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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
黒影と深森の練習曲
32/56

side:フウカ オレの知らない力

「にげろぉ!」


 オレの前いた地球じゃ動物園にでも行かないと見られないくらいデカくて真っ黒い獣。


 杭みたいな牙と刃物みたいな爪を持つそいつは突然黒い塊を吐き出して、それがまた凄い速度でオレの大好きなにいちゃんの所に向かっていくんだ。


 声の限り叫んだのに、にいちゃんは目を見開いて前を向くだけ。手が、手が届かないっ……!


「くッ」


 オレがにいちゃんを守らないといけないのに。


 確かに初めてこいつと出会っちまった時はオレ、びっくりしたのとちょっと怖かったので肩を食われちまったけど……でも今はにいちゃんが居るから怖くなかった。


 怖くなかったから今度こそ倒せると思った。確かにこいつ、意味わかんないくらい硬いけど……オレも強くなってるし、退治できると思ったんだ。


 だからにいちゃんを危ない目には合わせたくなかったけど一緒に行くって言って聞かないし、それに魔法みたいなのも使えるから、一緒に来てっ……でも、こんな事になるんだったら……!


 歯を食いしばって精一杯に伸ばした手は空気しか掴まない。


 にいちゃんに当たる、にいちゃんがケガをする。にいちゃん、にいちゃんっ!


「……魔導陣っ」


「え?」


 なのに、オレが恐れていた瞬間はやってこなかった。


 突然にいちゃんが叫ぶとすぐ目の前、闇の玉の向かう先に現れたのは薄い白に輝く丸い……魔方陣?


 うん、魔方陣だ。よくあるファンタジーとかに出て来るアレ、アニメとかで見たやつ。


 でも、なんでにいちゃんが……? そんなの使えるって聞いてない、にいちゃんがオレに秘密にしてるなんて無いだろうし。


 少しだけ俯いていたにいちゃんの顔が上がると、黒い獣を視認してからカッと目を見開いた。


 地面から土を一握り掴んだにいちゃんは、すぐに後ろにジャンプしながらその魔方陣に向かって土を投げた。


「ギャァァァ!?」


「す、すげぇ」


 普通の力で投げられた土くれは魔方陣を通った瞬間凄い勢いで弾丸のように獣へと飛んでいく。


 あの頑丈な獣が思わず叫び声をあげて、にいちゃんと同じように後ろへ飛び退ったけど少しだけ身体に当たったみたいで、冷徹だった瞳が少しだけ揺れた。


 何だあれ、なんで最初からアレを使わなかったんだ? そうすれば、あんな危ない事にはならなかったんじゃ……。


 オレはその事を確認しようとにいちゃんに話しかけようとして、けどその顔を見て息を呑む。


 凄く、見た事が無いくらい怖い顔をしてるんだ。


「に、にいちゃ……」


「ふーッ、魔導陣、『吹き荒べ(イド・ブレア)』!」


 再びにいちゃんが叫びながら手を突き出す。


 一瞬だけ手が緑色にピカッと光ったと思ったら、薄く白色に光っていた魔方陣が輝いて、細い草を千切ってしまうような衝撃波が獣へと向かっていった。


「ギュァ!? グァァァアアアア!!」


「な、なにあれ……」


 けどその衝撃波に対して獣は大きく吠えて、あの時にいちゃんに攻撃した黒い靄みたいなのを出現させる。


 それが目の前で集まって、半透明の黒い壁が衝撃波を受け止めた。


 衝撃波が散らされて周りの草を吹き飛ばす。けど黒い獣には傷一つない、ただにいちゃんの事を忌々しそうに見つめるだけだ。


 ……今なら行けるんじゃないか? アイツはにいちゃんに夢中で隙だらけ、オレはこっそり回り込むと、クラウチングスタートのように身をかがめて尻尾も使って加速の体制を整えた。


 にいちゃんはまた何かをやろうとしている、今度は手が青色に輝いた。


「魔導陣……っ」


「グァァァ!!!」


 それと同時に獣側も何かを感じ取ったのか、再び黒い砲弾を作り出してにいちゃんの方へと放つ姿勢を整える。


 にいちゃんは……多分大丈夫だ。あの白い魔方陣が黒いのを受け止めるのを最初に見た。


 だったらオレが突っ込めるタイミングは……今ッ!


「『飛び穿て(ワス・ドゥーチ)』!」


「っ……! やぁッ!」


「グルぁ!? アギャッ!」


 石ころを投擲するくらいの勢いで飛んだ黒い玉と空を割く勢いで放出された水流がぶつかり合い、無防備になった獣の負傷した脚へとオレは突っ込む。


 下半身のバネを開放し全速力を生み出しながらも低い姿勢は崩さず、身体を小さく旋回させて下半身を獣へと向けると地面に両手を付いた。


 頬が地面と擦れてしまいそうなほど地面に近づいた低い体勢から、全体重と勢いを乗せた渾身の踵をぶち当てる。


 にいちゃんの放った水も獣の身体に衝撃を与えて、オレは自分の身体が濡れるのも気にせず脚を振りぬき、硬いものを砕いた。


「くぅっ、かてぇ……! けど、折った!」


 間合いの外から身体全体を使って技を放つってのは、オレが習っていた武道で最も一般的なものだ。


 旋回しながら攻撃を躱し、その勢いを身体の捻りを使って更に威力を高めながら相手に放つ。


 オレの身体はちっちゃいから、でっかい相手と戦う時はどうしても出せる限界の力ってのに差が出来ちまう、ハンデになっちまうんだ。


 だからこそ小さい身体を利用して、身体がデカい奴には出来ないような大きな動きをしなきゃいけない、そうする事でようやくオレのハンデは埋まってた。


 けどこっちに来てオレの身体はすっごく力強くなったんだ。だから、自分でも信じられないような攻撃をバンバン繰り出せる。


 それが凄く楽しくて、身体を慣らすために練習を重ねて……今、ようやくそれが実を結んだ。


 得意げになってにいちゃんを見ると、どういうわけだかこちらを凝視している。


 ふるふる唇を震わせて、何かを言いたげなにいちゃん。


 いや、そんな場合じゃないから! またアイツが襲ってきたら……!


「グガァァァ……! ギャウ!」


「あっ! にげた!?」


 なんだ、杞憂に終わっちゃった。にいちゃんは逃げるの分かってたとか?


 こんなすげぇ事出来るにいちゃんならおかしくないけど……いや、おかしい所多すぎるな。


 走り去る黒獣を睨みつけて、姿と気配が完全に消えるまでその場でじっと構えを解かない。


 暫くしてようやく消えたのを確信したオレは構えを説いてにいちゃんに駆け寄ろうとそちらを向いた。


 その瞬間、オレは全身を大好きな感触で包まれる。


「わぷっ!? に、にいちゃん!?」


「ぁ……ふ、う……!?」


「え、にいちゃんどうしたん……っ、な、なんで、そんなか顔……え、ないてんの……?」


 突然にいちゃんから抱きしめられて、嬉しかったけどなんでか良くわかんなかったから顔を見上げると、にいちゃんは泣きながら笑ってるみたいな、信じられないものを見るような、そんな目でオレを見つめる。


 元々綺麗だったけどこっちに来て余計綺麗になった緑色の目に反射するオレの顔は、戸惑いそのもの。


 なんで、こんな顔してんだろ。にいちゃん、どうしたんだ……?


「よ、かった……あ、あは、ははは……」


「え? にいちゃん? にいちゃん!?」


 突然にいちゃんの身体が崩れ落ちて、その場に倒れ込む。


 地面に顔をぶつけちゃう前に急いでその身体を抱き留めて、その場で仰向けに寝かせた。


 なんで、なんで突然倒れたんだ……!? 


 パニックに陥りそうになったけど、とにかく大丈夫な事を確認するために胸にほっぺをくっつけて、心臓の音を確かめた。


 とくん、とくん……一緒に寝てた時と同じようなペースで脈打つ鼓動。大丈夫、死にそうな感じじゃない……息も、してるな。


 あの黒い獣はどっかいった、ここから家までは……まあ、何とかなる距離だな。


「にいちゃん、落としたらごめんな……? よぉっ、っとと、う、にいちゃん、でけえ……」


 不格好だとは思うけど、なんとかにいちゃんを背負ってオレは元来た道を戻る。


 にいちゃんが起きたら、アレがなんだったのか聞かないと……。


 オレを心配させるなんてにいちゃんめ、あとでいっぱい叱ってやるんだ。

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