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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
黒影と深森の練習曲
9/56

変化

「ライにいちゃん」


「ん、なぁに」


「んふふ、よんだだけー」


「なんだそりゃ」


 両手両足で上半身をホールドされたまま、俺は耳の近くから聞こえるフウの声にそう答える。


 まるで恋人みたいなやり取り、そういえば声変わり前の子供の声って女性の声と響きが同じだとかなんとか。


 そう考えると胸が高鳴るような……いや、ないな、そんな事はない、慣れ親しんだフウの声だ。


 視界の端でぴょこぴょこ揺れる、髪とはちょっと違う茶色の毛。獣の耳。


 俺を誘惑してやまない毛の塊。


「……ひゃっ!?」


「んー、コリコリしてる……それにふわっふわ」


「ひにゃ、にゃ、にぃちゃっ、それくすぐったぁっ!?」


 前にテレビで見た狼の耳ってこんな感じだったような気がする。いや、猫かな……よくわからない。


 ははっ、なんか可愛いなあ。でもくすぐったいのか……少しだけ悪戯心が沸いた。


「ほいっ」


「うひぃっ!?」


 俺の身体を締め上げたまま思い切り肩を仰け反らせておかしな叫び声をあげたフウに、俺の笑みは深くなる。


 耳の付け根の、人間の耳で言うなれば耳たぶの部分。二重構造になっている部分を指で弾いただけでこの反応、やばい、本当に面白い。


「ちょっとぉ! イジワルすんなよにぃちゃん……!」


「あははー、ごめんごめん、つい、ね?」


「ついじゃなーい!」


 涙目で怒られちゃった。でも怖くないんだよなぁ、ニヤニヤが止まらない。


 まあやり過ぎたら本格的に怒られるかもしれないからこれくらいにして、と。


「で? その耳ってどんな感じなの? ってか、尻尾もあるよね、やっぱり感覚とかちょっと違いある?」


「ん……すっごい音とかきこえるよ。にいちゃんの心ぞーとか、あと、家の外のはっぱの音とか」


「へぇー、うるさかったりしない?」


「うるさいって思わないんだよな。ただなんつーか……聞き取りやすい? って感じ


 しっぽは……んー、最初からあったみたい。フツーに動かせるよ」


 お尻の上部分、パンツが少し盛り上がって、そこからひょこりと生えていた尻尾をフリフリ左右に揺らしてそうアピールしている。


 ……触りてぇ。


「……」


「にいちゃん? どうし……はっ! キューにさわんのはナシだぞ!?」


「だめ?」


「……ちょっとなら……」


 よっしゃー。許可を貰ったなら遠慮することないなぁ!


 緩慢な動作で俺の目の前にやってきた尻尾。左右にふりふり、俺の事を誘惑しながら差し出されたその先端をそっと手に取る。


「ん……」


「すっげぇ、ふわっふわだ……でも」


 毛を含めたら俺の腕二本分くらいだけど、中心の芯は腕三分の二本……いやめんどくさいな、とにかく良い感じの尻尾だ。


 人間にはついてるはずのない部位、触ってると不思議な気分になってくる。


 それにしても暖かいな……けど、ちゃんと洗ってないのかなぁ、フワフワなのにゴワゴワもしてるよ。あと先端がちょっと黒ずんでるし。


「これすげーんだぞ、尻尾だけで立てるんだ!」


「そんな力あるんだ……だから先端汚れてんだね」


 俺もやってみたいなぁ。少しだけうらやましいかも。


「……」


「……な、なんだぁ? オレの顔、なんかある?」


「あるっちゃあるけど」


 やっぱり顔汚れてるんだよなぁ、でもさっき泣いたせいで目の周りだけ妙に黒色が薄くて面白いことになってる。


 でも俺が気になったのはそこじゃないんだよな。もっと、そうそう変わるはずがないところが変わってる。


「んー? なんか目の色もちょっと変わってるねぇ」


「俺も!?」


「うん、なんかねぇ……ってか俺も? まあいいや薄い茶色、黄土色っていうんだっけこれ」


 綺麗な色だ。外から差し込んでくる薄い光にキラキラ輝く瞳の奥をよく見ると、瞳孔の形もちょっと違う。


 タイガーアイっぽいけどそこまで縦長じゃない。


「夜目が効いたりしない?」


「ヨルメ……?」


「暗いところでも周り見えたり」


「する!」


 不思議だなぁ。ここにいる事自体が不思議な事だって事はわかってるけど。


 全部夢だったら……そんな妄想をしかけて、夢から覚めた先が夢物語ほど素敵な現実でもない事に気が付いた。


 もしこれが夢だったとしても、俺はともかくフウにとっては良い事とは言い難いんだから。


「でも、オレだけじゃねーよ、にいちゃんだって」


「えっ? 俺?」


「ん」


 俺の肩に置いていた両手が俺の頬へと伸びてきた。


 柔らかい手で耳ごと包み込まれたと思ったその瞬間、おかしな感覚が俺を貫いた。


「うくっ!?」


「あ、にいちゃんも耳さわられるとヘンなるんだー」


「耳……?」


「ん、とんがってる」


 外されたフウの手のあった位置に今度は自分で触ってみる。


 ……なんだこれ。今まで気付かなかった俺が鈍いのか……? こんな、明らかに形が違うじゃんか。


「あと目もなー、ちょーキレーだぞ! 草の色だー!」


「マジか」


「なんかにいちゃん、アレみたいだな」


 うん、俺もアレみたいだと思ったよ。多分俺の思ってるアレと、フウが言ってるアレは同じだ。


 よくファンタジー系のゲームや物語で引っ張りだこの、あの種族。長命で皆目麗しい弓や魔法の達人。


「エルフのにいちゃんだ!」


「……俺、絶対似合ってないよね」


「ん? んなことないよー、ちょーにあってる!」 


 でも俺的には似合ってないんだよ。だって美男子じゃねえし。多分フウの方が似合うんだよこれ。


 まあ今の獣人っぽい見た目が一番似合ってるんだけど。なんでも似合って羨ましいなぁ。


 それはそうとして。


「ところでさぁフウ、この辺水場ってある?」


「うん、玄関のハンタイすすんだらな、おっきい湖あるんだ」


 そっか、あるのか。俺の鼻を何とも言えないフレーバーが突き抜ける。


「……水浴びしてる?」


「……」


「……」


 してないなこれは。


「湖行こっか」


「え、でもオレ、もっとこーやってにいちゃんと……」


「臭いよ」


「う゛」


「湖、行こっか」


「……あ゛い」


 いくらフウでもその匂いはダメだよ。本物の獣じゃないんだから。

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