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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
黒影と深森の練習曲
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眠りの再会

 隙間の空いた扉は音もなくすぅーっと開く。ボロのカーテンで遮られた窓からは薄い光しか入ってこなくて、薄暗かった部屋の中に明るい光が差し込んだ。


「……、ふ、フウ……?」


「……」


 部屋の隅っこでうずくまる小さな影。恐る恐る近づいて、華奢な肩を両手で包み込んだ。


 眠ってるのかな、ベッドは……あった、けどこれは……。


「藁のベッドって、環境が劣悪過ぎないこれ……んっ、ちょっと体重、軽くなったかな」


 眠るフウの身体を持ち上げると、抱きしめて眠っていた俺のシャツがその場にはらりと落ちた。


 あーあ、汚れ塗れの皺だらけ、ちゃんと洗っときなよ本当に……ねぇ、フウ。


 でもあんまり痩せたって感じはしないな。確かに肌がカサカサだけど、これ汚れてかさついたように感じるだけだと思う。


 優しくベッドに寝かせてあげて、優しく頭に手を乗っけた。……あぁ、あの声が言ってたのって、これの事か。


「獣の特徴って……ケモ耳生えてる。ちょっと髪の毛も伸びたかな」


 あとちゃんと尻尾もお尻の上部分から生えていた。なんかもう、あれだな。


 これで首輪とか付けたら完全にコスプレイヤーだよ。それもマニアックなやつ。


「フウ、ちょっとだけ日焼けしたね……お腹まで黒っぽくなってるよ。それとも汚れてるのかな」


 すー……すー……という穏やかな吐息に合わせて上下する胸もと引き締まったお腹は元々日焼けしていた腕や足と同じくらいの色に染まって、元々日焼けしていた部分はその色が更に濃くなっているように見える。


 引き締まった身体、ボサボサの髪の毛、ずっと森にいたからか少しだけ解れたパンツ。野生児って言葉がぴったりだな。


 ……それに、結構臭うんだよなぁ。なんていうか、獣臭って感じ。


「んん……うぅぅ……」


「フウ?」


「あぅ、くぅぅん……」


 フウは仰向けだった身体を丸めて、身体を小さくしながら小さく高い声を漏らしだした。


 最初はうめき声だったそれは、少しずつ意味のある言葉になってくる。


「や……やだぁ……」


「フウ……寝言……?」


「いきたく、ない……にぃ、ちゃんと……ずっと……」


 にぃちゃん、にぃちゃん、そうやってまるで妄執に取りつかれたように俺を呼ぶフウの声。


「お、れ……がん、ばった……ほめ、て……あたま、なで……ぎゅっ、って……」


 ちょっとだけ震えてる……そうだよね、ずっと一人だったもんね。


「よしよし……ゆっくりお休み」


「んぅ、ぅ、ぅ、にぃ」


「ほら、ぎゅー……」


「はぅ……ん、んへへ……すぅ……」


 眠るフウの後ろから身体を包み込んでやると、ちょっとだけ笑ったような声がした。


 良かった、俺が知ってるフウの声だ。ちょっと姿は変わって野性味が増したけど、間違いなくフウだ。


 もう大丈夫かな、そう思って身体を離す。


「すぅ……ぅ、ぅぅ……? あぁうぅぅ……やぁ……」


「あーもう……どうした? もっと?」


「んふぅ……」


 離れた瞬間フウの様子が変わってこっちに寝返りをうったと思えば、眉がキュッと内側に寄せられる。そんな顔で縋るような声を出されたらもう堪らない。


 もう一度、今度は正面から身体を抱きしめて頭を俺の胸に押し付けてやる。


「にぃ……ちゃ……」


「……あー、ダメだこれ」


 離れてくれないわ。目が覚めるまでずっとこれってのもなぁ、ポケットに入ってる木の実とかテーブルに置きたいし。


 俺はフウを抱きしめたまま部屋の中を見渡した。


 ぶ厚いボロのカーテン。木製の質素な椅子。小さな棚に教室の机程度の大きさのテーブル。今寝ている申し訳程度に藁が敷かれたベッド代わりの高台。


 まるで監獄じゃないか。本当に何もない。


 ……ん? テーブルの上に置いてあるのって。


「同じ実じゃん……齧った跡あるし、これ食べられるんだ……」


 そういえばまだ生ってたよな。フウの為にも採ってきておきたい。


 けど……。


「……はなして、くれないよね……。あー、ちょ、服引っ張らないで……」


「しゅ、き……」


 んー……どうしようかな。……あ、そうだ。


 フウ、俺の服を抱きしめて寝てたんだよね。じゃあ……。


「よっ……おいしょと、うぅ肌寒っ……くもないわ」


「にぃ……ちゃ……すぅぅ……」


「……マジで恥ずいんだけど」


 掴まれたまま身体を下に引き抜いて、服を残して立ち上がる。残された俺の服を思いきり抱き締めて顔を埋め始めたフウの様子に、俺は何とも言えない気分になった。


 寝てるって事は無意識って事だろ? 無意識なのにこんなによ……まあ嬉しくはあるんだけど。


「よし、落ち着いたな」


 フウの目が覚める前にさっさと果物採って来ちゃわないとな。身体も軽いしここまでの道のりで疲れを感じてない。


「あ、そういえば」


 フウにケモ耳が付いたってことは、俺にも生えてたり……。


「……しないか」


 ちょっと期待してたんだけどな。どんな感じなのか気になるんだよ。


 フウが目覚めたらちゃんと触らせてもらうか。撫でたときのちょっとコリコリした感触癖になりそうだたし。


 上裸でうろつくっての慣れてないけどまあ、どうせ誰もいないだろうしいいや。虫はちょっと怖いけどね。


 食べかけの果物の隣に取ってきた果物を置いて、地面に落ちたままのフウが着ていた俺の服を手に取る。


 これ着れば良いんじゃねえかな。


「……あ゛ーっと、すっごいフウの匂いが……」


 そりゃそうだよ、ずっと着てたり抱きしめたりしてたんだから。汚れてるしさっさと洗濯しないとな。


 俺の服はフウに渡して、水場を見つけるまでは家の中では俺上裸で過ごすべきかもしれない。


「んじゃ、行ってくるか」


「……んん……ふへへ……」


「行ってくるね」


 安らかなフウの顔をもう一度だけ見つめてから、俺はドアを再び開けた。

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