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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
熱風と離別の交響曲
53/56

はじめての服屋

「……ここか?」


 金の入った袋を持ったまま、オレは街中を歩いてある一軒家の前で立ち止まっていた。


 看板の文字は読めないけれど、なんか模様は服っぽいような気がしないでもない。受付嬢に教わった場所はここのはず。


 扉を押すと抵抗なくすぅっと開き、ベルの音が鳴る。


 チリンッ


「はぁい、いらっしゃぁ……あら?」


 扉を開けると出て来たのは一人のふくよかな女性だ。赤色ベースのきっちりとした服を着こなしているところを見るに、ここの店員か何かだろうか。


 それにここって結構デカかったし。多分店主は奥で仕事してるんだろうな。


 少しだけ訝し気にこちらを見つめる茶色の瞳、頭に被るヴェールのようなものを少し揺らしてこちらへ近づいてくる。


「あら、ボク? なにかご用かしら、誰かから伝言でも預かって来たの?」


「ん、オレ客だ。服かいにきた」


 にこやかに聞いてくる彼女にオレはそう告げた。


「あらまあっ! そうなのぉ? 可愛らしいお客さまねぇ、お金はある?」


「どれくらいいるんだ?」


「そうねぇ……簡単なものなら銀貨一枚、防刃だとか衝撃吸収だとか、戦闘向きの服になると金貨が必要になって来るわ」


 金貨……多分銀貨の上だよな、銀貨十枚で金貨一枚とか、そんな感じかも。


「えっと……銀貨が、七枚ある」


「銀貨七枚……あぁ、もしかして軍の新入りさんかしら? 確か支度金がそれくらいの金額だったわよね」


 オレの立場を察するや否や、すぐに店の中へと手招きされてオレもそれに従う。


 色々な服が展示された店内。女性服は上下あるのに、男性服は上は無くて下だけってのが多いみたいだ。


「んー……ちょっと採寸させてもらうわね」


「さいすん……? ん、んぁっ、ちょ!」


「もぉん、動かないで」


 何処から取り出したのか紐のような物を取り出して、オレの腰へと手を伸ばす。


 突然触られたのと、普段からそこをくすぐられると弱いオレは身悶え暴れ、けど店員の女の手は止まらず暫くの間地獄を味わった。


 細く、けど少しだけ硬い五本の指がオレのへそ下を撫で、腰の部分を優しく包み込む。やけにサラサラとした紐が肌を直接滑りどうしようもなくいじらしい。


「はぁい終わり~」


「ひっ、はっ、はぁ……」


 ようやく採寸とやらが終えた瞬間、オレは息も絶え絶えに睨みつけた。ってかなんか必要以上に触って無かったか?


「はぁっ、……お、おまえ……」


「んー……ウェスト細いわねぇ、子供用で尚且つ丈夫なの少ないのよ……。ねえボク、君はどうやって戦うの?」


「……お、オレは、なぐったり、けったり……」


「徒手格闘がメインね、って事は柔軟性も大事……。銀貨五枚くらいになるけど、オーダーメイドで作る事になるかしら」


 徒手格闘……いや、徒手格闘術じゃねえ。だってそれってアレだろ、誰でもすぐに強くなれる戦い方だ。


 まあ確かにちょっとは影響受けてるとは思うけど……勉強できる動きはあったし、ネットで自主勉したこともある。


 だってあれって結構すげえんだ。相手の攻撃に対する対応だとか、向かってくる相手への対処法、迅速に相手を無力化する方法、学べる部分は非常に多い。


 っと、それはそうと金の問題だ。銀貨五枚も使ったら、残り二枚になっちまう。


「……オレ、これから鍛冶屋にもいくんだけど……」


「あら、そうなの。じゃあ使い切る訳にはいかないわよねぇ……」


 まあ、別にオレは今のところ武器は無くたって戦えてるから、ここで金を使い切っても良いんだけどな。


 残金が銀貨二枚もあれば、数日は宿に泊まれる。数日あれば金を稼げる。


「どこの鍛冶屋さん?」


「えぇっと……」


 オレは紹介された鍛冶屋の名前を思い出す。この店のある服飾通りを少し進んだところにある冶金通りの……。


「ルーカス? ルークス? とか、そんなかんじの人んとこ」


 忘れかけていた名前を思い出しながらそう告げると、店員さんは少しだけ驚いたように目を見開いた。


「まあ、まあまあまあっ、ルークスさんって有名よ? 彼を紹介されるだなんて、将来有望なのねぇ……」


「そーなの? オレ、そういうのしらねえ」


「まあ、ボクは見たところ外から来たのよねぇ、だったら仕方ないと思うわよ。けど、そう……ルークスさんのところ……」


 何かを考えこむようにしていた店員の姿。すぐにこちらへ向き直し、口を開く。


「なら、ここでお金使っちゃって良いかもしれないわ」


「? なんでだ?」


 こいつもお店の人だから、オレに金を使わせたいのか?


 そう思って理由を聞く。


「いいえ、そうじゃなくてね。ルークスさんって結構変わり者なのよ」


「かわりもの?」


「ええそうよ。彼、お金じゃ動かないの」


「……? え、じゃあどうするんだ?」


「あの人はねぇ、数いる職人たちの中でも特に職人気質が強い人でね、自分が気に入った人にしか武器を打たないのよ」


 そう言って面倒そうに息を吐く。


 じゃあオレ、行っても意味なくねぇか? だってオレって昨日この街に来たばっかで、任務も何もやってない。


「ま、問題はそこじゃなくて、お金の話よね。彼って代金は基本的に言い値なのよ」


「いいね?」


「自分が思う武器の価値に合った値段を払えって事。あの人が言うには、『金には価値は無い。金を稼ぐのに掛かった苦労こそが価値だ』とかなんとか、独自の感覚を持ってるのよ、彼」


 だから行ってすぐにお金が必要になる訳じゃない、と告げる服屋の女店員。


 ……そういう事なら、それで良いのか? オレは未だに良く分かっていないながらも無理やり納得し、服の事を改めて考えた。


 ……うん。銀貨五枚なら問題ない。それにもし武器を打って貰えたとして、武器ってそんなすぐ出来るもんじゃねえだろ。


 宿にも泊まれるし、金は稼げるはずだし……問題ないな。


「じゃあオレのふく、つくってくれ」


「了解よっ! うふふ、可愛らしいお客さんはホントに久しぶりっ、ボクに似合うかっこかわいいのを作らないとねぇ」


「……?」


「うふふへへ……お肌すべすべだったわぁ、それによく締まってて……そこらのデカブツどもとは大違いねぇ……」


「ひっ……!」


 なんか、ギラギラとした目が怖い。背筋がゾクってした。


 ってかなんだこいつ。この雰囲気、一介の店員って感じじゃねえ……もしかしてこの店って、こいつの……。


「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね、可愛いお客様。


 ワタクシは服飾組合戦裁士、ロルケット。このお店の店主をしているわ。あなたのお名前は?」


「……おまえ、店主かよ」


 店員さんじゃなくて店長さんだった。

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