を上げた。まさかの言葉に、流雫は目を見開く。

 「アルス……?」

と名を呼んだ少年のオッドアイを、ブルーの瞳で見据えたフランス人は言った。

「一つだけ問う」

「……何?」

その鋭い目線に臆さない流雫に、アルスは重い質問を突き付ける。

「お前は、こんな情報を俺から手に入れて、何がしたい?」


 初対面の時、2人は色々と話したが、それだけは言っていなかった。

「……僕は。……僕が死ななければ、澪が殺されなければ、それでいい」

「……ミオ?」

「僕にも彼女がいるんだ。澪は僕を誰より愛してて、僕も誰より愛してる。……澪と2人で、テロに怯えること無く生きていたい。……だから、もしそれで全てが解決して、願いが叶えられるのなら……それに縋りたいだけだよ」

そう言った流雫は、無意識に滲ませた悲壮感を隠すように微笑んでみせる。


 ……この数年、特にオリンピック以降急速に治安が悪化した極東の島国で、テロの脅威と戦っている同い年の少年、ルナ。

 平和だった日々がどんなに大切か、身を以て知っているのは想像に難くない。そして今は、最早高望みにも見える平和を、ミオと云う恋人と2人で手に入れたがっている。

 ノエル・ド・アンフェルで、家族と1万キロも離れることになった彼への、血の旅団信者としての贖い……それがアルスの口実だった。それなら、アリシアだって訝らないハズだ。

 十数秒の沈黙の後で、アルスは言った。

「……あくまでも、俺は血の旅団として、その不利益になることを潰したいだけだ。お前に力を貸すのは、その一環に過ぎない。……そう思え」

「それでも助かるよ。サンキュ、アルス」

そう声を弾ませた流雫は、無邪気な微笑みを見せた。

 一度は詰んだと思った、しかし思わぬ助け船が現れた。遠離らないうちに、その縁を掴んだ。そして、救われた。

 ……黒薙や笹平さんの好意の手を振り払ってきた、一種の過ちを繰り返さない。そう決めた僕が掴んだ彼の手は、頼もしく見えた。

 ……こいつ、こんなに笑えるんだな。そう思ったブロンドヘアの少年も、それにつられて口角を上げた。


 午後、2人はカフェでガレットを堪能することにした。流雫が最も得意な料理だが、母アスタナが焼いたものが世界一好きで、それには敵わないと思っている。

 元は、遠く離れていてもその味を楽しめるようにと、必死になって教わったものだ。それが、彼の料理好きの原点だった。

 皿を空にした後で、流雫はホットティーを喉に流し、話を切り出した。

「……教会の件、血の旅団の仕業だと言ってたけど……だとすると何故……」

「正直、俺にも判らん。ただ、金曜夜の虐殺の後、教団が多少なり態度を軟化させたと言ったろ?」

と、アルスは1週間ほど前の話題を持ち出した。

 「それが気に食わない連中がいて……?」

と流雫が言うと、向かい側に座る少年は目を丸くする。

「鋭いな。教団幹部は、懐柔したワケじゃないと説明を繰り返していたが、強硬派には事実上の懐柔と受け取られた。今でもそれに対する反発が有る。教団として独立した経緯が経緯だしな」

とアルスは言い、溜め息をついた。

 「その連中が、もし……今回の実行犯だとすると……動機は原点回帰への機運……」

「有り得ない話じゃない。ただ、それがバレると破門は避けられないからな、何としてでも隠し通すだろう」

と、流雫の言葉に被せた後で再度溜め息をつくフランス人に、流雫は

「そっか……」

とだけ言って、空になったティーカップに最後の1杯分を注ぐ。

 「……血の旅団は、こう云う流れに関しては集まったオーディエンス全員に情報を流す。現状を知ると云う行為の前では、年齢は無関係だからな。だから俺も、自然と把握することになる」

と言ったアルスは少し遠い目をして、ふと流雫に問うた。

「ルナ。お前、無宗教だと言ったな。……神を信じてないなら、何を信じてる?」

「僕は……澪を信じてる」

「……」

アルスは何も言わなかった。だが、目付きからして判る。内心呆れているワケではない、と。

 「行けるところまで行き、死ぬべき場所で死ね。……僕は、行けるとこまで行くよ。だけど、死ぬべき場所はテロなんかじゃない」

と、流雫はフランスの言事を持ち出した。大雑把に言えば、やれるだけやれ、と云う意味だ。尤も、死ねと云う言葉が普通に使われている時点で、物騒に聞こえるが。

 「何時だって、僕には澪がいた。だから僕は、テロに殺されること無く生き延びてきた。……僕は澪を信じる。澪がいなきゃ立ち上がれないほど、僕は弱いから……」

そう続けて目を閉じた流雫は、3日後に日本で会えるハズの最愛の少女を脳裏に浮かべていた。この1年、今まで見てきた澪の喜怒哀楽、その全てが鮮明に甦る。

「……謂わば、生きる女神ってワケか」

そう言ったブロンドヘアの少年に、流雫は目を開けて小さく頷いた。


 殊の外長居したカフェを後にした2人は、ブルターニュ公園で別れることにした。

「……ルナ、最後に一つ」

そう言って、足を止めたアルスに流雫は

問う。

「何?」

「お前、俺が憎くないのか?」

と問い掛けたアルスに、流雫は更に問い返す。

「憎い?どうして?」

「……俺は血の旅団の信者。お前はノエル・ド・アンフェルに遭い、血の旅団から逃れようと家族と離れ、日本に移った」

そう言ったフランス人の目を見つめながら、彼と同い年の日本人は些か不可解な表情を向ける。

 「……だから、憎くて当然だと?」

その言葉に、アルスは驚きを隠さなかった。覚悟した反応とは正反対、そして予想外だったからだ。

「……憎くないのか?」

と、眉間に皺を寄せて更に問うアルスに、流雫は自然な表情のまま答えた。

 「……テロなんて無ければ、今頃フランスで普通に暮らせてた。そう思うと……、……でもアルスが、ノエル・ド・アンフェルを引き起こしたワケじゃない」

「それに言ってたじゃないか、全ての信者が同じワケじゃないと。……憎ければ、先刻のことだって……信じるなんてできっこないよ。アルスは、僕の味方だと信じてる」

そう続けた今の流雫に、偽りは見えなかった。

 ……自然な表情、その深淵に悲壮感を滲ませてはいる。しかし、テネイベールと同じ色をしたオッドアイの瞳に、確かに光は宿っていた。

 ……俺が思っているより、遙かに強い芯を持っている。それがフランスをルーツとするハーフの少年に対する、アルスの印象だった。 

 「……行かなきゃ」

と流雫は言った。このままだと、何時になっても別れられない。

「日本、気を付けて帰れよ」

と言ったアルスに、流雫は

「サンキュ。またね」

と言って、手を上げて微笑み、踵を返した。


 父のロードバイクを押して遠離る、シルバーヘアのハーフ。その背を見つめる少年は、少し後ろめたいものを感じた。俺が悪いワケではない、とは判っているが……。

 流雫と入れ替わるかのように、忙しい足音が近付いてくる。その主……赤毛の少女が、ブロンドヘアの少年の後ろからその名を呼んだ。

「アルス!」

「アリシアか」

そう返した恋人に、アリシアは言った。

「アリシアか、じゃないよ。話したいことが有ったの」

「話したいこと?」

とアルスが問うが、アリシアは問い返した。

「今の、例の日本人?」

 「ああ。明後日、日本に帰るんだと」

と言い、数秒置いてアルスは続けた。

「……俺、あいつに協力することにした」

「……はい?」

アリシアは、予想通りの反応を見せた。寧ろそれが自然だ。

 「旭鷲教会の件、何故か日本では殆ど表示されないらしい。俺と一緒にフランスのサーバを通そうとしたが、それもダメだった」

「……それって」

と眉間に皺を寄せるアリシア。

「だから、こっちで知り得たことをあいつに流す。……宗教テロに怯えること無く過ごせる願いに手を貸すのは、悪いことじゃないハズだ」

と、恋人の言葉に被せたアルスに、アリシアは問うた。

「……アルスが血の旅団信者だってこと、知ってるの?」

「最初に話した。流石に驚いていたが」

その答えに、赤いロングヘアを揺らす少女は更に問う。今は問いたいことが多い。

「……あの日本人、そもそも何者なの?」

 「名前はルナ。フランス人とのハーフで、昔はパリにいたらしい。ノエル・ド・アンフェルに遭遇し、血の旅団の迫害の危険から逃れようと、日本に移り住んだと言ってた」

その言葉に、アリシアは彼が何を思っているのか察しがつく。出逢いから十数年、それは簡単なことだった。

 「……まさか、ルナへの贖罪だと思ってるんじゃ……」

「……教団には教団の正義が有る。だから教団はノエル・ド・アンフェルを起こした。……だが、ルナはそれが原因で、両親と離れて日本に移った。……正義は時に相手を苦しめる、頭では判っていたハズだったが、あいつに思い知らされた」

とアルスは言った。

 ……何事も無いような表情で話す流雫は、しかし陰を漂わせていた。無意識なのだろうが、それが引っ掛かってはいた。

 「正義、それはそれぞれが正しいと思う信念……。でも」

と言った赤毛の少女の言葉に、アルスは続く。

「それの押し付けが対立を生み、やがてテロや戦争を引き起こす。……あいつはそのとばっちりを受けた」

「……ルナは、俺がノエル・ド・アンフェルを起こしたワケじゃないと言ってた。だから俺は、あいつにとって味方でいられるようだ。……少しはそれに報いなければな」

と言って、ブルーの瞳の少年は少し笑ってみせた。それに溜め息をついたアリシアは

「……アタシも協力するしかないわね」

と言った。

 「アタシも、日本で何が起きてるのか気になる。旭鷲教会……血の旅団の脅威にすらなりそうだし」

「ルナは、あの教会も旭鷲教会の仕業かと言ってたな。妄想だと一蹴したが」

と、アルスは先刻の話をアリシアに言った。その瞬間、赤毛の少女は

「え……?」

と声を上げる。

 「どうした?」

「……旭鷲教会の仕業……?どうして、そのことを……?」

「……アリシア?何が有った?」

そう言ったアルスの血相が変わる。話したいこと、それはまさか……。

「……先刻、教会で偶然聞こえたの」

とアリシアは言った。


 血の旅団を信仰しているプリュヴィオーズ家とヴァンデミエール家は、過激派と言われる教団内でも穏健派に属していた。金曜夜の虐殺でも脱退しなかったのは、司祭などの役職に就いていないからだった。ただ、その1件を経て穏健派は比較的少数派だ。

「この前のミサで忘れ物して、先刻引取に行った時に……司祭が通話していたのを偶然」

「……相手は大聖堂か?」

「話の中身が中身だから、そうだと思う」

と、アリシアは恋人に言った。

 太陽騎士団はフランス東部のダンケルクで創設され、血の旅団は本部の大聖堂をそれより西のカレーに置いた。互いにドーバー海峡に面した街で、イギリスのドーバーへ船で行ける。

「そう聞こえただけだから。今度のミサあたりで、その話が有ると思うわ。ただ、それが正しいなら何故……」

「……しかし、日本の宗教だ。脅威になるかも、と云ってもわざわざフランスでテロを起こす理由が無い」

と、アルスは恋人に被せた。

 ルナを見ていると、何が真実でも最早不思議ではない。事実は小説より奇なり、と云うではないか。ただ、それで済ませるには不可解だが。

 とは云え、こんな公園で教団の末端信者がああだこうだと言っても仕方ない。

「……まあ、そう云うワケだ」

とアルスは話を締め括る。アリシアは

「厄介なことになりそうね……あの国は」

と呟き、先刻の少年が消えていった通りを見つめた。

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