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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
黒影と深森の練習曲
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喪失

第一章のスタートです。

「ん゛……んぅぅ……」


 ああ、もう朝かな、起きないと……。


 ……あれ、腕の中がなんか寂しい、フウは……先に起きちゃった?


 にしてもいやに眩しいな、瞼が一層重く感じられる。今日だって学校あるのによぉ。


 それに寒い。あれ、布団は?


「……んん? ……なんだ、ない……ふかふかじゃない……、っ!?」


 ちょっとまて、ここ布団じゃない。一瞬で意識が覚醒して目を開けた。


「うっ、眩しぃ……」


 刺すような陽の光、でも今重要なのはそこじゃないだろ。第一寝るときカーテン閉めてるんだから、陽の光とかそんな感じるはずがない。


 目に映る光景に言葉が漏れる。


「ここ、部屋じゃない……も、森だ……」


 ……夢じゃなかったのか? じゃあここは俗に言う異世界で、帰ることは出来ない?


 試しに右側を向くと声の通り獣道が奥へと続いている。その他は一面の木々、草々、花々。日本じゃあり得ないような色どり豊かな自然の色彩。


 マジじゃん。……そっか、もうお別れなのか。


「……あぅ、やっべ……涙出てきた……」


 これさ、よくよく考えたら相当な親不孝者じゃないか? だって十六年間も育ててくれた父さんと母さんを置いて突然失踪したって事だろ?


 今は二人して家を空けてるけど、帰ってきたとき俺がいなかったら……いやその前に電話してもメッセ送っても俺からの反応が無かったら、どう思うかな。


 息子がいなくなったーって慌てるんだろうな、んでフウの家に行って、フウも見つからなくて二人して消えたって騒ぎになってよ。


 そしてら多分、俺がフウを連れてどこかへ消え去ったって騒ぎになるんだ。そしてら父さんと母さんは白い目で見られて、俺の、俺のせいで……!


「ごめんっ、ごめんなさい……っ、うぁぁぁ……っ、おれぇ、おれぇぇ……!」


 ごめん、本当にごめん。頭の中はそれで埋め尽くされて嗚咽が止まらない、吐き気すらしてきたくらいだ。


 身体はなんだか妙に軽いのに頭がぐるぐる回って、その場で蹲っては地面に向かって衝動を叫ぶ。


 高校生にもなって恥ずかしいくらいに号泣した俺は、それから暫くの間ただただ泣き続けた。


───


「はぁっ……はぁ、あ、はは……俺、一人で何してんだろな……ちょっと、すっきりしたかも……」


 まだちょっと声は震えるけど少しだけ落ち着いた。そうなると気になってくるのは肌を撫でる少し肌触りが悪くなった寝巻だ。


「化学繊維を麻に変えたとかなんとか言ってたよな……うわ、ほんとだ。なんかゴワゴワしてる」


 服を確かめながら布を掴んでいると、視界の端に何かが映った。


 振り向くとそこにあったのは、大小のリングと一枚の紙。


「……ん? これって……ああ、これがか、そうは見えないけど」


 紙にはたった一言と、端の方に小さな文章が書かれていた。


『首輪

 ※装着が完了すると詳細説明が表示されます』


 詳細ってなんだよ……最初から書いとけ。


 んー、多分この小さいのが持ち手部分だよな……ブレスレットっぽい。


「おぉ、サイズぴったり。じゃあもう一つのこれは……」


 ……どうやって開くんだ? あ、金具あった、これで開いて首に嵌めるのか。


 なるほどね、じゃあ俺がフウに嵌めてた首輪はどうなったんだろう。そういえばあの映像で見たときは何もつけてなかったような……服はあったのに。


 俺と繋がってたから邪魔だったとか? まあ、それはありそうか。


 腕輪をとりあえず腕に嵌めて、首輪はポケットにしまっておく。そうして立ち上がった。


「んっしょっと……やっぱ、身体軽いよな……それになんか、ムズムズする……なんだこれ、変な感じだ」


 今なら腕立て百回やっても全然疲れないだろうな。それとは別に感じる、身体の内から湧き上がるような温かい力。


 今まで感じたこともない、形容しにくい感覚だ……ここが異世界だって事を考えるとこれが魔力とか?


 ……なんだ俺、意外と冷静じゃないか。やっぱり思い切り泣いて良かったな。


「フウの前では、俺が泣くわけにはいかないからな。って、そうだよっ、フウのところに早く行かないと!」


 確かこの獣道を進めばいいんだよな、急いでいかないと。


 森の中は意外と快適な気温で、ゴワゴワとした寝巻の俺だけど寒いとは感じない。


 夜は寒くなるかもしれないけど、まあなったらなったで色々やりようはあるだろう。


 それより、フウはちゃんとご飯食べてるのかな……その前にここでのご飯ってなんだ?


「あー、木の実だ」


 たまたま視界に入った赤い果物。リンゴのように見えるけどリンゴよりも角張ったそれは手を伸ばせば届く位置から生っていた。


 まあ、そりゃああるよな。森だもんここ。シダみたいな植物から生る実が食べれるのかどうかはともかくとして、見た目だけならおいしそう。


 一応取っておくか。


「んしょっと……うわわっ、虫ぃ!」


 思ったよりも弾力があったシダは身を取る為に力を入れるとその分垂れ下がり、ブチっと取れた瞬間に反動で勢いよく戻る。


 その拍子に俺の上から青色の虫が数匹降り注いできた。


 別に虫が苦手ってわけじゃないけど、こうして来られるとビビる。ってか見たことない虫だし、毒とかあったらヤバいだろ。


 ……本当に見たことない虫だな。足は六本だから昆虫の類? コクワガタを更に一回り小さくした程度の甲殻を持った虫。よく見たら綺麗だな。


「……まぁいいや」


 そんなことしてる場合じゃないし。俺は虫を振り払って獣道を走り出す。


 暫くしてようやく目的地が見え始めた。


「あそこかっ……!」


 森の中の少しだけ開けた空間。中心にそびえるひと際大きな樹に寄り添うように、本当に小さなボロの小屋が一つだけ。


 自然に足が速くなる。


 扉に手をかけて、俺は謎の緊張から喉を鳴らした。

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