再びの対峙
ようやくたどり着いた森の奥地。
俺たちの住んでいる小屋のある地点から、歩いて数時間の地点に存在する大岩。
その正面にぽっかり空いた洞窟を前に、気を引き締めて隣で同じように立つフウへと目配せをする。
あれから数日間、俺たちは改めて互いの戦力のすり合わせや、その他色々と、気持ちを交わし合ったりした。
フウからすれば、俺とは一時も離れず一緒に行動していたし実際にそうなんだけど、俺からすればそうではない。
涙が流れてしまう程の膨大な経験の末にようやく再開した俺からすれば、フウの存在が如何に大きいかを再確認するには十分だった。
「行くよ! 魔導陣、『吹き荒べ』!」
「おう!」
俺たちは一心同体……とまでは言わないけれど、二人の絆は高まっているはずだ。
フウは俺に依存している。それは俺も知っていた事だけど、俺の方も、少しだけフウに依存していた。
なのに俺はフウの事を信じれていなかったのかもしれない。フウは子供だからって、前からもこれからも、ずっと俺はフウのにいちゃんだから、俺が全てを解決しないといけないんだって考えて。
そしてフウへと無理に着いていった結果、俺を信じたフウは俺を庇う事に躍起になって不況へ立たされる事になるんだ。
俺は、フウを信じる事にした。
「グゥゥゥゥッッ……!!!」
「来た!」
「オレがでるっ!」
警戒しながら黒獣との交戦地点へ調査に出かけ、やけに嗅覚が鋭くなったフウが、あの時手傷を負わせた黒獣の匂いを感じ取った。
それからフウを頼りに後をつけ、時間をかけてようやく特定したのがこの場所だ。
先手を打って俺が増幅させた風の魔術を打ち込むと、ぽっかりと大口を開けた深淵の中から大量の埃や千切れた枯草と共に、地の底から響くような聞き覚えのある重低音が響き渡る。
俺は死ぬのは絶対に嫌だ。フウが死ぬのだって耐えられない、そもそもフウが死ねば俺も死ぬのだからどっちにしろ嫌だ。
今だってフウを戦地へと向かわせるのは物凄く怖いし嫌な事だとは思っている、けど、割り切る事に決めたんだ。
少なくとも俺が先陣を切るよりは、フウに行かせた方が良い。それに、フウは……。
(ああ、楽しそうだなぁ)
戦いのときのフウは生き生きしているんだ。
一緒に遊んだり、テレビを見たりゲームを見たり。そういう時だって明るい笑顔を見せてくれているけれど。
少し乱雑で野性的な、剥き出しの刃物のような笑顔。本性と言ったら聞こえは悪いけれど、間違いなくこれもフウの一面。
日本じゃ許されなかった暴力的な思考回路は、ここでなら十二分に開放できる。きっとそれは、フウにとっては良い事だ。
その首にあるのは無骨な首輪、時折光を離すソレと対になっているのは俺の右腕の腕輪。
フウ曰く、俺との主従の証……らしい。いや、まだ俺、フウの事をペットだなんて認めてないし、これから認める気もないけどな。
でも、フウのストッパーにくらいはなってやろうと思っている。
「フウ! 中を照らすからちょっとだけ眼ぇ瞑って!」
「おけ!」
だから俺もやるべきことをやろう。自分がどれだけ無力な存在なのかは良く分かっているつもりだ。
いくら魔導の力を得たとはいえ、あの終末世界の人類たちのように科学の力で大量に陣を複製して核兵器のような威力を発揮させられるわけでもあるまいし。
ある程度の力は使えるし、これからもきっと力はどんどん強くなっていく。けどそれよりもきっと、フウを強化する方が効率が良い。
効率、そう、効率だ。俺の辿り着いた答えが、俺たちをこんな目に合わせた元凶である声の主と同じであるというのは何だか気分が良いものではないけれど、俺も俺でフウの為に、試行錯誤を繰り返していこう。
「魔導……いや、陣は必要ないか。『長く照らせ』」
「グギャァァ!!」
「すきあり!」
眼が眩み怯んだ黒獣、その隙を見逃さずにフウは行動を開始した。
フウの両腕両脚から白い文様が浮かび上がり、腕輪のように円柱を描きながら回転をし始める。
その身体に施した陣の数は七つ。両腕両脚、そして腹部と背中、おまけに尻尾。
両腕と両脚、尻尾の陣は正の方向、フウの攻撃や行動の威力を高めるように。
お腹と背中の陣には負の方向。受けた衝撃を軽減し、更には衝撃に観応して自動的に発動する機構も書き加えた。
今の俺に出来る、出来る限りのバックアップ。
しかも天才的な才能を持ちながらも努力を苦にも思わないフウは、その扱いをこの短い期間で調整しきって見せた。
まるで何処かの民族の少年戦士のようなその身体から繰り出される技は、ただでさえこちらの世界に来てから上がった身体能力以上のとてつもない威力となっている。
フウはあの黒獣と片足を、当時の本気の蹴り三発で折って見せた。なら今ならどうだろうか。
増幅率は陣の大きさに比例する。フウに取り付けた大きさだと、腕部はせいぜい数十パーセントと、脚部と尻尾は二倍いったところだろう。
けど、それでも十分過ぎる。
「せいっ!」
「グギィ!?」
「もっかい!」
「ブゴォ!」
姿勢は低く這うように。
強靭な脚力から生み出された推進力は一直線に獣の懐へと入り込み、そのまま身体を伸ばした勢いのままに獣の顎へとアッパーを繰り出した。
その拳は一寸狂わず獣の頭を上へとかち上げ、すぐに崩れ落ちるように再び体制を低くしたフウは身体を回転させながらもう一度頭へ、今度は脚で蹴り飛ばす。
悲鳴を上げながらその巨体を横に倒し、けれどその大きさからは想像もつかない俊敏さで身体を翻すと、敵意剥き出しの唸りと共にその身体から闇色の靄、いや、魔素が噴出され始めた。
「さあ、フウ! 今からが本番だよ!」
「よっしゃぁ! こんどはぶったおしてやる!」
今度こそ、初めての障害を二人で乗り越えてやる。
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