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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
黒影と深森の練習曲
34/56

怒鳴り合って抱き合って

 ふわふわと浮かんでいたような意識が覚めて、鋭い日差しが瞼を貫通して視界を薄肌色に染めていく。


 ……あれ、片手の感覚が……っ、まさかっ!


「っ! ……あ、あれ……ここは……」


 くすんだ木材の壁、隙間から緑が侵食してきている床。見覚えのある窓代わりの孔からは、俺を起こした日差しが部屋を照らしている。


 そして、俺の感覚がない腕に目を向けると……。


「すぅ……すぅ……」


「っ、あ、そっか……俺……」


 戻って来てたんだ。


 俺の腕を抱くようにして、身体をギュッと寄せて眠るフウが俺には天使に見える。


 少しだけ涎が垂れて俺の腕に付いているけど、痺れているせいで感覚がない。


「んぅぅ……ふへへ、にー、ひゃん……」


 ……あはは、可愛いなぁ。うん、この寝顔は守らなくちゃね。


 寒くないのかな……俺もそうだけど上を着ていないし、やっぱり俺もだけど下だってほぼ一枚だけ。


 ……まあ人肌は温かいって言うし、問題はないか。実際この生活だと温まれるものってお互いくらいだ。


 そっと頭を撫でてコリコリとした耳の感触を楽しむ。んん……とくぐもった声を上げながら、俺の腕をより強く締め付けるフウは、本当に愛らしい。


 けど、そろそろ腕を離してもらわないと……。


 こっそり引き抜こうとするけれど腕が動かない。仕方がないから反対の手を使って自分の感覚のない腕を引っ張り、何とか引き抜いた。


「……あ゛ぁ、この気持ち悪い感じ、久しぶり……」


 痺れた腕が戻るときの、過敏な腕を無理やり引き攣らせたような耐え難い感覚を歯を食いしばって堪えると、徐々に熱くなってくる。


 少しして腕の治った俺は、そのまま眠るフウに向き直ると頭の下に優しく腕を差し腕枕にしながら、小さな身体を優しく抱きしめた。


「フウ……ふうぅ……俺、頑張ったよ……!」


 褒めてとは言わないけれど、こうやって可愛がるくらいは許してほしい。


 だってずっとフウの事を心の支えにしてたんだから、今の俺にとってフウはまるで信仰対象のようにも思えてしまう。それもうんと身近な対象だ。


 あー、やばい。また涙が滲んできた……フウ……会いたかった……。


「んみゅぅ……あぇ? にぃ、ちゃん……?」


「……あ……フウ、お、おはよ……」


「に、にいちゃんっ、にいちゃぁん!」


 一瞬だけ眠気眼を見せたフウだけれど、すぐに眠気を吹き飛ばしたのか叫びながら俺の身体にしがみついてくる。


「シンパイしたんだかんな!? 突然たおれて、にいちゃん元気だったのに、なのに、なのにぃ!」


「……ごめんね、フウ……また俺心配かけちゃったかぁ」


「あたりまえだろ! だってにいちゃんいなかったらオレ、どうしたら良いのかなんも分かんないもん!」


「フウ……」


「オレはっ! にいちゃんがいなきゃダメダメなんだっ。


 にいちゃんは知らないかもしれないけど、人とはなすのだってニガテだし……あとあと、たまにケンカとかも、するし……」


「……っ、ほんとに、おまえは……っ」


「おねがい……っ、危ないこと、しないで……!」


 なんでそうやって人への依存を隠そうともしないのか……重い、気持ちが重いよ、フウ。


 けど俺は、にいちゃんはなぁ、それが嫌じゃないんだ。


 もう何年もそうだったからなのか、それとも俺がそういう性格なのかは分からないけど。


 でも、それでも俺は、そのフウの願いには答えられない。なんだよそれ、自分勝手すぎるんだよフウは。


「イヤだよ、フウ」


「え……? オレの、おねがい……きいてくれねぇの……? やだよオレ、にいちゃんがあぶないこと、するの……!


 にいちゃんが危ないことしたら、すっげーやなキモチになるんだっ! シンパイでシンパイで、もうどーしょーもなくなってっ──」


「それはフウだって同じだろ!」


「っ!」


 思わず漏れた叫び声は自分で思っていたより大きかった。


 目の前のフウへと叩きつけるように怒鳴り、けど身体はより強く引き寄せ互いの身体を潰し合う。


「フウはいっつもいっつも危ない事ばっかりして……! あの黒いのと戦ってた時だってずっとチャンスを伺ってたんだろ!?


 もし反応されてたら? 爪を振るわれて身体を切り裂かれてたら!? 現に一回肩の所食い千切られて、同じような事になったらどうする気だったの!?


 確かに俺は頼りなかったさ、だからってフウが俺を守ろうとして危険な目に合うのは耐えられない……!


 俺は怪我を治せるけど何処まで出来るかもわからない、だから俺はっ──!」


「だって! にいちゃんはオレがこっちにつれてきちゃったんだ!」


 フウも俺に感化されたのか、どんどん声が大きくなっていく。


 自分の罪を吐き出すように俺の首の下に額をぐりぐりこすり付けて。声の振動が胸に響く。


「だからオレがまもるんだ! つらいことは、ぜんぶオレがせおうんだ、オレ身体をうごかすのはトクイだからっ、あぶないことはぜんぶオレが!」


「それが俺は嫌なんだってば! 俺の見てないところで大怪我してさぁ! あの時、変だと思って探しに行かなかったらどうなってたと思ってんの!?」


「オレだってやなんだよ! にいちゃんすっげぇあぶなかったじゃん!」


 本当に分からず屋だ。なんで俺の言う事をこういう時に限って聞いてくれないんだ。


 いつもは何でも聞いてくれる癖に。静かにしてほしい時は言えば静かにしてくれるし、何かをする前には何でも俺に許可を求める。なのにこういう時に限って!


「うぅぅぅぅっ!」


「……ぅぅ!」


 けどきっとフウも同じことを考えているんだろう、オレの肩を掴む手が少し痛い。


 何でも言えば叶えてくれる癖に~って、お願いすれば良いよって言ってくれるのに~って。


 ……そう、そうだよ。俺たちはそうやって、お互いのお願いを叶え合ってたんだ。


 けど今回だけはダメだ、俺を危険から遠ざける? ふざけるな、俺の気持ちも考えないでそんな事、認められるはずがない。


「フウ、俺に飼って欲しいって言ったよね。それで首輪も付けたよね」


「つけたよ!? だからなにさ!」


「俺のペットだって言うんなら、飼い主に心配かけんなよ! 俺はっ、フウが大事なんだからさぁ……!」


「っ、に、いちゃん……! な、なんで泣いてんだよ!」


「フウが言えた事じゃないでしょーが!」


 フウだって泣いてるんだ、黄土色の瞳に水晶のような涙の膜を張り、キラキラ輝くそこから同じく輝く筋が顔を伝っている。


 怒ったような悲しいような、そしてほんの少しだけ嬉しそうなその表情。


 なんだかもう、堪らなくなって。もう一度その顔を胸の中に抱きしめた。


 そうだ、だったら話してやろうじゃないか。俺がフウの為にどんな事をしてきたのか、全部話してやろうじゃないか。


 辛かったんだ。それを耐えて戻って来たんだ、ちょっとくらい自慢しても、同情してもらっても良いだろう?


 フウの言ってることに自分でも少し納得してる部分はある。だって俺は現に弱かったんだから、危ない事から遠ざけようとするのは分かる。


 だったら、俺が強くなったって事を知って貰えば手っ取り早い。


 温かくて、すべすべな……信じられないくらい抱き心地が良いフウを更に抱き寄せて、むぎゅぅと変な声が出そうになるくらいに引き締めて。


 身体と一緒におでこと鼻も突き合わせ、互いの息がかかるくらいの至近距離でフウの瞳と見つめ合う。潤んだ瞳には純度百パーセントの俺への優しい感情が見て取れた。


 そうして暫く、多少の息苦しさは感じながらも二人とも少しだけ落ち着いた頃、フウがもう一度背中に手を回してくれた時。俺は折を見て声をかける。


「ね、フウ……俺の話さ、聞いてよ。それで判断して?」


「ずずっ、はなしって、なんだよ……」


「俺が、フウの隣で戦うために、なにしてきたのか」


「……?」


 腕の中でもがき、けど離れようとしないフウ。手のひらに感じる素肌の感覚が少しだけ汗ばんで来ているけれど、そんなのも無視して。


 そうして俺の胸へと縋りつく小さな獣へと語り出した。終わった世界の話と、この世のモノとは思えない地獄の三日間を。

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