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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
熱風と離別の交響曲
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偏屈な鍛冶師

「あ、あぢぃ……」


「我慢せぃや、どこの工房もこんなもんじゃい」


 外と比べても一段と温度が高い工房の中、無骨な金属製の四角い作業台と、同じく金属の塊のような椅子に座ってオレ達は向かい合って座っていた。


 轟々と炎が吹き出る窯。打ってた途中で放り出したのか、少しだけ赤らんだ金属の棒。


 気になる物は色々あるけど、それはともかく話し合いを早く終わらせたい。それくらい暑い。


「で? オラんとこを紹介されたぁ? 一から説明せぃ」


「ん……わがっだぁ……」


 暑くて伸びそうになる身体と頭を無理やり引き締め、軍の買取所に狩った獲物を持って行ったこと、軍に加入したこと、そしてそこで武器の使用を勧められ、ルークスの名を紹介されたことの三つを語る。


 そうして話しているうちに、最初から刻まれていた眉間の皴は、話を聞き終えるとさらに深くなっていった。


 ただでさえ凄まじい強面だから、凄い顔になってるな……ちっちゃい子供だったら絶対泣く。


「……どいつじゃ、オラを紹介したんは」


「えっと……名前はしらねぇ」


「特徴を言えぃ特徴を、それでわかるわぃ」


「ちょっとつり目で、かみの毛があかっぽいちゃいろで……あと、オッサンくらいの、肌色」


 オレがそこまで言うと考えるようにしていたルークスのオッサンは両手を打ち鳴らし、ああっ、と声を上げた。


「あぁッ、わぁった。 アンの嬢ちゃんか!」


「そー、なのか?」


 名前知らないし、オレからそうだとは言えない。


 手の平に拳を打ち付け一人納得した様子のオッサンを、オレは何も言わずに見つめ続ける。


 暫くそうしていると顔を上げた彼は、オレの瞳を見つめて来る。どうしたのかと思ったけれど、予想以上に強い視線に何だか試されているような気がして、そのまま逸らさず見つめ続けた。


 瞳は糸のように細くて、そこから覗く三白眼は剣呑な光を放っている。


「はぁ……ったく。おぃ、名を名乗れぃ」


「フウカ」


「そうかぁ。で、フウカの小僧よ、オラぁお前さんに武器を打ってやるって話んなっとるがぁ、なんでオラが従わなきゃならん」


 ……そりゃそうだよな。ってか武器を打ってやるって話になってたか?


「ん、そーだな。オレいままで武器ってつかったことねぇし」


「はぁ? フウカの小僧、お前さん武器を打って貰いに来たんじゃないんか?」


「うん、武器あったほうがいいって言われてきたんだ」


「……じゃあ、なんじゃ。お前さんぁ魔法使いっつぅ雰囲気でもねぇ、拳闘術でやり合うタイプかぁ? オラが叩き飛ばした野郎をぉ、吹っ飛ばしてやがったいなぁ」


 正解だ。オレは頷いてそうだと答えた。


 だからぶっちゃけあんまり武器とかいらない、ただプロテクターみたいなのがあれば便利だとは思うけど、その程度なんだよな。


 その旨を伝えるオレにルークスのオッサンは、何処か口元を歪めて見かけの割にツルツルな顎を撫でた。


「はぁ、要するに拳闘用の手甲じゃろぅ? んーむ……」


「いやさ、べつにヤなら作ってくれなくていーぞ。オレ、いまんとこあんま欲しいっておもわねえし。それに……」


「それに、なんじゃ」


「オッサン、武器とかあんまり人にうたないんだろ? 変わり者っていわれてたし……オレさ、オッサンを紹介されたっていっただけでヘンな目でみられたんだ」


 みんなはっきりとそう言っていたわけじゃないけど、それだけは何となく分かる。


 だってさ、あのイラつく男もルークスは腕がいいって言ってた。


 なのに工房にはルークス一人。そんな評判のある腕利き職人が闘争が重要視されているらしいこの街で、静かに鍛冶作業出来るとは思えない。


 多分、みんながみんな武器を打ってくれって頼みに行くと思う。なのにそうなって無いって事は、きっと逆なんだ。


「さっき中からドーンってでてきた人も、客だったんだろ?」


「……お前さん、外から来たんじゃろう?」


「? なんでだ?」


「この街でそんだけ目立つもん首につけとる奴は知らん。ましてやここにゃぁ人間を飼うっつぅ考え持っとる奴はおらんしなぁ。


 んな賤しい事を考えるんはぁ、エルメスティのクソ共か、ムスルの野郎共……お前さんも、そこらから逃げて来た類かぁ?」


「? オレ、よくわかんねぇ」


「そうか、まあいいわぃ。まあ、じゃあオラの事もやっぱ知らんのじゃろなぁ。良い洞察力を持っとるじゃぁねぇか」


 褒められてる、のか? 良く分からない。しかも突然褒めて来るって気味が悪い。


 それにしてもやっぱりこの首輪って目立つのか。見た目は別に変じゃない、ただの黒い首輪なんだけど……首輪の時点で目立たない事の方が難しいよな。


「まっ、そうじゃ、お前さんの言っとる事は正しい。オラぁ気に入った相手にしか武器を打たん。なんせオラぁオラ以上に腕の良い冶金術師をしらんからなぁ」


「自分で言うんだ」


「オラぁ嘘は言わねぇ、そんに自らん腕に自信を持っとる。だからこそ気軽に鎚は振るわんっ」


 そういったルークスは、分かりやすく憤慨しているようだった。過去に何かあったのかもしれない。


 表情から今まであった険を無くし、ふぅっと一息付いてからオッサンは再び喋り出す。


「なぁ、フウカの小僧。オラぁお前さんとこうして話してみて、傲慢も侮蔑も、その手の類の感情をなぁんにも抱いとらんっちゅー事がわぁった」


「ごーまん……ぶべ……?」


「とりあえず、お前さんの武器はそん拳じゃろぅ?」


 良く分からない言葉にオレは首をかしげていると、ルークスは椅子から立ち上がる。


 鉄塊の様な重い椅子を脚の筋肉だけでずり下げながら、オレの横に立って目の前に手のひらを見せつけて来るよう差し出して来た。


「ほれ」


「え?」


 タコだらけ、火傷跡だらけの凄い手だ。それに物凄く分厚い。


 えっと……これは、殴れって事?


「オレの武器、つくってくれんの……?」


「そいつを今から決めるんじゃぃ」


 オレが確認すると、そのまま手の平を差し出し続けてそんな事を言う。


 ……よし。やるか。なんかプロテクター作って貰えそうな雰囲気だし。


「……ほぅ、見たことない構えじゃぁ」


「ふぅぅ……けりでもいいのか? それとも手だけ?」


「どっちでもええわ。まあ、両方の方が良いがなぁ。おぉっと、ちぃと待っとれ」


 オッサンは一瞬目を閉じて、全身をふるっと震わせた。すると全身から薄黄色の光の様な靄が発生し出す。


 それが彼の身体の中に音もなく入って消えた。何だか、気配が変わった気がする。


 ……にいちゃんが使ってた土属性の魔術と同じ色だ。でも詠唱っぽいの無かった、ってことは魔法か。


「よぉし、いいぞぉ」


「……おっす」


 おっけー、じゃあまずは蹴りだ。


 オレは構えを一度戻しその場でぴょんぴょん跳んで身体を解してから、改めて照準を合わせる。


 高さは……大体オレの首くらいだな。的は小さいけどまあ当てれるはずだ。


 二歩後ろへ下がり、十分な距離を取る。このオッサンの身体はどうみても屈強で、更には魔法も使ってる。今朝がた強化されたオレの力もきっと耐えてくれるはず。


 本気を出していいんだろう。よし、やってやる。


「遠いじゃぁねぇか」


「いーんだ。これくらいがイチバンやりやすい」


 息を整え重心も定め、目先の的へと意識を集める。昨日とは少しだけ感覚が違うけど、十分修正可能なレベルだ。


 自分の中で意気が高まり力加減を予測して、それら全部が最高潮に達したその瞬間、オレは一気に身体を前に押し出すと同時に上半身を重力に従わせた。


「はッ!」


「ぬぉっ!?」


 半回転した地面すれすれの身体から放たれた、突き上げるようなオレの脚。


 オレの小さな身体で込められるだけの力を全て込めた渾身の一撃、思い切り、それこそ蹴り飛ばす程の意を込めて放った踵は、岩の様な彼の身体を一瞬だけ浮かすに留まった。


 くっそ重い……! 見かけの何倍も、それこそ大岩を蹴ってるみたいだ……!


 なら、浮いたその隙にもう一撃!


「しゃぁ!」


「うぐっ!」


 両手と片足の三点倒立になっていたオレの身体を、両肘のバネでカチ上げながら身体を鋭く一回転。


 片手の力だけでは決して生み出せない推進力を腕に乗せながら、これまた渾身の正拳を叩き込む。


 本当に僅かな、コンマ数秒というオッサンの身体が浮き上がっていたその時間、最高速に努めた甲斐あってか少しだけ浮き上がっていた身体に追撃が走り、後方へと鉄の身体を押し退けさせた。


 余すことなく衝撃を相手に伝えオレは流れる動作で腕を引く。元の構えに戻って残心し、息を吐き直しながら少し離れた位置で手を差し出したまま固まる彼へと声をかける。


「……ふっ。ど、どうだ?」


「はぁ~~、コイツぁ驚いたぁ」


 ……結構本気でやったんだけど、オレ。にいちゃんが書いてくれた魔導陣は使ってないものの、全力で取り組んだし結果も出せたはず。


 全く答えた様子もなく、手の平や腕だって全く痛そうな様子もない。


 丈夫そうな身体だとは思ったけど、少しくらいは表情を歪められると思ったんだけどな……。


 けど楽しそうに、強面を崩しながら手のひらを見つめるルークスのオッサン。


「く、くっはっはっは……! そぅか、そぅかぁ……」


 その巨体から黄色い燐光が再び吹き出し、周囲の空間へ霧散する。感じていた威圧感が何処かへ消えた。


 そして再び椅子に座り直すと、凶悪に上へあがった口角のままにオレへと叫ぶ。


「名誉に思えぃフウカの坊主よ! こん稀代の冶金術師ルークス、お前さんの獲物を打っちゃるわい!」


 ギラリと瞳を輝かせ、強い気迫を確かに感じる大声で。


 ルークスのオッサンはオレの武器を打ってくれると宣言した。

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